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第13話 ありえない人物と取り乱す三人

「澪……?馬鹿な、なぜ……」


 私は信じられない思いで目を凝らした。


 黒いジャケットに身を包み、凛とした立ち姿でこちらを見つめている。だが、私の視線は彼女の顔よりも先に、その首元へと吸い寄せられていた。

 彼女の細い首には、父からもらったあの特注のオパールのペンダントが掛けられていた。薄暗い照明の光を浴びて、それは確かに七色の妖しい輝きを放っている。間違いない。私が探し求めていたものだ。


「澪……!」


 倉庫の中央にいた成樹が、思わずといった様子で叫んだ。かつて警察官としてバディを組んでいた妹の姿を前に、彼の声には明らかな驚愕と動揺が混じっていた。

 しかし、澪は成樹の呼びかけには一切応えようとしなかった。彼女は感情をまったく読ませない涼しげな目元のまま、ただ無言で右手を軽く挙げ、指先で小さな合図を送った。


 その瞬間だった。


 バチバチッという激しい音と共に、倉庫内に設置されていた無数の大型照明が一斉にたかれた。


「動くな!警察だ!」


 眩い光に視界を奪われる中、四方八方から怒号が飛び交った。開いたままになっていた搬入口や、奥の通路から、防弾ベストに身を包んだ多数の刑事たちが雪崩れ込んでくる。重いブーツの音がコンクリートの床に響き渡り、彼らはあっという間に倉庫を包囲し、中央にいる成樹を取り囲んだ。


「なんだと……!」


 成樹は舌打ちをし、周囲を囲む刑事たちを睨みつけた。

 隠れていた私たちの元にも、複数の足音が容赦なく近づいてきた。


「そこの二人!隠れていても無駄だ、両手を挙げて出てきなさい!」


 強烈な懐中電灯の光が、私ともみじの顔を明るく照らし出した。

 私はもみじを背中に庇うようにして立ち上がったが、すぐに数人の刑事に腕を掴みかかられ、強引に倉庫の中央へと引きずり出された。


「離して!なんなのよ!」

「もみじ!大丈夫だ、抵抗するな!」


 私たちは刑事たちに乱暴に誘導されるまま、澪の目の前へと連行された。


 煌々と照らされた倉庫の中央。

 私ともみじ、そして成樹の三人は、完全に逃げ場を失い、ひどく混乱して取り乱していた。周囲には何十人もの刑事たちが油断なくこちらを取り囲み、重苦しい威圧感を放っている。


 私は荒い息を吐きながら、目の前に立つ妹へともう一度視線を向けた。


「澪……本当に、澪なのか……?」


 私は震える声で言葉を紡ぎ、一歩前へ踏み出そうとした。隣の刑事に肩を強く抑えられたが、構わず妹に向かって呼びかけた。


「生きていたのか……!ああ、よかった……本当によかった……!でも、一体どうやって……」


 私は顔を両手で覆い、肩を震わせながら、涙ながらに安堵の言葉を漏らした。

 私の声に呼応するように、成樹もまた、ひどく震えた声で澪に語りかけた。


「澪……お前、無事だったんだな。俺はてっきり、死んだのだと……!」


 私と成樹は、澪が生きていたことを心の底から喜んでいるかのように、必死に言葉を並べ立てた。


 だが、私の隣に立つもみじだけは違った。

 彼女は血の気を失った真っ青な顔で、目の前の澪を指差し、ガタガタと全身を激しく震わせていた。その目は限界まで見開かれ、信じられないものを見るような、純粋な恐怖に染まっている。


「嘘よ……」


 もみじは力なく後ずさりをし、ひきつった声で叫んだ。


「私はあの時確かに、あなたが死んだのを確認したのに……!」


 彼女の驚愕に満ちた叫び声が、広い倉庫の中に響き渡った。

 私はハッとして隣のもみじを見た。


「もみじ……?君は、一体何を言っているんだ?」


 私が戸惑ったように問いかけても、もみじは私の声など聞こえていないかのように、ただ澪の顔と、彼女の首元で光るペンダントを交互に見つめて震えるばかりだった。


 澪は、そんな私たち三人の取り乱す姿を、まるで滑稽な舞台劇でも見ているかのように冷たい瞳で見下ろしていた。その表情には、再会を喜ぶような温かさは微塵も存在しない。

 やがて、澪は静かにジャケットの懐へと手を入れた。


 チャキッ、という冷たく無機質な金属音が鳴った。

 澪の手には、黒光りする警察用の拳銃が握られていた。


「澪……?何をするつもりだ」


 私が怯えたような声で尋ねると、澪は拳銃の銃口をゆっくりと持ち上げ、私たち三人の方へと真っ直ぐに向けた。

 そして、一切の感情を排した氷のような声で、静かに告げた。


「茶番はやめて。一人残らず全員、両手を挙げて跪きなさい」


 その声は、倉庫内の凍てつくような空気よりもさらに冷たく、私たちの鼓膜を鋭く打った。

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