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DAY 0 (2)




  

 朗太がイルミネーションをあまり好まない理由は、いくつかあった。

 まず第一に寒い。暗闇に灯る明かりを見に行くという性質上、必定、イルミネーションを見に行くには日没後に外出することになり、冬の凍てつくような外気にどうしても晒されるはめになる。

 そして第二の原因が人混みだ。イルミネーションに集まる人を縫って歩くのは、それだけでストレスだ。そもそもなぜ、こんな人が多くてまっすぐ歩くこともままならない空間に足を延ばさねばならないのか。家で家族団らんしていれば良いではないか。朗太は世界に訴える。

 第三の理由は、根本的な問題。

 朗太的には、そもそもさしてイルミネーションが綺麗に思えない。

 それらがこれまで数度、弥生にイルミネーションに誘われ同伴し、朗太がイルミネーションを好かなくなった理由である。

 最初こそ、小説のネタになるやんけ! と朗太も乗り気だったのだが、それら原因で知識欲と疲れを載せた天秤が逆転し急速に興味を失っていったのだった。


 だが一緒に見に行く人によって、その印象とは大きく異なるようだ。


「凄い! めっちゃ綺麗だな!!」


 都心の街並みに飾られた宝石をぶちまけたかのような光の芸術に朗太は心底感動していた。

 キラキラ光る装飾に、青や赤に明滅する光。それらが夜の街に浮かび上がり、鮮やかな光の遊びを示すのは、人の豊かな想像性の発露に思えた。

 だから朗太は声を弾ませ、目を輝かせ、早速手のひらをこれでもかと返したことを言っていたのだが、それを見た姫子に

「フフ、反転しすぎよ朗太ッ」

 にこやかに笑いかけられると同時、思いっきり腕をつねられていて


 す、すんません……。


 バカにしてすんません……。


 初っ端から朗太は誰に対してでもなくイルミネーションを電飾見学とこき下ろしたことを謝罪をしていた。


 どうやら姫子はイルミネーションが好きなようだった。

「はぁ~~~~~、ホント綺麗……」

 と柄にもなく目をキラキラさせてその光の芸術に魅入っていた。

 



