第2話 捕獲
なぜこんなことになってしまったのか。それは今朝のことに遡る……
今朝陽は空腹でずっとふらふらしていた。
フラフラしながら路地を歩き続けていると、甘い匂いが鼻をくすぐる。
「……!」
視線の先には、パンのかけらがあった。
陽の表情がぱっと明るくなる。
「ご、ご飯だ……!」
もう何時間も何も食べていない。
警戒する余裕もなく、小さな身体でパンに飛びついた。
「やった……!」
パンを抱えた、その瞬間。
ガサッ!周囲に袋があることにようやく気付いた。
上から袋の口が閉じられて真っ暗になる。
「えっ?」
次の瞬間だった。
ぐしゃっ!
袋全体が何かに掴まれ、陽は中で転げ回る。
「わああっ!」
上下左右も分からない。
袋の中は真っ暗になり、身体は何度も壁へぶつかった。
「た、助けて……!」
そのとき。
袋の外から、聞き覚えのある女子の声が響く。
「──小人捕まえた」
ぞくり、と陽の背筋が凍る。
「ま……まさか……マオちゃ」
袋はぶらんぶらんと揺れながら運ばれていく。
やがて動きが止まり、口がゆっくり開いた。
まぶしい光が差し込む。
その向こうには、巨大な少女の顔。
ピンク色のツインテールを揺らし、口元には勝ち誇った笑みを浮かべている。
「あら」
彼女は袋の中を覗き込みながら笑った。
「どんなバカかと思えばチビ陽じゃない」
「マ、マオちゃん……」
陽の顔から血の気が引いていく。
逃げようと後ずさるが、袋の中では数歩も進めない。
「へぇ~」
マオは面白そうに目を細めた。
「罠に引っかかるなんて、相変わらず素直で間抜けね」
袋の中へ細く長い指が入ってくる。
陽は思わず身を縮めた。
「ひっ……!み、見ないで……」
「なんで?」
マオは楽しそうに肩をすくめる。
「そんなチビなのに隠れる場所なんてないでしょ」
次の瞬間。
親指と人差し指がゆっくり近付いてくる。
「や、やだ……怖いよ」
逃げようとしても遅い。
ぷにっ。
太い指先が陽の身体を優しく、それでいて確実に挟んだ。
「ひゃあっ!」
ふわりと身体が宙に浮く。
陽の両足が空を切る。
マオは摘まみ上げた陽を目の前まで持ち上げ、小さな定規を取り出した。
「ちょっと測らせて。」
定規が陽の隣へ置かれる。
マオは真剣そうな顔で目盛りを見つめた。
「……ふ~ん四センチね」
くすっと笑う。
「ほんとちっちゃい」
横から。
正面から。
後ろから。
宝石でも鑑定するように、くるくる回してじっくり観察する。
「うぅ……」
陽は恥ずかしさと恐怖で涙目になっていた。
「マ、マオちゃん……」
「なぁに?」
「み、見逃して……」
その言葉を聞いたマオは、一瞬だけ考えるような素振りを見せる。
そして。
「嫌よ。せっかく捕まえたんだから」
そうぺろっと意地悪そうに舌を出した。
陽から見れば、それは滑らかな広場のような大きさだった。
「や……やだ……。離して!」
マオは悪戯っぽく笑う。
「こんなかわいいチビ、簡単に逃がすわけないじゃない」




