DAY 2 (1)
風華回!
あと、こんな時期に大会があるか調べたんですけど、、ウィンターカップとかの時期なんですか? 黒子のバスケとかで出てきたアレですよね。
そこまで大きい大会のつもりはありません。謎の大会です。
それとバスケは大会の場合1日に何試合消化するのかもいまいちわからない……。
私がしていた競技は複数試合行うものだったのですが……
何はともあれ風華回。宜しくお願い致します。
確かに、12月のいつだか、風華は言っていた。
『今度の冬休み、ちょっとした大会があるの! だから応援に来て凛銅君! 私頑張るから!』、と。
そして風華からそう言われれば、行かないわけにいかなかった。
『わ、分かった……』
朗太は二つ返事で頷いていたのだった。
「ファイト―!!」
「ばんかーい!!」
「ここ一本取るよーー!!」
というわけで、冬休み2日目、朗太は女バスの大会にやってきていた。
観客席で女生徒たちが口に手を沿え声援を送っている。
一応公式の大会ではあるようで複数のコートが展開する体育館には多くの女生徒が集まり、そこかしこで楽しそう話し、時に胡乱な視線で未来の敵チームの試合を眺めていた。
また朗太が風華の応援に行くとなれば当然のように姫子と纏も同伴していて
「にしても凄いわね」
「皆熱気が凄いです」
2階の観客席に座る朗太の横にはあまりの暑さにパタパタと顔を仰ぐ姫子と纏がいた。
「ホント、すげー熱気だな」
朗太は着こんできたコートを脱ぎながらため息を吐いた。風華の応援に来るのはこれが初めてではないが前回応援に来たのは夏休み。選手たちの熱気でここまで外気と気温差が出るとは思わなかった。
「あ、風華さん出てきましたよ!」
そんな話をしているうちに風華擁する青陽高校の選手がコートに姿を現した。
風華というぶっこわれ性能のスポーツ強者は会場でも有名人らしい。
風華がコート入りしたことで会場中のそこかしこでひそやかな話声がされるのを感じた。多くの生徒が白染風華という選手に注目していることが伝わってくる。
「アイツ、こういう場所で見ると印象変わるわよね……」
「はい、普段は守銭奴のポンコツも良いところなんですけどね」
「ははは」
二人の辛辣な評に、朗太は乾いた笑い声をあげていた。
正直、その気持ち、朗太も分からないでもないのだ。
普段の風華も天真爛漫で可愛いのだが、コートの上の風華の表情は自信が満ちていて、印象としてはどちらかというと男らしくカッコいい感じ。だがやはりコート上の風華も普段の風華と地続きのようで
「あ!」
観客席に朗太を見つけると手を振った。
「見ててねー!! 頑張るからーー!!」
その天真爛漫な様子に思わず顔をだらしなく緩めながら手を振っていると
「あざとい」と纏はねめつけ、姫子は朗太をギロリと睨んだ。
だが、そんな目で見られても正直困る。朗太は焦った。
ともあれ今は応援である。
「風華ーー!! 頑張れー!!」
朗太は彼女たちが冷徹な視線を向ける中、声援を送り続けた。
送られた方の風華はというと、別に朗太の応援で気合が入ったわけではないだろうが得点をビシバシ決めていた。
時折汗の粒を飛ばしながらコートを縦横無尽に駆ける。仲間からボールを貰えばコートを切り裂くように右に左に切り替え駆けあがる。
その水の流れのように軽やかで、時に雷のように苛烈な切り返しで風華は敵を引きはがし、シュートをしたり、パスをしてみたりと大活躍だった。
その鮮烈な運動能力は男女問わず魅了するのだろう。多くの生徒が風華のプレーに魅入っていた。
「やっぱやるわね」
「はい、凄いです」
風華の華々しい活躍に、それまで渋い顔をしていた姫子や纏も、いつしか声援を送るようになっていた。
「ここ一本ですよー!! 風華さーん!!」
「負けんじゃないわよー風華ー!!」
朗太が声を張り上げる横で彼女たちも口に手を添え応援を送った。
そして結果から言えば青陽高校女子バスケ部が大差をつけて勝利。
ありがとうございましたーと両者礼をして試合は終了となったのだが
「風華、やけに気合入ってんじゃん!?」
どうやら今日の風華は普段よりも素晴らしいプレーをしていたらしい。試合が終わるや否や、もともと親交があったらしい他チームの選手から風華に声がかかっていた。
すると風華はえっへんと胸を逸らし
「そりゃそうだよ! なんたって『彼氏』が見に来てるからね!」
と、とんでもないことを言い出し
(え……?)
