DAY 0 (1)
大変お待たせしました。
冬休み編全8話、書き終えましたので投稿を再開していきたいと思います。
宜しくお願い致します。
あのあとは大変な目に遭った。
あの後とはつまり、朗太が三人の告白を保留にした後のことだ。
まぁそれだけ酷いことをしたのだから、それだけ酷い目に遭ったというだけで、天罰が下ったと言えばそれだけの話なのだが。
あの日より彼女たちの戦いは激化し、当然それは民衆の怒りの矛先を朗太へ向ける結果になったのだ。
例えば翌日の朝のことだ。
「おはようございます!」
「……お、おはよう……」
からりと晴れた冬空。朗太は賑やかな生徒の列に紛れ歩いていると背後から纏に声をかけられていた。
日差しを照り返す艶のある髪に、大人びつつも幼さを感じさせる整った顔立ち、それに華奢な体躯。
今日も纏はとても可愛いくて、纏の登場は朗太を赤面させ声を強張らせた。
「フフ、何照れてるんですか?」
「……あ、いや……」
「フ、こんな先輩が見られるのなら告白って手も案外捨てたもんじゃないですね?」
「……」
自分の気持ちを隠す必要のなくなった纏は、自由に羽が伸ばせるようになった檻から放たれた鳥のようで、とても気持ちよさそうだった。
片や恥ずかしさや自責の念やらで朗太は何も言い返せなかった。
昨日のようなことが起きた後、その相手と流暢に人間などこの世に存在しないと思う。
朗太は気まずそうに目を伏せた。
「先輩、何なら手でも繋ぎますか?」
だがそんなこと出来るわけもない。
「いや……」と朗太が返答に窮しそう言うと、纏はにんまりと笑い「そうですか、じゃ」と言って腕を絡ませてきた。纏の華奢な、それでいて柔らかい女性らしい肉体の感触が制服を通して朗太に伝わってくる。いわゆる、『腕を組む』という奴だ。その感触に朗太は動揺しつつも、思わずツッコミを入れていた。
「な、何その手を繋げないなら腕を組もうみたいな発想……」
「マリーアントワネットからヒントを得ました」
纏は満足げに顔を綻ばせながら惚けたことを言っていた。
「フフ? どうですか私の腕の感触は?」
「こ、答えられるわけがないだろ……! というか」
この光景を周囲の生徒に見られたら自分は処刑される、などと言おうとした時だ
「セイッ!」
「あ、イッタ!? 何するんですか風華さん!」
早くも纏が風華に処刑されていた。
背後から風華が纏に強烈な突きをくらわしたのだ。背後からの一撃に纏は大きくたたらを踏んでいた。
どうやら纏との遭遇は風華とタッチの差であったらしい。
「アハハ、手が滑っちゃったわ。おはよう纏ちゃん?」
纏を尖らした手で一突きし朗太から突き放した風華は乾いた笑みを浮かべていた。
「手が滑った?! 絶対わざとです!」
「纏ちゃんが朝っぱらから淫らに交友しているのがいけないのよ?」
きゃんきゃん抗議する纏に風華は取り合わなかった。纏の言葉など関係など無いように無視し「で、凛銅君」と朗太の方へ向き直った。
「早速だけど、なかなか楽しそうだったね」
(コワ)
「纏ちゃんと腕を組めて、なかなか幸せそうだったね凛銅君?」
ニッコリと笑いつつもその目は欠片も笑っていなかった。
「……………………」
昨日の今日で早くも所有欲を隠さなくなった風華に、朗太はダラダラと冷や汗を流した。
だがこの怒りも仕方が無いと思う。三人の答えを保留している男が、うち一人とキャッキャしていて機嫌を損ねないわけがない。朗太は何も言い返せなかった。
それと、最近身をもって痛感していることだが、怒った風華は姫子なんてお話にならないくらい怖い。
朗太はまるで蛇に睨まれた蛙のように固まりながら、どうしたものかと脂汗をかいていた。すると
「ホラ、バカやってないで行くわよ」
パシーンと風華の頭部を姫子がはたき、姫子が朗太たちの横を通りすぎていく。姫子の亜麻色の髪と暖色のマフラーが冬の大気に揺れていた。
