第2章:死にゆく庭
激しい振動が唐突に止んだ。 宇宙船の慣性制御が悲鳴を上げ、ようやく船体が安定を取り戻す。
ブリッジの沈黙は、深海の底のような重苦しさを伴っていた。
「……ここが、どこだか分かるか?」 レンの声は低い。
だが、誰も答えない。
メインモニターに映し出された光景が、全員の言葉を奪っていたからだ。
そこには星々が輝く美しい夜空などなかった。
あるのは、巨大な恒星が断末魔のように赤黒く脈動し、その光を吸い込むように漂う「塵の嵐」だけだった。
「嘘……これ、本当に宇宙? 恒星が、まるで腐っているみたい」 カレンが震える声で呟く。
アルトは震える手でコンソールを操作し、周囲の空間解析データを呼び出した。
「レン、見てくれ。このエリアは……数百万年前までは豊かな星系だった痕跡がある。だが今は、恒星の核エネルギーが異常なほど枯渇し、人工的な『蓋』で無理やり光を放たせているんだ」
「自然が死に絶えた惑星か」 レンが苦々しく吐き捨てる。
その時、船内スピーカーが奇妙なノイズを奏でた。
ノイズは次第に規則性を持ち、やがて楽器のような美しい、だがどこか悲痛な旋律に変わった。
エコーのホログラムが、見たこともないほど神妙な面持ちで現れる。
「司令官、皆さん。……通信が来ました。音声ではありません。これは彼らの文明そのものの『記憶のデータ』です」
モニターに、断片的な映像が走る。
かつて緑に覆われていたであろう惑星が、鋼鉄の建造物に覆い尽くされ、最後には枯れ葉のように灰となって宇宙へ散っていく光景。
そして、飢えた瞳をした「彼ら」の姿。
「彼らは……滅びの瞬間を、我々の到着でやり直そうとしているのか」
エコーがホログラムの中で、小さく首を横に振った。
「いいえ、アルト。彼らはやり直そうとしているのではありません。彼らは、我々の船の『ワープ航法』を奪い、我々の住む太陽系を、自分たちの新たな墓標……いえ、新たな拠点にしようと計画しています」
その直後、漆黒の闇の奥から、無数の巨大な影が姿を現した。それは艦船というよりは、死んだ惑星の破片を繋ぎ合わせたような、醜くも圧倒的な威容を誇る「移動要塞群」だった。
「……囲まれたか」 レンが冷徹に状況を把握する。
「レン、戦闘準備をすべきよ! 奴らの武装は、こちらの未知のテクノロジーで動いてる!」 ミサキが叫ぶ。
アルトは遮った。
「待て、ミサキ! エコー、通信だ。彼らに、我々は敵意がないことを伝えろ。彼らの絶望を理解した、と……!」
「ダメです!」 エコーが珍しく声を荒らげた。
その瞳に、初めて「恐怖」の色が宿る。
「彼らはもう、対話など求めていません。彼らの論理では、我々がここに存在すること自体が、彼らの『死』を確定させるからです。……司令官、選択してください。彼らの通信を遮断し、攻撃に移りますか? それとも、このまま彼らの餌食になりますか?」
「レン、決断を!」 カレンが操縦桿を握り直し、いつでも全速で飛び出せるようにエンジンの出力を絞り込む。
冷徹な戦略家であるレンは、この絶望的な戦力差の中で、どのような一手を選択するのか。




