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復讐はフリマアプリで落札される ~冤罪で家族と幼馴染を奪われ海へ沈められた少年は、神となって悪人を処刑する~  作者: くじけ


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第三十五話 止まる録画と消えた証人 後編


 同じ日の昼休み。


 祈は教室の窓際で三段弁当の二段目を食べていた。


 学校支給のタブレットは警察へ押収されたまま戻っていない。

 授業では紙のプリントが配られ、生徒たちは久しぶりにノートに直接文字を書いていた。


「天羽くん」


 九条美玲が教室へ入ってくる。

 祈の机の周囲にいた一年生の女子たちが少しだけ道を空けた。


「端末の回収、警察の捜査だったのね」


「僕も今朝、教師から伺いました」


「学校はセキュリティ更新だと説明していたわ」


「嘘ではありません。警察によって安全な高い場所へ更新されました」


「そう、随分と高い場所ね」


「塀の高さでしょうか」


 美玲は小さく笑い、すぐに表情を戻した。


「生徒会の来校者記録では、端末管理業者が正式な調査決定より先に学校へ来ていたの」


「そうですか」


「驚かないの?」


「食事中に手品を見せられても、タネより箸が気になりますので」


「あなたに関する記録が作られた可能性があるのよ」


「人間は昔から、本人より先に評判を作ることが得意です」


 祈は卵焼きを口へ運んだ。


「それに僕の場合、既に二度目ですので」


 教室の入口で葵が足を止めていた。

 美玲の言葉が聞こえた。


 端末管理業者が正式な調査より先に来ていた。

 それは祈の通信記録が作られた可能性を示している。

 昨夜まで葵は父親から送られた資料を何度も読み返していた。


 ほかの記録がすべて事実だから通信記録も事実だと思った。


 だが、もし一つだけが意図的に混ぜられた嘘なら。

 自分はまた誰かが用意した証拠を信じようとしていたことになる。


「結城さん」


 美玲が気づく。


「何か用?」


「……ううん」


 葵は祈を見た。


 祈も一度だけ視線を向けた。

 そこに責める色はない、だが許す色もない。

 葵が何を疑い何を信じても祈の昼食には関係がないという目だった。


「祈……」


「何でしょう」


 謝ろうとした。

 だが、まだ通信記録が偽造されたと確定したわけではない。

 また結論を急いで自分だけが安心しようとしているのかもしれない。


「何でもない」


「今朝も同じ会話をしましたね」


「ごめん……そうだね」


「謝罪の対象が不明です」


 祈は弁当へ視線を戻した。


 葵はそれ以上近づかず自分の席へ戻る。


 美玲は二人を見比べたが何も尋ねなかった。


 祈のポケットで、黒いスマートフォンが一度震えた。


 ━━審理関係者の所在を確認しました。


 氏名━━戸田雅人。


 現在地━━湾岸第七埠頭・東成物流倉庫。


 祈は画面を開かない。


 今は弁当の三段目が残っていた。



 *      *      *



 午後六時十五分。


 火村のもとへ情報管理会社の若い作業員から連絡が入った。


 昨夜、床を見つめていた男だった。


『学校法人から通信記録を追加した報告書を作るよう指示されました』


「誰からだ」


『理事長です。ただ直接ではありません。会社の責任者を通して』


「元のサーバーに天羽祈の通信記録はあったのか」


『ありません』


 火村は隣にいる森川へ目を向けると、すぐに記録を始める。


『でも私は指示された作業をしただけです。報告書が何に使われるかは知らなくて……』


「今いる場所は」


『会社の近くです』


「動くな。捜査員を向かわせる」


『私は逮捕されますか』


「今ここで約束はできない。だが、黙ったままよりはマシだ」


 通話を切る。


「やはり通信記録は捏造だったんですね」


 森川が言う。


「証言だけでは足りん。差し押さえた原本と照合する」


「結城葵さんにも伝えますか」


「まだだ。まずは誰が何のために彼女へ資料を送ったのか確認してからだ」


 火村のスマートフォンへ、非通知の着信が入る。


「こちら火村」


『……戸田です』


 小さな声だった。


「戸田雅人さん?」


『私を捜していると、真壁さんから聞きました』


「今どこにいます」


『言えません』


「小宮山澪さんの件で、話を聞きたい」


 通話の向こうで荒い呼吸が聞こえる。


『私は、何も見ていません』


「最初の報告書には、戻ったときには既に倒れていたと書いている」


『あれは……間違いです』


「三日後の報告書と、どちらが間違いですか」


 戸田は答えなかった。


「戸田さん。真壁警視があなたへ連絡したんですね」


『家族を守りたかっただけです』


「何から?」


『警察からです』


 その一言には十一年分の疲労が滲んでいた。


『あの日、私は小型のICレコーダーを机の上へ置いていました。報告書を作るため、本人の言葉を確認する目的で』


 火村は立ち上がった。


「録音が残っているんですか」


『真壁さんに勤務先の確認を命じられ、慌てて出た。レコーダーを置いたままにしたことへ気づいたのは澪さんが搬送されたあとです』


「回収した?」


『はい』


「中身を聞いたんですね」


 沈黙が答えだった。


『何度も捨てようとしました。でも、できなかった……!』


「その録音を渡してください」


『真壁さんが今夜私の所へ来ます』


 火村の表情が変わる。


「何時です」


『十時。私の勤務先に』


「すぐにそこから離れてください」


『逃げてもまた見つかります』


「場所を言ってください!」


『湾岸の、東成物流倉庫です』


 火村は通話をスピーカーへ切り替え、森川へ車の鍵を投げた。


「今から向かいます。すぐに警備室へ鍵をかけ、誰が来ても開けないでください」


『火村さん』


「何です」


『あの録音には、全部が入っています』


 戸田の声が震えた。


『澪さんが帰してほしいと頼んだ声も、真壁さんが……あの子の服へ手をかけて犯そうとした音も……!』


 火村の拳が強く握られる。


『私がもっと早く話していれば、山科さんも……ほかの人も』


「後悔はあとで聞きます。今は生きて待っていてください」


 通話を切り、二人は廊下を走った。



 *      *      *

 


