第七章 誤解の果て
通信画面に映し出された敵指揮官の面影が、驚きに目を見開いている。
その直後、エコーが艦内スピーカーをジャックし、いつもの悪戯めいたトーンとは全く違う、切迫した声で叫んだ。
「司令、アルト、皆さん! 攻撃の意思なし! 奴らの砲門が格納されました!」
ブリッジのモニター越しに、周囲を埋め尽くしていた無数の重砲が、まるで花が閉じるように静かに装甲板の奥へと沈んでいく光景が映し出された。
「えっ……何が起きている?」 アルトが呆然と呟く。さっきまでの殺気立った空気は何だったのか。
エコーはホログラムの姿を激しく明滅させながら、翻訳された通信データを即座に画面に表示した。
「通信が入りました。……『我々は、バーナード星系へのワープゲートを開くために集結していたのです。突然、未知の艦船が出現したため、我々も自衛のために警戒し、貴殿らを攻撃対象と誤認してしまいました』」
「誤認……?」 カレンが呆気にとられて操縦桿から手を離す。
「じゃあ、あの重力子ビームによる牽制も、すべて『防衛』のためだったの?」
レンは眉間に深く皺を寄せ、敵指揮官の顔を見つめた。 「バーナード星系へ行くためだと? ……我々が最初に向かおうとしていた、あのバーナード星へか?」
通信音声には、かつての地球の言葉の響きが混じっていた。
「……我々の文明の末路。それは資源の枯渇ではありませんでした。この銀河の反対側に閉じ込められた我々は、唯一残された『帰還の門』であるバーナード星のゲートを開くために、全エネルギーをこの要塞に注いでいたのです。君たちの出現は、我々にとって、ゲートが開く寸前の最大の混乱でした」
ブリッジに、静寂が戻る。
しかし、先ほどまでの「死の恐怖」とは違う、何とも言えない困惑と安堵が入り混じった空気だ。
「……つまり、私たちは敵同士ではなく、同じ目的地を目指す道連れだったというのか」
レンが苦笑混じりに呟く。
「司令官、どうしますか?」エコーが帽子を弄りながら尋ねる。
「誤解が解けた以上、彼らは我々の船を『不法侵入者』ではなく『同じゲートを潜る旅の仲間』として招待したいと言っていますよ。……あ、でも、食事のメニューには期待しない方がいいかもしれません。
彼らの保存食、見た目がちょっと……灰色で、いかにも不味そうですから」
「エコー、……後で食糧庫の在庫を確認しておく」 レンはそう言い捨てると、まっすぐにモニターの先の敵指揮官を見据えた。
「我々はバーナード星へ向かう。貴殿らの目的と合致するのなら、これ以上の争いは不毛だ。……道を開けろ。我々が先導し、ゲートの突破を支援する」
冷徹な戦略家は、ここで「侵略者との共存」という、アルトが夢見た理想を、極めて現実的な「利害の一致」として受け入れた。
銀河の反対側で、人類と古き亡命者たちの艦隊が、再び輝きを取り戻した「ゲート」を目指して並び立つ。
絶望の淵から始まった旅は、今、新たな銀河の歴史へと向かう大行列へと姿を変えた。
『宇宙の反対側で』をお読みいただき、誠にありがとうございました。
(一部完)