まさかの発言で朗太を固まらせていた。
「「…………」」
横ではトンビが油揚げを掻っ攫うかのようなセリフに俄に怒気を発し始める姫子と纏がいてそれはそれで朗太は血の気が引いていた。
一方で「マジ?!?!?!」と、風華のことさらに彼氏を強調した返事に女生徒は面食らっていて
「マジだよマジ!」
「どこ?!」
「ほら、あそこー!」
「え!? あいつ?!」
との会話の流れで、風華に指さされ先にいる朗太を見て「えぇ……」、と明らかに困惑していた。
……えぇ、てなんやねん。
いや分からんでもないけど。
コートから複数の女生徒の視線を受けながら朗太は自覚する。
あと自分は未だそういう関係ではない、などとも思っていると
「風華ー! まだそうと決まったわけじゃないでしょー!」
「そうですよーー! 横取りは良くないですよーー!!」
と姫子と纏が声を張り上げていて
「え?! え!? 違うとか言われてるけど??」
「うん、そうだね。まだ確定ではないね。でも内定みたいなもんだよ。内定の彼氏」
「内定の彼氏?!」
パワーワードの権化のような言葉に女生徒は泡を喰っていた。
「てかめっちゃ可愛い子連れてるけど。あの子らは?」
「あぁ、うん。敵」
「てき?!?!?!」
「うん、敵」
「敵ってどういう……」
「あの人めぐって私たち三人戦っているの」
さも当然のように言う風華に女生徒は風華と姫子と纏、そして朗太の間を視線をさまよわせると
「えぇ……。えぇ……。いぃぇぇええええええええええ?!?!」
この世の神秘を目の当たりにしたかのように悲痛な叫び声を上げ
「ま、前々から男の趣味が悪いような気がするとは思ってたけど、ガンバ……」
と風華の肩をポンとはたき去って行った。
その後その情報は彼女たちのチーム間で共有されたらしく
「うっわー……」だとか「信じらんない……」だとか「見る目無さ過ぎ……」だとか苦言を呈する声が聞こえてきた。
「流石に酷くない?」
「まぁ事情知らなければそうなるでしょ。そこまで酷くないわよ朗太」
「はい、確かに言い過ぎな感はありますが世間の評価はそんなもんです」
「自覚は必要って話か」
「そういうことです」
たまらず朗太が言うと姫子たちから冷静な意見が寄せられた。
それから朗太は会場の一階に併設された自販機に来ていた。
「ホント、風華さんは敵ですね」「そうね、どうにかしないと」などと自分の横で腕を組み堂々と話し合う姫子と纏や、周囲からの視線に耐え兼ねて脱出したのだ。
薄暗がりに真っ白な光を灯す自販機が置かれている。
朗太が無糖のコーヒーのボタンを押すとガシャンと缶が出口に落ちてきて、ピピピとこれまで朗太が一度も当たったことのないルーレットを始める。
結果は外れで、やっぱり外れじゃないかと思いながら良く冷やされたそれを拾っていると
「久しぶり」
背後から声をかけられた。
振り返るとそこには先ほども一緒に風華とコートに立っていた人物がいた。
「藍坂か……」
藍坂穂香である。日本人形のように整った顔立ちに、艶やかな黒髪が特徴の美少女だ。かつて女子バスケ部をやめると言い出して騒動になった人物である。
「久しぶり、だな」
「そうね。凛銅君が応援に来るの久々でびっくりしたよ」
藍坂は自販機のスポーツドリンクのボタンを押すと、出てきたそれを喉を鳴らして飲んでいた。
「そりゃ、風華がいるから……」
「つまり風華に来てって言われたわけね?」
「うん。そんなところ……」
別に隠すことでもないので朗太は頷いた。