 それにしても……。


 姫子の手が離れしばらく。朗太は周囲を見回していた。


 今、朗太たちは朗太の自宅を出て電車に乗り都心に出てきている。

 街路に面したどの店も派手にイルミネーションを施すこの町はカップルで賑わっていた。

 どこを見てもカップル、カップル、カップルである。

 スーツを着た若い男女は小声で何か言い合い、革ジャンにジーンズの男は白いコートを着た女性と和気あいあいと何やら話し込んでいる。


 そんな空間に自分は三人も女性を引き連れているわけで――


「はぁ」


 考えても仕方のない、だが時折突然襲ってくる自己嫌悪に朗太が浸っていると



「なに落ち込んでるんですか?」

「あ、いやなんでもないけど……」

「ふふ、そうですか。話は変わりますが先輩、プレゼントのお返しは期待してますからね?」


 近くのカップルが何か小さな箱に入ったものを渡しているのを見たからだろうか? 纏がプレゼントへのお返しを再要求されていた。


「お、おう……」

 とりあえず頷く朗太。

 同時に風華も「そーよ凛銅君!! お返しって重要だからね! うんと良いの期待しているよ!」なんてことを言うので、纏が眉を顰める。


「サプリ渡した人が何言ってんですか?」

「いやだからそれは関係ないって言ったでしょ! 問題は気持ちだから!」

「だからそのサプリを良しとした精神性を問題視してるんですけど〜? ど〜なんですかね〜〜?」

 その口論を目の当たりにし朗太は思う。

「やっぱ、お、俺からの贈り物って欲しい、もん、なのか……」

「「当たり前でしょ(じゃないですか!)!!」」

 すると食い気味に言いながら詰め寄られた。


「凛銅君何またふざけたこと言ってるの?!」

「そんなの大前提じゃないですか! いちいち聞かないでください! かまととぶって! むかつきます!」

「そ、そうか……。すまんかった……」


 たまらず謝る朗太。だが、自信が持てなかったのだ。

 すると


「ちょ、ちょっと朗太……」

「なんだよ姫子……」

「私も、今度買っとくから、私にも買うのよ……!」

「そ、そうか……」


 顔を赤くした姫子に袖を引かれ言われ、朗太は頷いた。

 こうして朗太は彼女たちにプレゼントを用意することになり、同時に思うのだった。

 プレゼントを買うようにいう彼女たちの言動に。

 彼氏から小箱に入ったプレゼントをもらい感激するカップルに。

 彼女たちと真摯に向き合うように言っていた弥生のセリフに。


 自分はかつて彼女たちに贈り物を買うことに躊躇いを覚えていたのだが、何てことはない、買えばいいのだ、と。

 それが、自分なりの彼女たちと真摯に向き合う、ということなのだろう。


 そして彼氏からのプレゼントに嬉し涙を流す女性を視界の先に捉えながら思う。

 風華の言葉ではないが、プレゼントは心の籠ったものが良いだろう、と。

 彼女たちのことをちゃんと考えたものが良いに違いない。

 なら渡すものなど決まっているようなものだった。


「なら渡すものは決まったな」

「へー何くれんのよ?」

「俺の小説だ」

「「「え」」」


 とんでもない返事が出てきて彼女たちは言葉を失った。

 姫子の瞳からは光が失せ、風華は口を半分開け固まり、纏はがっくりと項垂れていた。

 しばらくして、姫子は大きくため息をつきながら額に手を当て言う。


「や、辞めてそれは……」

「え?!」

「申し訳ないけど、それはホンットーーに要らないわ……」

「いやいやいや、え、嘘でしょ」

「嘘じゃないわよ! バカ! うぬぼれんな!」

「酷くないか?!」

「酷くないわよ!!」

「ハハハ、私もパスかなー凛銅君」

「風華まで?!」

「うん、普通のプレゼントを頂戴?」

「え、あ、え、嘘……」

「先輩、百年の恋も冷めそうになるんで絶っ対に辞めてくださいね?」

「は、はい……」


 三人中三人とも、朗太の小説は欠片も要らないらしい。


 うおおおおおおおおおおおおおおおん!!


 朗太は心の中で涙を流した。


 そして抜け殻になったような朗太を見て彼女たちは声を潜め言う。


「や、やけに落ち込んでるわね……」

「そ、そうね。でも、そんな酷いこと言ったかな」

「言ってないですよ。当然ですよ。姫子さん、風華さん。聞きますけど、先輩の小説、要ります?」

「「……」」


 生まれるのはわずかな間。


「いや要らないわ」

「ですよね」

「うん、私も」

「ですよね。そして私も同意見です。なら当然ですよ」


 彼女たちはしょぼくれた様子の朗太を見て言った。


「もしかするとちょっと落ち込ませとくくらいの方が丁度いいのかもしれないわね」

「それは、あるかもしれないですね……」

「ハハハハ……」


 風華の乾いた笑いがあたりに響いた。


 それからしばらく、朗太たちは広場にきていた。広場の中央には塔のモニュメントがあり、電飾が飾られたそれに人だかりが出来ていた。


「な、なにこれ?」

 その頃になれば朗太も落ち込みから回復していて、異様な物体に朗太は目を白黒させていた。

「これはね、カップルでモニュメントの前にある台に手を置くとどういうカップルか占ってくれるイルミネーションだよ!」

 朗太の問いに風華が声を弾ませ答えた。

 ふーん、と朗太が頷いていると、先頭のカップルが台座に手を置いたのだろう。チャラララ~ンという電子音が辺りに響いて塔の形をしたモニュメントが七色に輝き、最後、桃色に淡く輝いた。結果が出たらしい。組み分け帽子のようである。

「ロマンチックな恋だってー!」女性がはしゃぐのが聞こえてきた。

「今からこれをやるのよ朗太!」

 姫子が朗太を列に誘った。


 手を台座に置くだけなので、列はどんどんはけていった。

 これが福袋などの列だとしたら気が遠くなるような長い列だったが、五分もしないうちにほぼ先頭までやってくる。

 そして目の前でカップルが占うのを見てようやく朗太は気が付いた。


「え……」


 無限を示す記号である『∞』のような台座がありそこに男女それぞれ手を当てるわけだが、何と、その男女のもれなくが、台に手を当てない方の手、つまり両者の間にある手を『繋いでいる』という事実に。