 午後九時四十八分。


 真壁の車が、東成物流倉庫の裏門へ入った。


 夜間の荷役作業は休止している。

 巨大な倉庫の外壁には等間隔で設置された照明だけが白く点灯していた。


 警備室の窓から戸田が真壁の方を見ている。


 真壁は車を降り、インターホンを押した。


「開けろ」


『か、帰ってください』


「話をするだけだ」


『火村さんが来ます』


 真壁の眉が動く。


「余計なことをしたな」


 警察官の身分証をカメラに見せる。


「緊急の捜査だ。開けなければ職務を妨害したものとして扱う」


『もう警察官じゃありません。あなたの命令には従いません!』


「なら、警備会社へお前が勤務中に犯罪の証拠を隠していると連絡するぞ」


 戸田は答えない。


 真壁は横の通用口へ回った。

 この状況は十一年前と同じだった。


 家族。

 仕事。


 失いたくないものを順番に並べれば人間は最後に必ず扉を開く、だが今夜の戸田は開けなかった。


 真壁は車へ戻り、トランクから大型の金属カッターを取り出した。


 通用口の鎖を切る。

 警備室の中で、戸田が非常通報ボタンを押した。


 しかし反応はない。


 真壁は到着前、警察の内部回線を使って警備会社へ連絡しこの施設で訓練を行うため午後十時から通報試験を停止するよう伝えていた。


 扉が開く。


「く、来るな!」


 戸田は机の引き出しから黒いICレコーダーを取り出した。


「それを渡せ」


「嫌です!」


「お前も虚偽報告の共犯だ。表へ出れば無傷では済まない」


「分かっています」


「娘に知られてもいいのか」


 戸田の顔が歪む。


「お前の父親は、人が死んだことを隠した警察官だと」


「それでも……もう、あなたの言葉へ従うよりマシです」


 真壁の顔から表情が消えた。


「録音を聞いたのか」


「十一年前に」


「なら分かるだろう。あの女が私へ襲いかかった」


「それは違うっ!」


 戸田は首を横へ振った。


「澪さんは……帰してほしいと頼んでいた。あなたが後ろから触った。嫌がって逃げようとした澪さんを手籠に━━」


「黙れ」


「あなたが彼女を殺したんだ!」


 戸田の声が誰もいない倉庫へ反響する。

 真壁の左頬が引きつった。


「私は、正しい答えを聞き出そうとしただけだ」


「澪さんは無実だった……!」


「その時点では容疑者だ」


「勤務先を確認すればすぐに分かった事だ!」


「否認する人間は全員そう言う!」


 真壁の怒声が警備室を揺らす。


「自分だけは違う。証拠が間違っている。警察が悪い。私は何十年も同じ言葉を聞いてきた!」


「だから……アンタは話を聞く前から犯人にしたのか」


「事件には終わりが必要なんだ」


 真壁は戸田へ一歩近づいた。


「被害者も、遺族も、組織も、誰かが責任を引き受けなければ前へ進めない」


「無実の人でも……?」


「完全に無実な人間などいない」


 真壁は迷いなく答えた。


「山科は妻へ隠し事をしていた。澪も警察へ反抗した。天羽祈もあれだけの証拠を向けられて反省しなかった」


「そんなのは事件と関係ない!」


「人間を見れば分かる。罪を犯す人間は、罪を認める前から同じ目をしている」


「それはあなたが、そう見ているだけだ……」


 戸田はICレコーダーを胸元へ抱えた。


「火村さんに渡します」


「渡せば、お前も終わる」


「十一年前に、もう終わっていたんです……!」


 真壁の手が伸びた。


 戸田が逃げようとする。


 机へ足をぶつけ、ICレコーダーが床へ落ちた。


 真壁は戸田の襟をつかみ、壁へ叩きつける。


「やめ……ごぁっ!」


「お前は昔から、判断が遅い」


 腹部へ拳を入れる。