「ちょっと姫子! 余裕ぶってないで加勢してよ! 凛銅君は纏ちゃんの感触に鼻の下伸ばしてんのよ!?」
「くっ、うっさいわね!!」
余計なことを言われた姫子はバツが悪そうに顔を赤くしていた。
「いちいち相手しきれないって話よ! こいつが優柔不断なのなんて今に始まった話じゃないでしょ!」
「おい!」
「確かに」
「それは言えていますね」
「いやいやそこまで俺優柔不断じゃないぞ!?」
とんでもないレッテルが張られそうになり声を大にして否定する朗太。
しかし、世の中には言って良いことと、言ってはならないことがある。
また、自分がしでかしたことに対する必要な『自覚』というものもある。
朗太の放った言葉は明らかにそれらから逸脱していて、それを聞いた姫子はわざわざ朗太の下へ引き返してきて
「……じゃぁこの状況をどう説明するわけ朗太?」
と凄みをきかせて朗太を黙らせていた。
はい、すいません。
こんな調子のやりとりを何度も繰り返していたので、何かあったことなど誰の目にも明らかで、朗太たちの存在は多くの人の目に止まることになったのだ。
それにより多くの生徒に悪口を言われ、陰口を言われ、そして
「凛銅さん! お話聞かせてください!」
「嫌だ!」
新聞同好会の部長のメガネ女子、秘色からインタビューを受けそうにもなっていた。
だが朗太はこれを鉄壁の意思でガード。なんなら、卑怯なことこの上ない。
これまでの事件で共謀していたことを利用し、マイク代わりにボールペンを突きつけ詰め寄る秘色の情に訴え追及を逃れようとしたのだが、
「何言ってるんですか? 関係ないですけど?」
やはり報道に燃える秘色に取り付く島は無かった。
(く、くそ……)
朗太は内心で吐き捨てた。
このような学園生活を過ごしていたからこそ冬休み、しばらく学校に行かなくて良い、生徒たちと、やじ馬たちと、顔を合わせなくて良い日が訪れたのは朗太にとっても幸福だった。
のだが……
まさか学校という生徒たちの目がある環境が、エヴァの拘束具のように彼女たちの動きに制限をかけていたとは、冬休み前のロングホームルームを受けている朗太は微塵も思ってもいなかったわけである。
朗太はこの冬休み、これまで以上の攻勢にさらされる羽目になる。
《冬休み編・開始》
《DAY0》
12月24日。
「お、朗太急ぐのか?」
「あ、あぁ……。また今度な、大地、誠仁」
「おう、じゃぁな、朗太」
「勉強サボるなよ朗太」
担任が「では皆、体調管理には気を付けるように」とロングホームルームを締めくくると朗太は親友の大地と誠仁と別れの言葉を交わし下校していた。
そして帰宅するや否や始めたのは家の掃除だった。
実は、例の朗太が尋常ではない日和かたをしたクリスマスパーティー、姫子の家で行う予定だったのだが、突然妃恵が休暇を取ってしまったので、急遽朗太の家で行うことになったのだ。それで家の掃除を行う必要が出てきたのである。
「待ってたよお兄!」
帰ると腕をまくり三角巾をかぶりゴム手袋をし掃除機をかける、やたら気合をいれて掃除をする弥生がいた。
「姫子さんたちが来るんだってね!? 失礼が無いように掃除するよ! あの三人にはおかしなところ見せられないんだから気合入れて!!」
「そんな気合入れなくても……」
「馬鹿おにぃ! おにぃが良くても私が良くないんだよ!」
この気合の入れようで多くの者は察するかもしれないが、実は弥生は既に朗太たちの間で起きたことを知っている。それなので事前に事情を説明したところ『なら部屋綺麗にしておかないとね!!』とメッセージが返ってきたというわけだ。
ちなみに実情を話した時の弥生は凄かった。
先週くらいだろうか。朗太が今後のことなどを考えつつ、様々なことに悩みつつ、深夜一階のリビングへ降りていくと、寝そべってTVを見ていた弥生に出し抜けに「何かあったの?」と尋ねてきたのだ。「ここ最近、落ち込んだと思ったら、復活したり、その後また思い悩んだりと、忙しそうじゃん」と。