「……にしても藍坂がちゃんと部活続けていたことも少し驚きだよ。バスケ、頑張ってんじゃん」
先ほどの試合で藍坂が活躍していたのを思い出しながら言うと、朗太の言葉に藍坂は小さく噴き出した。
「あのこと知っている凛銅君がそんなこと言うの?」
「まぁ、そりゃそうか」
朗太は肯定するよりなかった。
『あのこと』とは、つまり藍坂が相手チームの酷い言葉に傷つきバスケをやめると言い出した件のことだろう。
だがその事件の真実は、藍坂から風華へ軸足を移しつつあるチームへの、藍坂からの仕返しだった。
朗太はその時、彼女の才能の嗜好がバスケという項で結ばれている点は羨ましいと述べていた。そのような朗太がバスケを続けていることに驚いていると話すのがおかしかったのだろう。
「好きなら続ける、でしょ凛銅君」
「ま、まぁそうだけど」
どこ経由でその話を入手したのだろう。朗太が訝しんでいると「というか」と藍坂は話し続けた。
「私、風華とのこと、知っているよ凛銅君」
「そうか……」
きっと風華の普段の言動などから容易に察しがついたのだろう。
それだけこの藍坂穂香という女性が風華のことを大事にしている証拠だ。
認めたきり朗太が黙っていると藍坂は言葉を続けた。
「ま、凛銅君たちの関係は私はよく知らないよ。だから、振ったら許さないとか、そんな厚かましいことは言わない。だけど……」
朗太が藍坂を見つめていると、藍坂はぽつりと言った。
「風華は、やっぱり逃すには惜しい人物だと思うな」
「俺も、そうだと思うよ……。凄いもんな、風華」
朗太が肯定するとそれが意外だったのか、調子が狂ったのか、「分かっているなら良いのよ……」と言って押し黙った。
「あんな奴、そういないわ」
「あんな奴、か……」
「そうよ。あんな、私がしたことを全部を受け止められる奴、よ。繰り返しになっちゃうけど、あんな奴の他にいないわ。凛銅君も、そう思うでしょ? 全部知っているんだし」
「……まぁ、確かに」
事実関係を知る朗太がそのように言うと、「あ、ひどーい!」と自分が言い出したことなのに藍坂はなじってきた。
「凛銅君も結構酷いことしたんだからね!」ともいわれるが、朗太とてアレは藍坂のことを想ってしたことで、別にとやかく言われることではないと認識している。
だから朗太が煙に撒くように「ま、そういう色々知った上で受け入れてくれる人っていうのは助けになるよな」と言うと藍坂はきょとんとした顔になった。
「凛銅君にもそういう人がいるの?」
「ま、まぁ……」
言葉を濁しつつ頷く。
そうしながら思う。
いる。明確に、と。
実際に朗太には、自分の全てを知り受け止めた人物がいるのだ。
と、朗太がその人物に思いを馳せていると
「あ、こんなとこにいたの穂香?!」
「あ、風華。ちょっとアンタの内定彼氏借りてたわよ」
「どういうこと!? 穂香凛銅君のこと狙ってんの?! だとしたらただじゃな置かないよ穂香?!」
「狙ってない狙ってない」
やってきた風華に藍坂は付き合い切れないとばかり手をひらひら振り「だから借りただけって言ったでしょ」と否定していた。
「そ、なら良かった。てゆうかホラ! そろそろ次当たるかもしれないチームの試合始まるから急いで!」
「分かったわよ。じゃあね。凛銅君」
「お、おう……」
「じゃあね凛銅君! 私もっと頑張るから! 応援よろしく!!」
その後、藍坂は風華と何やら言い合いながら風華に連行されいずこかに消えていった。その一連の台風のような荒々しさに、朗太は思わず呆れていた。
「どうしたんですか?」
観客席に戻ると纏に声をかけられた。
