第四章 新たな情報
ブリッジの修復作業を終えたミサキが、手際よくハンダごてのスイッチを切った。
冷えきった艦内に、静かな安堵が広がる。
「司令、各部破損箇所修繕完了。エンジン出力、定格の95%まで復旧。これなら、いざという時の急旋回にも耐えられるわ」 「分かった。ミサキ、お疲れ様」
レンは管制コンソールに視線を戻した。
その隣では、AIのエコーがいつもの軽快な動きを止め、珍しく「重苦しい」表情で宙に浮いている。
その周囲に展開されたデータウィンドウには、見たこともない複雑な演算式が渦巻いていた。
「エコー。解析情報と、その『意外な事実』とやらを報告しろ」
エコーは小さく頷き、ホログラムの光を強めた。
ブリッジの中央に、巨大な星系の構造図が投影される。
「……はい、司令官。まずは解析結果から。彼らが我々を追い詰めた際、あえて攻撃しなかった理由が判明しました。彼らの艦隊は、戦うためのエネルギーすら枯渇しかけているのです」
「枯渇だと? あの巨大要塞を動かしているのにか?」 アルトが驚きの声を上げる。
「ええ。彼らの要塞は、エネルギーを産み出すのではなく、『他の星系から吸い取っている』のです。彼らがバーナード星系を目指していたのは、そこが最も効率よくエネルギーを吸収できる『ゲート』になり得るからでした」
エコーはさらにデータを展開した。そこには、赤黒く変色した星々の並びが、歪な円を描いている。
「そして……こちらが『意外な事実』です」
エコーが提示したデータに、全員が息を呑んだ。
それは、彼らの文明がかつて保有していた「設計図」の断片だった。
そこには、太陽系の地球と酷似した地形データが刻まれていた。
「彼らは我々の星を侵略しに来たのではありません」 エコーの声が、ブリッジの空気に深く染み渡る。
「彼らは、かつて『地球から追い出された文明の末裔』なのです。数百万年前、大災害によって太陽系を捨て、銀河の果てへ逃げ延びた……。彼らにとって、我々人類は『かつて自分たちの家だった場所』を無断で占拠している、後継者という名の『不法侵入者』だったのです」
ブリッジに、再び重苦しい静寂が訪れた。レンは深く背もたれに寄りかかり、天を仰ぐ。
「……つまり、我々が守ろうとしている故郷は、彼らにとっては『奪われた正当な権利』であり、我々が手にした文明の発展は、彼らの犠牲の上に成り立っている可能性すらあるというのか」
レンの瞳に、冷徹な戦略家としての色が戻る。彼にとっては、感情よりも「歴史的な事実」が突きつけられたことの重さの方が、今の戦況をより複雑にしていた。
「アルト、ミサキ、カレン。……我々は今、ただの生存競争ではなく、惑星規模の『家宅立ち退き訴訟』に巻き込まれているようだ」
レンは冷ややかにそう切り出し、コンソールを力強く叩いた。
「エコー、彼らの要塞の動力源、その『心臓部』の場所を特定しろ。話し合うにしても、圧倒的な戦力差を突きつけた後だ。……チェス盤をひっくり返す準備はいいか?」