そして、あのような自分のしでかしを隠し通せるわけもなく、また、弥生という肉親に隠すのは問題があるような気がしたので朗太はつっかえつつも先日の件を詳らかにしたのだ。
「ええええええええええええええええ!?!?!? しんっじられない!!!」
返ってきたのは、案の定、否定の言葉だった。
「はぁぁぁぁぁぁ!?!? お兄ちゃんごときミジンコクラスの人間があの美人三人衆の告白を保留にしたの!?!?」
「う、うん……」
事実なので頷くしかなかった。朗太は視線を落とし肯定するとすぐに追撃は来た。
「何やっちゃってんのお兄ちゃん?!」
「い、いや、でも、俺なりに考えたんだぞ……!?」
「だから何!? その結果で三股って余計最悪じゃん! お、おにぃ! 自分が何しでかしたか分かっているの!?」
「わ、分かっているよ、多分……。ふざけたことしたって言いたいんだろ?」
「そうだけど、その赤面して恥ずかしそうに言っちゃっている時点でその重大さを一ミクロンも分かってないわよ! この馬鹿おにぃ!! 青ざめなきゃいけないとこだよ! 身の程を知れ!!」
「わ、分かったよ……。で、でも仕方ないだろ……? こうするしかなかったんだ……。申し訳ないとは、思っているよ」
「思ったところで行動が伴わないと意味ないんだよ! バカおにぃ! このドヘタレ! も~~~やだ~~~。こんなお兄ちゃん~~~」
弥生はだらしない兄に頭を抱えていた。
「もう他のおにぃに交換して欲しい……。なんでおにぃがおにぃなの……?」
「ひ、ひでぇ……」
そしてやたら哲学的なセリフで朗太を罵倒していた。
だがしばらくすると気を取り直したようで
「お、おにぃ、いや、兄だと認めたくないから、おいそこの男!」
「そこの男?!」
15年近く弥生の兄として生きてきて初めてぶつけられた言葉である。
朗太のしでかしは朗太を兄の座からそこの男へ引きづり下ろした。
落ち込む朗太に弥生は言う。
「もう! これで結局全員に振られたとかシャレにならないんだからしっかりしてよね!」
「あ、うん……」
『そこの男』発言にショックを受けている朗太はとりあえず頷く。
「もう本当にだよ! しっかりして! これはお兄ちゃんだけの問題じゃない! もうこれは凛銅家の問題だよ! 我が凛銅家にあんな超絶有能遺伝子を取り込めるのは滅多にないんだからね!」
「いやお前何言ってんだ?!」
だがそのショックも次の瞬間には吹き飛んだ。
凛銅家の遺伝子保存という遠大な視点から物申す、まるで神やその他人間より上位種族から俯瞰しているかのような物言いに朗太はツッコミを入れずにはいられなかった。遺伝子とかもう色々と考えが飛んでいてアウト過ぎる。
しかし弥生からすると十分な正当性のある発言のようで
「うっさいよ! 妹の私からしたらお兄ちゃんの引き取り手にあの人たちが担ってくれるならそれ以上のことはないんだよ! 分かる?! おにぃのこと考えて言ってるんだよ! そしてこれはおにぃの妹である私の問題でもあるの!」
「そ、そうか……。まぁそうだよな。妹だと色々不安になるよな」
「そうだよ! だからポイされないでねって言ってんだよ! 絶対に! ホントありがたい話なんだから! ホントお兄気を付けてね?! お兄ホントヤバいことしてるからね?!」
「わ、分かったよ。というかもう十分、分かってはいるよ。いつポイされても、おかしくないことしていることくらい……」
「こら! おにぃが落ち込むんじゃない!! 落ち込みたいのは纏さんたちの方!」
今にも死にそうな勢いで欝々としだした朗太を弥生が叱り、それに平謝りする朗太に弥生は言う。