「い、いや、何もない」
話しかけられた朗太はというと、その気づかわし気な表情を直視できなかった。
藍坂との会話で自分の過去を思い出していたからだ。
藍坂に言っていた、自分の非も認めて受け入れてくれる存在。それが纏なのだ。
だからきっと――纏は特別なのだろう。
「ならいいですけど……?」
纏は不思議そうな顔で朗太を見つめると、コートへ視線を戻すと、思い出したように言った。
「そういえば先輩、明日の講座の準備は出来ていますか?」
「あぁ、明日から始まる冬季講座のこと?準備は出来てるけど……」
「なら良いです」
纏が歌うようにリズミカルに答えた。
この会話の通り、朗太と纏は明日からしばらく某有名予備校で冬季講座を受けることになっているのだ。
またその会話をを妬ましそうに聞いていたのが姫子で
「何か? 姫子さん?」
「い、いやなんでもないわよ……。というか、アンタたち、本当に行くことになったのね……」
「そうですが……、何か問題でも……」
「な、無いわよ! うるさいわね!」
と纏の挑戦的な態度にタジタジになっていた。
しかししばらくすると姫子も姫子で策があるのか「ま、まぁ良いけど。私にも私のやり方があるし……」などと呟き、その様子を纏は怪訝な面持ちで眺めていた。
そうこうしているうちに風華の試合は始まった。
そして『もっと頑張るから!』という言葉通り実際に次の試合の風華の活躍は目覚ましく、一試合目以上のペースで得点を重ねていて、その朗太の応援に呼応するかのようにペースを上げる風華を見た姫子と纏は
「滅茶苦茶な奴だけど、こういうところは見習わなきゃって思うわね」
「ですね。こういう自分の想いに一直線なのは素直に凄いと思います」
と先ほどの口論も忘れ呟いていて、そんな彼女たちを尻目に朗太は風華に声が枯れるほど声援を送り続けたのだった。
そしてその日の帰り道だ。
「結局負けませんでしたね」
「だね、試合はまだまだ続くよ」
青陽高校近くの駅につき解散になった風華は朗太たちと一緒にえっちらおっちら帰路に着いていた。
高度を低くし赤光を放つ夕日を遠目に見つつ「にしても風華、本当に凄いんだな」と朗太が褒めると「何言ってんのよ凛銅君のおかげでしょ?」と風華は口角を吊り上げた。
何のことだと思っていると風華は言う。
「ありがとう凛銅君、応援してくれて。凛銅君の声、試合中も良く聞こえたよ。だから今日は頑張れた気がする」
「そ、そうか……」
それは応援冥利に尽きるというものである。
「フフ、照れちゃって」
朗太が顔を赤くしぎこちなく頷いていると風華は笑った。
そして朗太の心に一撃を加えるべく、囁くのだった。
「また好きになっちゃったな……」
「……?!」
完全に不意うちだった。
その蠱惑的な笑みに朗太がどぎまぎしていると
「ホント、この人油断も隙も無いですね?!」
「だから纏、こいつにはいつだって警戒してなきゃいけないのよ」
と姫子と纏が風華に食って掛かっていた。
だが、やられっぱなしで納得する纏ではなく
「先輩、明日の予備校、忘れないで下さいね!」と語尾にハートマークでも付いていそうな甘ったるい口調で告げ
「お、おう……」
「え、ホントに行くことになってたの?!」
「そうですが、何か問題でもありますかー?」
帰りがけの纏のセリフに風華が聞き捨てならないとばかりに叫んでいた。
こうして冬休みの1日は過ぎていく。
DAY2 終
次話は纏回!
少し修正しますので投稿は1日空いて2/2です! ごめんなさい! 宜しくお願いします!