 つまり、今から朗太は彼女たちと手を繋がないとならなくなるのだ。

 そのことに朗太が瞠目していると 


「ホラ! 早く、手貸しなさいよ朗太!!」

「え?!」


 朗太たちの順番が訪れ、朗太が戸惑っているうちに姫子は朗太の手を攫い、空いている方の手を台に置く。そして

「アンタも!」

「お、おう……」

 朗太に指図し手を置かせセット完了。辺りに電子音が成り響き、モニュメントを淡く照らす光は赤に。出てきた結果は『家族のような愛』。

 だが姫子としては占いなど大して信用していないようで、さっさと手を放し「ま、こんなもんね」とか言っていた。

 一方で朗太はというと、終始姫子の手の瑞々しい感触に戸惑いっぱなしで


「じゃ、先輩、次は私とですよ!」


 次は纏の番で、出てきたのは『憧れと信頼』。纏は「当たっています」と顔を綻ばせ、朗太は纏の手の感触に喉をからからにしていた。


 そして最後が風華で、周囲の痛い視線の中、風華は「最ッ高の結果を出すわよ凛銅君!」と何やら意気込んでいて、恥ずかしがる朗太の反応など意に介さず朗太の手を取り、その絹のように柔らかい感触に朗太が戸惑ううちに、台に手をついた。

 伴ってモニュメントが七色に輝く。

 しばらくして止まったのは黄色の光源で、その結果は『金に依存する恋愛』

 カップルがしにくるだろうに、こんなえぐい結果が出ることもあるんだと朗太が思っていると


「何これ……」風華は青ざめていて

「ちょっともっかいやるよ凛銅君!!」

風華は素早くもう一度トライ。しかし結果は変わらず「ちょっとこの機械壊れてるんじゃないの?! もっかいよ凛銅君!」

「えぇ?!」

「風華さん後ろつかえてますよ」

「いい加減になさい風華」


 周囲から白い目で見られた風華はというと「じゃ、もっかい並ぶよ凛銅君!」「えぇ?!」「凛銅君は私との恋愛が金に依存するもので良いの?!」「い、いやでも占いだし……」「一事が万事だよ! ダッシュ! 凛銅君!」「は、はい」


 こうして朗太は複数回列に並ぶことになり、占うこと計七回目。

 ようやく『金に依存する恋愛』から切り替わり『情熱的な恋愛』が出てきて


「ふぅ、分かればいいのよ」

「アンタ、それで良いの……?」

「6回も同じ結果が出たことをまずは気にするべきです」


 と風華は姫子たちから苦言を呈されていた。

 一方で朗太はというと計7回も風華と手をつなぎ、緊張で死にそうになっていた。


 こうして風華が満足すると朗太たちはその場を離れ


「凛銅君、覚えている?」

「?」


 朗太が不思議そうな顔をしていると風華は言う。


「明後日、試合があるの。応援来てね」

「あ、あぁ、行くよ。確かにそういえばそんな話あったね……」

「うん、私頑張るから!」


 朗太たちは帰路に着いたのだった。

 以上が朗太たちのクリスマスイブの騒動である。




 ……だから、こんなにも疲れているのか……。


 翌朝、朗太は日差しが差し込む寝室で伸びをした。

 もう起きないと。

 朗太はゆっくりとベッドからはい出した。

 明日は、言ったように風華の応援があるし、今日も今日とて予定があるのだ。





 冬休み DAY1 開始









なんとなくオデッセイ感

DAY1とか書いていますが、冬休みの全ての日を文字に起こすつもりはありません。

次話はDAY2、風華回で、冬休み編は残り6話ほどです。

風華回と、纏回(冬季講座)と、姫子回(妃恵絡み)などがある予定です。明日も投稿します、宜しくお願い致します。


あ、あとこの時期バスケの大会が無いとかいうツッコミは無しの方向で……



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1巻と2巻の表紙です!
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