「とにかくもう! おにぃは自覚をもって! 話は聞いた! 分かった! 話の流れは理解した! だから言うね! もうおにぃに出来ることは、開き直って出来る限りさっさと本当に好きな相手を判明させて、もろもろ謝って付き合わせてもらうことしかない! 分かった!? それに全力を投じるのよ! それまでは出来る限り相手に真摯に向き合って! 分かった!? 避けるとか最悪だからね!?」
「は、はい……」
そのような会話をしたからこそ、今の弥生があるのだ。
こうして弥生監修の下、「そ、そこまでする必要ないだろ……」と宣う朗太と弥生で彼女たちが訪れるであろうリビングの清掃を終えると同時にインターホンが鳴った。間違いなく姫子たち三人組である。
「はーい!」
弥生が玄関で出ていき、リビングで朗太が雑巾を絞っていると玄関からきゃぴきゃぴした声が響いてきた。
『あらー姫子さんと纏さんと風華さんじゃないですか。お久しぶりです~。夏休みぶりですか?』
『久しぶり~弥生ちゃーん。あれ~また可愛くなった?』
『いえいえ風華さんほどじゃないですよー』
『フフフ、そんなことないよー。これからも宜しくね弥生ちゃん、未来の義姉として~?』
『え?』
遠くで弥生がフリーズする声がする。
客観的に見て、風華の攻勢が凄い。
『あ、ちょっとずるいですよ風華さん!! 弥生ちゃんを義妹にするのは私ですよ!』
『アンタも隙あらばね! 許さないわよ!』
『うっさいわね! 将を射んと欲すれば先ず馬でしょ! 何が悪いって言うのよ!』
その後もワイワイする声が玄関から響いてきていた。
「朗太、そこのオタマ取って?」
「お、おう」
その後、朗太達はキッチンで料理をしていた。トマトやら鶏肉やらその他もろもろの食材と調味料が散在する狭苦しいキッチンに朗太、姫子、纏、風華の四人が入り乱れクリスマスならではの料理を用意していた。
先日「で、クリスマスパーティーって何するの?」と尋ねたところ返ってきたのがその返事だったのだ。ここでご飯を食べ、その後イルミネーションを見に行くらしい。彼女たちの気持ちを自覚すると、何ともむずかゆいプランである。
「見ててね、凛銅くん! 私の調理技術を!」
「ふ、先輩に私の本気を見せてあげます……」
これからのプランに朗太が顔を火照らせていると風華と纏が言い合い、その一方で、姫子は「…………」と顔を赤くし口をつぐみながら悲壮な表情でエプロンを装着していた。
「大丈夫か?」
「大丈夫よ! うっさいわねぇ!」
「うっさくはなくね?!」
決死の覚悟でエプロンを着用している姫子が流石に心配になり声をかけるも、口ぎたなくののしられ朗太は思わず叫んだ。
心配されること自体がプライドに触れたらしい。
だが案の定、その後姫子はやらかし
「姫子さん、それは水に通すんですよ!」
「姫子、そこは一度湯煎する!」
などと菌類食材の洗い方や、バターの処理の仕方などで手厳しく風華や纏たちに指示され
「うっさいわね! そんなことしたって対して味変わんないでしょ!!」などと言い返していた。
だがある時、その時姫子が取った操作が、明らかに間違いであると朗太にも分かり、「い、いや姫子、それは一度水に通すんだぞ……」と言うと「アンタ! 調子乗ってんじゃないわよ!?」と顔を真っ赤にし朗太を叱り返していた。
「いや調子乗っている要素はなくない?!」
朗太の叫びがリビングにまで響く。
その台所での様子をリビングテーブルで肘をつき眺めていた弥生は呟いた。
「順調にやらかしてますなー」
その後姫子はキッチンを解雇になり、朗太も「もう休んでいて良いですよ」と纏たちに言われたのでリビングのテーブルにつく。するとそこには項垂れる姫子がいた。
「料理が下手で悪かったわね」
朗太が席に着くや否や姫子は顔を赤く染めつつ言う。「これでも練習したのよ」とも。
どうやら調理技術が上達していないことが知られたことが相当恥ずかしく、プライドに触ったらしい。姫子の顔は真っ赤だった。
