第12話 証拠を小出しする少年
それにしても、遥の到着が早すぎる気がした。それとなく聞いたら、実演してくれた。
…こいつ、浮いている?えぇ~何、この子?ちょっと目を離すと、新しい魔法を習得してる。
俺の周りも、今の俺と同じ気持ちだったのだろうか?
楽しそうに魔法を披露する姿をみて、頑張らないといけないと思った。どんどん距離を離される。
遥は、両手を大きく広げて、お馴染みのポーズ。よくわからないが、浮いている遥に抱きついた。
浮いているから、俺の顔が遥の胸の位置にあたる。これで終わるはずがないのが、遥ちゃん。
俺、浮いてる?あれっ高度上がっていない?気のせいじゃない、落ちたくないので強く抱きついた。
「ゆう君、ちょっと強く抱きすぎだよ。もしかして高所恐怖症?」
「遥がいつも説明なしに行動するからだろ。まさか…このまま…とっ…」
このまま飛んでいくのか?っと言い切る前に発進していた。
ゴォォォォォォー-----!! 風を切る音がすごい。
怖くて空の景色を楽しめない、いや音からして、ものすごいスピード出てる。
だからそんな初めての空の旅は、ただ遥に抱きついているという、情けない旅に終わった。
5分くらいで、バンスク村に舞い戻った。
村から離れた所に着地。地に足はついたけど、酔ったせいなのか、気分がよろしくない。
しばらく俺は地に膝をつけ、遥にもたれかかっていた。遥は俺の頭を優しく撫でる。
「ゆう君、酔ったの?乗り物とか弱いの?」 「…その言葉を返すと、遥が乗り物って…」
言い切る前に、俺を優しく撫でていた手は、クシャクシャっと頭を撫でる手に変わった。
気分が落ち着くと、村の宿に戻った。なるべく人に見かけられないように、特にマーカスに。
そして午前0時、俺たちは皆が寝静まる頃、中央の畑を見張っていた。
馬鹿だから絶対に犯行を行う、逆に馬鹿だから日中の出来事を忘れて寝ている。
ありえそうだから怖い。そして人影が現れ、キョロキョロしながら、中央の畑に行き…犯行を始めた。
すぐには捕まえず、しばらく放置する。…放置すること10分。そろそろ行くか。
あんな馬鹿でも、Eランク冒険者、油断はしない。背後からゆっくり近づき。
俺の腕でマーカスの背後から、首を絞めつけ、マーカスの左腕を後ろに回す。
「おまえ…ちっ。昼間の冒険者か?放せ!!」
「騒ぐな…村の人たちにバレたらまずいだろ?親父さんとこに一緒に行こうか?」
(なんだろう?ゆう君が、畑泥棒を捕まえているのに、悪人にみえる)
俺、こいつに名前覚えられていないのか?どんだけ遥の事しか見ていないんだよ。
あと遥、なんでそんなに体を震わせて笑いを堪えているの?
穏便に済ませるために、こいつの家…つまり村長の家に、マーカスを捕まえた状態で向かった。
村長と奥さんが寝ていたところ、起こし事態の説明とマーカスの処遇を、その夜決めることになった。
村長はマーカスを怒鳴っていて、マーカスもごめん、悪かった、すいません。
言葉は違えど、謝罪ばかりで理由を説明しない始末。奥さんは泣いているだけ。
親子喧嘩を見る趣味は無いし、夜も遅いので要点だけ伝えた。
「村長さん、最初に言いましたよね?討伐するか、どうするか?それで、村長は討伐するって言いましたよね。つまり畑泥棒を殺すって」
「でも、まさか息子が犯人だとは思わなかったんです」
「それでも、討伐依頼として来たので、出来なきゃ俺たちが仕事失敗って事になるんですよね。
それに息子さん、謝ってばかりで犯行理由も明かさない。時間の無駄なので、明日また来ます」
そして村長の家を後にすると、宿に向かっている途中に。
「ゆう君、あの人たちが討伐を選んだら…殺すの?」
「そうなるな…。だから今日、ギルドにも確認をとった。でも、あの人は討伐は選ばないと思う。
でも、マーカスも村長も別の意味で、最悪な選択しそうな気はするがな」
遥の疑問をよそに、宿に帰りそのまま寝た。そして翌朝…宿の主人に起こされ、中央の畑へと案内された。村長一家と村人全員集めて。歓迎ムードではないのは、伝わった。
「マーカスに、昨日聞きました。確かに昨日、息子は畑泥棒を犯しました。ですが、そこにいる女が息子を唆したんじゃありませんか?」
否定はしないが、そうか村人を全員集めて、俺たちを公開処刑か…それにしてもイラつく言葉だ。
村人のヤジが飛ぶ。それが、あんた達の役割なんだな?
「なるほどわかりました。彼女が唆したという意味はわかりませんが、討伐はしないと方向でよろしいですね。あと、今までの畑泥棒の被害は、マーカスさんが犯人じゃないと言う事ですね?」
「あっ当たり前だ。なぜ俺が自分の育ってきた村でそんなことをしなきゃならないんだ」
俺はマーカスを哀れむような目で見る。
証拠を全部突き付けられて謝るのと、自白して謝るのは違うんだぞ。
「仕事失敗の証として、依頼書の裏に一筆とサインお願いします。ギルドに提出するので」
一筆書かせた内容は、【イカロスの翼】任務失敗、畑泥棒の犯人を見つけられず、マーカスさんを犯人に仕立て上げ、マーカスさんを討伐するという暴挙。こんな雰囲気で書かせた。
やはりこの親父もバカだった。なぜこんな文を書いているのか、疑問に思わないなんて。
「さて、俺たちは町に戻って、この依頼書をギルドに提出します。…因みにご報告なんですけど。俺は昨日、町に戻ってギルドに報告しました」
そう、バレッタの町に戻り、村の冒険者が犯人→ギルドが一緒に調査→村長の幼馴染の業者→それとは別の業者にバンスク村からの納品ありと、一連の経緯を話した。
「マーカスさん顔色悪いですよ?そして一筆書いてもらったのも、言い逃れできないようにするためなのです。
そこで顔色が悪くなっている、マーカスさんが犯人じゃなきゃ大丈夫な話です。シンプルで良いですね。
そしてあなた達が、全く気にすることはない、仮の話をします」
村長が、マーカスに問いただしている。でも、もう遅い。
「マーカスさんが犯人だった場合、違約金が発生します。金額は分かりませんが。
そしておそらく、マーカスさんは、それでも『やっていない』と言うでしょう?
そしたら今度は、マーカスさんが卸した業者が黙っていないでしょう。
証憑書類偽造になってしまうので。(この世界にあるか分からないけど)
そして、その業者は取引した相手と、野菜の仕入れ先がバンスク村と帳簿に残っています。
ということは、ギルドはバンスク村出身の冒険者から聞き取りを行うでしょう。迷惑な話です。
あなた達が今、作り出した正念場。頑張って乗り越えてください」
村人が不安に駆られている。その程度なのだろう。人の意見にコロコロ流されて…。
そんな、バンスク村の人を見て思った。
木を隠すなら森の中。【マーカス】を隠すなら、【バンスク村の人】の中。




