第18話 医者のカミングアウト
ギルドの正面玄関はちょっとした広場になっている。怪我をした俺は、遥に支えられながら外に出る。
先に外に出ていた、おっさん…改めランド。このDランクは、俺たちに向かって。
「そこのガキがやるのか?それとも小娘がやるのか?二人、まとめてでも良いがな」
ランドはめちゃくちゃ煽るけど、俺は怪我の痛みで、遥は俺に怪我させたことの罪悪感で、全く聞いていなかった。
「遥、ちょっといいか?…遥があいつと戦ってくれ…」
「でも。私…。あいつを殺しちゃうかも…」
「だからだよ。こういうことは、ズルズル先延ばしすると厄介になるんだ。あいつを殺さないで、倒すんだ。あいつは実験体、脆い実験体。遥の心を成長させる、実験体だ」
近くで、聞いていた仮面をつけた人物は思った。『ハルカもなかなかだが、ユウ君もヤバい奴だな』
俺は、遥に戦い方は任せる方向だが、ランドがもしこう言ったらこう言い返せっと軽く助言をした。
話が終わると、怪我をしていない左側の腕を掴まれた。フィルさんだった。俺を病院に連れてってくれるみたいだ。
フィルさんは遥に説明し、仮面をつけた人に『あとは任せるわね』っと一言。
知り合いなのか?そして上司のギルド長に報告…しないでスルーした。
あっ、この人もギルド長のこと嫌いなんだ。
「フィルさん、大丈夫っすよ。それにこの後バイトあるんで」
「たぶん骨に、ひび入っているわよ。あの衝撃音、殴ったハルカちゃんもだけど、防いだユウ君もなかなかよ。他の冒険者は分からないけど、ギルド長も含めて職員は感じたと思う。
自分より格上の存在だって事に、もちろん私も」
何故にそんなに持ち上げるんだ。そんな話をしていると、病院に着いた。個人病院かな?そんな規模の建物だ。
二人で中に入ると、女性の医者らしき人が迎えてくれた。若そうに見えるけど、年齢が解らん。
「フィルちゃん、珍しいわね。どーしたの?」
「モニーさん、この子たぶん腕にひびが入っているの。見てもらえますか?」
「どれどれ…。うん、折れてるね~。よく我慢できたね~えらいえらい。ちょっとベッドに寝かせて」
モニーという名前の医者、特に触ることもなく、俺の腕が折れていると告げた。何で見ただけで分かるんだよってツッコミたかったが、不思議と信じていた。見られているだけだが、何かの魔法を当てられている感じがした。
「すいません。今日一日だけでも良いので、痛みだけでも…バイトがあるので」
「この状態でバイトするの?…完全に治せるけど…高くつくよ?」
「大丈夫よ。ミニーさん、費用はギルド(ギルド長)でお願いします」
えっ何でそこまでしてくれるの?モニーさんが俺の腕に手を当て…詠唱?…何かの魔法を唱えた。痛みが癒えていく、それと同時に強烈な睡魔が。
「ユウ君そろそろ、起きないとチューしちゃうぞ」
耳元で囁く声はフィルさんだ。それはそれで気になるが、起きないとバイトに遅刻してしまう。そう早く起きればよかったんだ。
「チューって何処までするんだ?舌は入れるのか?」
「なっ何言っているんですか?!この子とはお付き合いしていないんですよ」
「フィルちゃんは、お付き合いもしていない、寝ている男の子に、チューをしようとしているのか?
何か、焦っているのか?お姉さんが相談にのるよ~?」
「モニーさんだって、付き合っている人いないんじゃないですか?何故そんな人に相談がのれるんですか?」
「フィルちゃん、人生の先輩として助言するよ。
恋人が居ることをひけらかすのは、承認欲求。
聞いてもいないのに、恋人が居ないというのは、孤独による愛の欲求よ。
つまりこの人たちは欲求を満たせれば、何だっていいの、たとえモンスターであっても。
フィルちゃんは、私の事をそこら辺にいる性欲モンスターって思っているの?
…私に付き合っている人がいないって言ったわね?答えはイエスよ。それじゃ今まで何人とお付き合いしたと思う?答えはノーよ!!」
女子トークがエグイ、起きるに起きられない。どうしよう?
目を瞑りながら顔を歪ませ、起きるタイミングを見計らっていた。
「フィルちゃん、その子もう起きているわよ」
最悪な形でバラされた。しぶしぶ体を起こすと、とりあえずお礼を言った。眠ってしまったことも誤った。
「あ~しょうがないしょうがない。大きな怪我を治すときは、どうしても体力を持っていかれるからな」
体が骨を治すために大量のエネルギーを使うらしい、モニーさんの魔法はそのエネルギー促進させたらしい。原理はよく解らない、だが誰にでもできる事じゃない事だけは解った。
ふと時間が気になった。バイト!!
「今何時ですか?!」 「もうすぐ13時かな?」
ヤバい初日で遅刻は不味い。痛みも消えている、体は大丈夫そうだ
「すいません。バイトが有るんで、俺はこれで。あの…治療費は?」
「ギルドが持つから大丈夫よ。ほらっ早く行った」
「また来てね。ユー君」
病院を急いで出てバイト先に向かった。
「モニーさん、医者が『また来て』は無いんじゃないんですか?」
「いや~だってまた会いたいじゃん。…あの子でしょ、彼を捕まえたのは?」
「正確には、彼ともう一人の女の子です。…恨んでますか?」
「どーだろうな~?複雑だし、彼もまたそれだけの事をしたしな」
ー--
間に合うは間に合う。だが初日、30分前ぐらいには職場には顔を出したかった。
滑り込みで、出勤3分前。一応、遅れて申し訳ございませんと謝った。
ガタイのでかいおっさんが怒鳴ってきたが、平謝りした。
遥に言った手前こんなことで切れていたら、この町の人口が半分になってしまう。
面接した時よりも職場がピリついている、理由は他の従業員が捕まって出勤ができなくなったらしい。
犯罪率が高いなこの町はと思いながら、仕事を教えてもらい、配送をこなす。
仕事が終わるころには、辺りはすっかり真っ暗になっていた。
遥、無事にやれただろうか?もちろん無事というのは、遥の安否の心配じゃない。
まだ落ち込んでいないといいけど。何か今日は疲れた。