しかし姫子の認識は間違いだ。
確かに纏や風華に比べると劣って見えたかもしれないが、夏休みの姫子の料理技術を知る朗太からしてみればそこには格段の上達があったのだ。
練習をしていたことなど、見た瞬間から分かっていた。だから
「み、見てれば分かったよ……。練習したことくらい。というか、相当上手になったんだな」
朗太が頬を染めつつ言うと「当たり前でしょ……」と椅子に体育すわりをしながら姫子は言い
「全く、誰のために上手くなったと思ってんのよ……」
「す、すまん……」
そのあまりのいじらしさに朗太は赤面した。
「風華さーん、姫子さんが料理が下手なことを逆手にとって先輩に近づいていますー」
その光景を見てすかさず纏がこれ以上は良い雰囲気を作らせまいと牽制球を飛ばすが
「そ、そんなことよりも油に火が火が!」
「あ、ちょっと風華さん何やってんですか?!」
「「きゃあああああああああああああ!!!」」
同時に風華がフライパンにひいた油に火が引火し大変なことになり二人は悲鳴を上げていた。
その後出てきた、チキンやパエリア、そのほかサラダなどどの料理はどれも美味しかった。弥生も「これ本当に美味しいですね?!」と目を丸くしていた。
そして料理を食べ終えると
「じゃ、プレゼント交換をしましょうか!」
プレゼント交換の運びとなったのだが「え、プレゼント交換なんてするの」「き、聞いてないんだけど……」そのセリフに青ざめたのが朗太と姫子だった。
朗太も姫子もプレゼントなど用意していなかったのだ。
なぜなら朗太は朗太で、これまでクリスマスパーティーになど参加したことが無かったのでそれが現実のものであるか分からなかったし、この状況下で皆にプレゼントを買うことは道義的に甚だ疑問だったからだ。
また姫子は姫子で
「いや付き合ってもいないのにプレゼントとか重いでしょ!!」
とのことでプレゼント否定派。しかし纏はというと
「ま、そこまで気にしなくて良いんじゃないですか? 渡したければ渡せば良いだけで」と軽いスタンスで、「というわけでこれが私からのプレゼントです」と言ってバッグをごそごそして小さな箱を取り出していた。
「といっても大したものじゃないんですけどね、はいどーぞ。先輩」
「え、あ、良いの貰って? ありがとう……なにこれ」
「ホットアイマスクです」
まさかの贈り物に慌てふためく朗太。中身を聞いて頬を朱に染めていた。
「あ、ありがとう……」
「嬉しいですか?」
「も、勿論……。これで俺の視力は回復する」
「別にアンタ視力落ちてないでしょ……」
姫子の力のないツッコミが入った。
そして纏とのプレゼント交換? が終われば次は風華で、自分の番となった風華はジャジャーン! と言いながらビニールに入ったプレゼントを寄こしてきた。
「ん? え……??」
だが一瞬渡されたソレが予想外すぎるもので朗太は固まる。
朗太だけではない。その場にいた風華以外の全員が固まっていた。
ビニール袋に入っていた銀色のパッケージ。それは
ブルーベリー ルテイン入り のサプリ。
(皆、自分の目への心配がヤバい……)
「ハー!? こんなもの渡すとか信じられません!」
「いやお金じゃないから! 額じゃないから! 私も凛銅君の視力を心配しただけだから! 結局纏ちゃんと考えは一緒だから!」
「いやそれでも渡すものっていうのがあるでしょう!」
「フン、だからね、これはほんのジャブなのよ! 本当のプレゼントは別にあるわ!」
それを見て言い合う風華と纏。
纏的にはこれは『無い』プレゼントだったらしい。
だが風華によると、サプリは前座であるらしく、皆が何が出てくるのだろうと風華のセリフを不思議に思っていると
「でね、プレゼントは、私!! 特別に進呈しよう!!!」
風華はとんでもないことを言い出し
ヨッシャ―――!! キタコレ――――!!!!