 戸田の身体が折れた。


 床へ倒れた頭を、真壁が革靴で踏みつける。


 一度。


 二度。


 三度。


 十一年前と同じように、相手が動かなくなっても怒りは止まらなかった。

 真壁は机の上にあった金属製の懐中電灯を握り、戸田の側頭部に思いっきり振り下ろす。


「がっ……!」


 骨の割れる音がした。


「最初から、言うことを聞けばよかったんだ」


 血に濡れた戸田の手が、床のICレコーダーへ伸びる。

 真壁はその指を踏みつけた。


「記録がなければ、起きていないのと同じだ」


 懐中電灯を、もう一度振り上げる━━。



 *      *      *



 《ミモザ》の閉店作業をしていた祈のスマートフォンが震えた。


 非公開画面に真壁と戸田の現在位置が表示される。

 そして音声はその警備室の机に設置された防犯カメラから取得されていた。


 真壁が施設へ到着する前に通報システムを停止させたため、映像は外部へ送信されていない。


 だが、記録そのものは警備室内の装置へ残っていた。


『事件には終わりが必要なんだ』


『完全に無実な人間などいない』


『記録がなければ、起きていないのと同じだ』


 三つの音声が、審理記録へ追加される。


 ━━対象者本人の判断基準を確認しました。


 ━━過去二件および現在の加害行為との因果関係が成立しました。


 半分だけ黒かった購入ボタンが、完全に染まる。


 七緒がレジの現金を数えながら祈を見た。


「祈くん、どうしたの?」


「商品の確認が終わりました」


「また何か買うの?」


「いいえ」


 祈は画面へ指を置いた。


「今夜は、二人分の忘れ物を取りに伺います」


「こんな時間に?」


「警察の方は、夜にもよく働いておりますので」


「祈くんも一緒に残業しなくていいの」


「ごもっともです」


 祈は七緒へ微笑んだ。


「ですが、録画の再開を待っている方がおりますので」


 購入ボタンを押す。


 小宮山葉子のスマートフォンと山科浩平のスマートフォン。


 二人の画面には同時に通知が届いた。


 ━━Elが商品を購入しました。


 湾岸の倉庫で真壁のスマートフォンも震え、戸田へ振り下ろしかけた手が止まった。


 画面には予定表が表示されている。


 日時━━本日、二十三時十三分。


 場所━━旧県警研修所・第四取調室。


 予定━━録画を再開する。


「何だ……これは」


 現在時刻は、午後十時十三分。


 処刑まで、残り一時間。


 倉庫の外では、火村の車が正門へ差しかかっていた。


 遠く離れた旧県警研修所では十年以上前に撤去されたはずの録画機器が一斉に起動する。


 誰もいない第四取調室で赤いランプが静かに点灯した━━。


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― 新着の感想 ―
葵は自分で立ち位置をきめられないし、すぐ揺らぐから完全におもちゃだな 祈は自分は風見鶏じゃないって言ってたけど、葵は風見鶏ってのがぴったり まあ人間そんな強くないし、同じ立場だったら自分もそんな強くな…
真壁の存在は「世も末」と言う言葉がぴったりだな。 こんな人間が市民を守る警察官なんて責任の伴う仕事をやっているのだから。  全てが明るみに出れば、警察の威信は100%失墜するだろう…コイツのせいで割を…
おやおや、警視監殿は軽挙が過ぎますね。令状なしの踏み込みの言い訳は?暴行跡が残る戸田氏の遺体は?鑑識が入れば争いの状況など明確に判明するでしょうに。 まぁ処刑台に乗った真壁さんには、もう関係ありません…
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