プロローグ
第五章〝勇ある者〟始まりです。
いつもそうだった。
大切な人が目の前からいなくなっていく。
求めても、望んでも、希っても――叶わない。
ただ傍に居てほしい。それだけなのに……。
「……どうしてなの?」
心から零れた問いかけは戦火に消え去る。
少女の周囲では人々が剣を手に、互いを殺しあっていた。
阿鼻叫喚が支配する世界――少女の傍には見知った人物たちが倒れている。
誰もが血に塗れ、ピクリとも動かない。
そこへ、一人の人物が歩み寄ってきた。
「それはあなたが弱いからですよ。あなたの臆病が彼らを傷つけた、あなたの無力さが彼らを守れなかった原因です」
その人物の素顔を拝むことはできない。何故なら外套を深々と被っているからだ。
けれどもその声音から女性だとわかることができる。嘲笑の色濃いことも少女には理解できた。
だけど何も言い返せない。女性の言葉が真実だったからだ。
黙りこくる少女に、女性は手にする短杖を向ける。
「勇者といえども所詮はこの程度、いかに強大な力を有していようとも精神が伴わなければ宝の持ち腐れもいいところですねえ。もっとも、伴っていたとしても他者を見捨てられない〝弱さ〟を抱えていればそうなりますが」
嘲笑した女性が示す先に倒れ伏しているのは少女にとって大切な仲間である少年だ。強大な力を持ち、少女を守りながら戦っていた彼だが、その隙をつかれて戦闘不能に陥ってしまっていた。
「〝固有魔法〟に〝神剣〟……それだけの〝力〟を持ちながら敗北した。その原因はすべてあなたにある――そうは思いませんか?」
思う、強くそう思う。
意気地のなさ、剣を振るう覚悟のなさ、誰かを守るために誰かを傷つける意思のなさがこの結末を生んだ。
このままでは彼らは殺されてしまうだろう。目の前に立つ、強大な存在に。
「また……奪われる」
慕っていた兄を失い、縋っていた少年を喪い……そして今、今度は大切な仲間が奪われようとしていた。
「そんなこと――許せない」
許せるものか、看過できるものか、受け入れられるものか。
そのような結末、断じて認めない。
ならば――どうする?
どこからともなく聞こえてきた問いかけ。
それに対して少女は――、
「私から奪おうとする者すべてを――殺す」
――これまでの人生において一度たりとも言わなかった、考えもしなかった答えに行き着いた。
瞬間、少女から膨大な魔力が立ち昇った。圧倒的な存在感に女性は何故か歓喜の声を漏らす。
「素晴らしい……やはり覚悟を決めた人族ほど怖いものはありませんねえ」
少女の黒髪が揺れる。あふれ出る魔力が少女の周囲で荒れ狂い、命令を今か今かと待ちわびていた。
そして――、
「我は天、英雄の血流れし者なり」
少女――否、英雄の血脈である〝光姫〟は言霊を紡ぐのだった。