朗太は自分のしでかしを忘れガッツポしそうになるが
「何バカなこと言ってんですかこの人は?!」
「ちょっと風華、アンタいい加減になさい! てゆうか朗太も鼻の下伸ばしすぎよ! この変態!!!」
と纏が風華に詰め寄り、姫子が朗太に詰め寄る展開になっていた。
心底申し訳ないと思う。
それから食器洗いやゴミの処理などを済ませ部屋を綺麗にし直すと、日が落ちてきたので朗太たちは外着を羽織りだした。
それを見て弥生が言う。
「あれ、この後出かけるんですか?」
「うん、弥生ちゃん、ちょっとイルミネーション見に行くわ! お兄ちゃん借りてくわよ!」
「え、それ本当ですか?!」
姫子の返事に弥生はぎょっとしていた。
「え、そんな驚くことなの弥生ちゃん?」
「い、いやイルミネーション見に行くこと自体はおかしくはないんですけど……」
聞き返してくる姫子に弥生はそう言うと、目尻の涙をぬぐった。
「大人になったねお兄ちゃん……」
「え、どうしたんだ弥生」意味不明なリアクションに眉を顰める朗太。
「去年、イルミネーションのことお兄ちゃんなんて言ってた?」
「や、やめろそれは言うな!」
だが次の瞬間、弥生の言わんとすることをようやく察し止めに入った。
しかし既に時すでに遅し。
朗太が弥生を黙らせようとすると同時に三人は既に「教えて!」と食いついていて「やめろおおおお!!」と叫ぶ朗太の抵抗もむなしく、それは明らかにされてしまった。
「お兄ちゃん、イルミネーションのこと言ってたよね。『電飾見学』って……」
「「「……………………」」」
そのロマンの欠片も無い、というよりそう言ったキラキラしたものを嫉妬から徹底的に排除した結果発生したことが容易に想像がつく、イルミネーションを可能な限りこき下ろした表現に三人は閉口した。
「やめて!! 俺の恥を晒さないで!!」
静まり返ったリビングに、朗太の叫びがむなしく響く。
「無いわ朗太」
「さすがに私もこれはきついかなー」
「先輩、最低です」
三人は朗太に冷ややかな視線を向けながら口々に苦言を呈していた。
おかげで朗太は白状するしかなかった。
「いや、分かった。正直に言おう。……ただの嫉妬だ」と。
「フッ!」
その朗太の暴露に風華は吹き出した。すかさず姫子が言う。
「何笑ってんの風華」
「いやそういう素直なところ私は好きだよ凛銅君。嫉妬、可愛い……」
なぜか風華の中の印象が上がったらしい。不思議な現象である。
そして皆が閉口しているとニコニコ笑みを零す風華が朗太に近づいてきて
「じゃぁ行こっか凛銅君」
「お、おう……」
「電飾見学だっけ?」
「やめて!!」
こうして朗太たちは夜の街に足を延ばしたのだった。
……ちなみに。
今日の料理で出来た生ごみは弥生が料理創作のために生み出したものということで通す予定なのだが、その嘘が親にバレ、彼女たちが家に召喚されることになることを、今の朗太は知らない。
「いってらっしゃーいお兄ちゃーん!」
「おー行ってくるー」
朗太たちは弥生に手を振り家を出ていた。
こんな感じで冬休み編は一話当たりの文章量が多めです。(全話ではないですが……)
宜しくお願いします。
明日も投稿しますーー。




