第1話 巨大な幼馴染
「ふふっ……ほ~ら陽」
マオの唇がゆっくり吊り上がる。
彼女の左手のひらには、小さな少年が膝を抱えて震えていた。
身長わずか四センチ。
女子高生の掌の上ですら広大な広場のように感じるほど小さい。
「ひっ……」
陽は後ずさる。しかし逃げた先は手のひらの端。
巨大な親指が壁のように立ちはだかっていた。
「ど、どいて……」
「どいて?」
マオは鼻で笑う。
「チビの癖にアタシに命令してるわけ?」
陽は肩を震わせ、慌てて首を横に振った。
「ご、ごめんマオちゃん……」
「よろしい。」
マオは満足そうに微笑む。その笑みには優しさなど一切ない。
獲物を追い詰めた猫のような笑みだった。
「ほら」
右手の人差し指がゆっくり近付く。
陽から見れば、自分の倍ほどもある巨大な指先。
「や、やめ……」
ツンッ
柔らかい頬を軽くそっと突かれただけだった。
それだけで陽は尻もちをついてしまう。
「ひゃあっ!」
マオは吹き出した。
「なにそれ」
肩を震わせながら笑う。
「指でちょっと触っただけなのに転がった」
陽は涙目で立ち上がる。
「ご、ごめんなさい……」
「何謝ってるの?」
「え……」
「別に怒ってないし」
マオは顔をぐっと近付けた。
巨大な桃色の瞳が陽だけを見下ろしている。
「ただね」
「ただ……」
ニヤリ。
「そんな体でアタシと対等でいられると思ってるの?」
「そ、そんなこと思ってない……!」
「でしょ?」
マオは勝ち誇ったように笑う。
「だってアンタ身長四センチしかないじゃない」
右手の親指で陽の身体を軽く押す。
「うわっ!」
踏ん張っても動かされる。
あまりにも体格差がありすぎる。
「ほら行くわよ」
そのまま手のひらを机の上に降ろされて、人差し指でぐいっ。
「わあぁっ!」
そのまま机の上に仰向けに転がされた。
マオは呆れたように肩をすくめて右手をチラッと見る。
「弱っ。弱過ぎよアンタ。まだ片手の指二本しか使ってないんだけど?」
陽は必死に起き上がる。
足は震え、息も上がっていた。
目の前にはマオの右手。でも陽より数倍は巨大な手が振られていた。
「ひっ……ひぃ……」
「そんなに怖い?」
「こ、怖いよ……」
「へぇ~怖がってる顔、結構かわいいじゃない」
マオは頬杖をつきながら、震える陽を眺める。
「か、かわいくない……。」
「いえかわいいわ」
即答だった。
再び巨大な指先が近付く。
「また逃げるの?」
陽は震えながら首を振る。
逃げても意味がない。
この広い机の上から飛び降りる勇気もない。
それを見たマオは満足そうに笑った。
「最初からそうやって大人しくしてればいいのよ」
ツンッ。
「ひゃっ!」
また頬をつつかれ、陽はその場にぺたりと座り込む。
マオはその様子を見下ろしながら、勝ち誇ったように言い放った。
「ほらね。アンタはアタシから絶対に逃げられない。だから──」
その意地悪そうな笑みはさらに深くなる。
「大人しく可愛がられなさい。は~る?」




