エピローグ
これにて四章〝堕天の雪華〟終了です。
「ふぅ……一応、なんとかなったな」
暴風雪が収まり、戦闘を終結させたあの場をクロードに任せて馬を走らせた夜光は、最悪の事態に陥る前にベルデ平原に到着し、前線に出張っていたダヴー将軍の前にルイ第二王子を突き出した。
ルイ第二王子を倒し、人質とした。殺されたくなければ全軍を直ちに撤退させろと夜光は要求し、ダヴー将軍は即座にそれを呑んだ。
それによってベルデ平原での戦闘は終息し、両軍が見守る中でそれぞれの代表者――シャルロットとテオドール、ヨハンとダヴー将軍の四名による会議が開かれた。
結果、ルイ第二王子を引き渡す代わりに北方、中央連合軍を撤退させることに成功。さらにルイ第二王子が王位継承戦争から辞退することを宣言して会議は終了。
そして今、夜光は東方軍本陣――大天幕の中にいた。
「そうだな。よくやったヤコウ大将軍」
「クロードや光風騎士団の皆さんのおかげですよ。彼らがいなければルイ第二王子を倒すことは出来なかった」
テオドールの称賛に夜光はそう返した。幕僚からは謙遜と捉えられたようだが、実際クロードたちがいなければルイ第二王子との一騎討ちは叶わなかっただろう。そうなれば捕らえることなど夢のまた夢だったに違いない。
「そのクロードたちですが、後から来る予定です。まだ北方にはいますけど、邪魔されることはないでしょうから心配もいらないでしょう」
講和したからというのもあるが、ルイ第二王子が王位継承争いから辞退すると発言したことが非常に大きい。今後北方はその発言を巡って大いに荒れることだろう。こちらに構う暇がないはずだ。
(誰もが利益を求めて参加していたはず。だからこそ荒れるだろう)
夜光に敗北し、囚われの身になったという事実は大きい。今後ルイ第二王子の立場は悪くなることだろう。
(彼がどう立ち回るかは知らないけど……少なくともあの言葉は嘘じゃないと思う)
夜光を通してシャルロットが次代の王に相応しいと認めたルイ第二王子の発言。あの時の彼に嘘偽りの影は見えなかった。
(とはいえ油断はできないけど……そこまで気にする必要もないだろうな)
勝利に沸く兵士たちの声が大天幕の中にも聞こえてくる。中にいる幕僚たちも喜色を浮かべて言葉を交わしあっていた。
そんな中で夜光は上座に眼を向ける。そこには金髪碧眼の少女――シャルロットが座っていた。
シャルロットもそんな夜光の視線に気づいて蒼い眼を向けてくる。その美貌に浮かべるのは微笑みで、彼を労うような優しい感情が宿っていた。
頷き微笑み返した夜光が口頭での報告もかねて彼女と話をしようと思い一歩踏み出した――その時。
『きゅ、急報!急報にございますっ!』
一人の兵士が切羽詰まった様子で大天幕へと入ってきたことで、夜光は足を止めて振り返った。
「何事か!?」
と、テオドールが尋ねれば、兵士は切らせていた息を整えて片膝をつくと一気に言葉を発した。
『西方にてアレクシア第一王女率いる叛乱軍が壊滅!勇者率いる征伐軍が反転し、こちらに向かっているとのことです!!』
「なんだと……っ!?」
一難去ってまた一難が訪れようとしていた。
一気に慌ただしくなる大天幕の中で、夜光は天を仰ぎ〝視〟て――嗤った。
「……やっと会えるな、勇」
底冷えするようなその声には、確かな殺気が含まれていた。




