第五章 新たな活路を
「良し、彼らの陣形のど真ん中に現れてやろう」
レンの短くも過激な指示に、ブリッジの空気が凍りついた。
カレンは操縦桿から片手を離し、呆れたようにレンを振り返る。
「真ん中にって……司令らしくないけど。いくらなんでもそれは無茶よ。今の艦の損傷で『包囲網の心臓部』に飛び込んだら、ハチの巣にされるのがオチじゃない」
アルトも不安げに眉をひそめる。
「レン、彼らは『自分たちの家を取り戻しに来た』と思っているんだ。そんな無防備な場所に飛び込んだら、対話の余地すらなく即座に排除されるぞ」
レンは冷徹な眼差しを変えることなく、コンソールに映し出された敵艦隊の複雑な動態グラフを指差した。
「奴らの弱点は、アルトの言う通りエネルギー不足だ。要塞群は動力源を共有し、巨大な『吸引網』を作り出している。
だが、それはあくまで外側からの干渉を防ぐための防御壁だ」
レンの口元に、微かな笑みが浮かぶ。
「逆に言えば、その『吸引網』の中心部は、エネルギー供給が最も集中している場所であり、同時に……一度過負荷をかければ、連鎖反応でシステム全体をダウンさせられる唯一の脆弱点でもある」
「なるほど……!」 エンジニアのミサキが、レンの意図を察して目を見開く。
「中心部なら、彼らも自爆を恐れて迂闊に主砲を撃てない。だからこそ、私たちがそこに『割り込む』わけね」
「その通りだ」 レンは短く頷き、エコーに向き直った。 「エコー、彼らの陣形をかいくぐるための、最も『派手で、かつ彼らが予想しない』ルートを計算しろ」
エコーは帽子を被った少年の姿で、ニヤリと悪戯っぽく笑った。
「了解しました、司令官。彼らのレーダーには、我々の艦が『自滅覚悟の突撃』ではなく、『彼らのエネルギー網をハッキングしに来たウイルス』だと誤認させるデータを流します。彼らは驚いて、一瞬だけ網を緩めるはずです」
「カレン、準備はいいか?」
レンの問いに、カレンは操縦桿を強く握り直した。
先ほどまでの不安は消え、パイロットとしての闘争心が瞳に宿る。
「……司令らしいと言えば、随分と血の気が多い作戦ね。いいわ、やってやるわよ。最高の舞台へ連れて行ってあげる!」
「アルト、彼らへの通信回線を開き続けろ。中心部に到着した瞬間、彼らの『正当な権利』と、我々の『生存の意思』を突きつける。――交渉ではない。我々の提示する『第三の道』だ」
「第三の道、か……」 アルトは頷き、コンソールのボタンに指をかけた。
スター・ガーディアンが、静寂に包まれたデブリ帯を蹴り出し、敵艦隊の密集する中心部――「吸引網」の牙城へと向けて、狂気じみた加速を開始した。
銀河の果てで、人類と古き亡霊たちの運命が、ゼロ距離で衝突しようとしていた。




