第3-12話 襲来(2)
もちろん私は一目で分かった。
あの小さな女の子が、あの夜慶太さんが公園で助けた女の子だということに。
そして、あの子が慶太さんに、強い恋心を抱いていることに。
別に私は人の感情に敏感なわけでも、洞察力に優れているわけでもないけれど、そんな私でも一瞬で分かってしまうほど、あの子はあからさまだった。
あれだけ慶太さんのことをうっとりした目で見つめていたら、誰だって勘付くに決まってる。慶太さんも、なんとなく感じているんじゃないかしら。
しかもあの子ったら、私に対して露骨に視線で問いかけてくるのだ。
“アナタ、慶太の何なのよ?”――と。
だから、心の中でちょっとだけ、“慶太さんとお付き合いさせていただいてます、池内桃香と申します”なんて自己紹介してみようかと思ってしまった。
まあ、あの子はまだ中学生くらいだろうし、まともに張り合うのも大人げないからそんなことしないけどさ。
慶太さんは、お二人に飲み物とクッキーをお出しすると、すぐに戻ってきて残っていた洗い物をやり始めた。
お父さん――店長は慶太さんに、そんなに忙しくもないしちょっと話してくるくらいいいんだよと言ったのけど、慶太さんはあくまで給料をいただいて働いているのだからと仕事を続けている。
本当に真面目な人だなと思う。
普段の私だったら、ここで慶太さんの横に並んで一緒に洗い物をするところだけど、でもせっかくだから、私はもう少しあの二人と話してみたかった。
慶太さんとの関係も気になるし、私の知らない情報を得られるかもしれないし。
店長の言う通り、今はそれほどすることもなかったから、私はこっそり厨房を抜け出して、二人のところに歩いて行った。
最初に見た時も思ったけど、二人とも羨ましくなるような容姿をしている。
女の子の方はまだ幼さが残っているけど、天使のように愛くるしくて、たとえ警戒されていたとしてもつい抱きしめたくなるくらいに可愛らしい。
お連れの女の人は、それこそ絶世の美女と言っても過言じゃないくらいに綺麗だった。お顔もそうだし、スタイルだって抜群だ。私も自分の曲線美にはそれなりに自信があるのだけど、胸だけはちょっとね……やっぱり慶太さんも、大きい方が好きなのかな。
私が近づくと、奥に座っていた女の子が私に気付いて顔を上げた。それを見て、手前側の女の人も体を反らしてこちらに向き直る。
「お味の方はいかがですか?」
いきなり本題に入るのも何なので、まずは当たり障りのない話から。
私が訊ねると、女の子はまだ警戒を解こうとはしなかったけど、女の人はふわりと柔らかい微笑みを見せてくれた。
「とてもおいしくいただきました。良い豆をお使いなのですね」
綺麗な人は声も綺麗なんだなと、率直にそう思った。
「私はよくは存じませんが、店長の知り合いの卸売業者に外国から安く仕入れてもらってるみたいです」
そんな話を、お父さんから聞いたことがあった。
我が店ながら、コーヒーの味には自信がある。それを褒めていただけることは、素直に嬉しかった。
けど、コーヒーの感想はこの際どうでもいいわけで。
いまだ警戒心の宿る女の子を横目に、私は聞きたいことを口にした。
「お二人は慶太さんとお知り合いなんですか?」
「ええ。勤務中の慶太さんはどのような様子ですか?」
「とても頼れる先輩って感じですね。私もここのバイト始めたばかりなんですけど、手取り足取りすごく優しくしてもらって」
少しだけ親密さを強調してみると、思った通り女の子の表情に緊張が走る。
「そうなんですか? 少々人見知りなところもあるので、とっつきづらい人だなと思われてるのではないかと心配していたのですが」
この人も慶太さんのことよく分かってるのね……。
でも、さすがにこの人まで慶太さんのことが好きだというわけではなさそうでちょっと安心。
「そんなことないですよ。いつも丁寧に仕事を教えてくれますし、この前だって飲み会帰りに家まで送ってくれました」
女の子の顔がますます険しくなってくる。
「あらそうですか。確かに基本的には優しい方ですからね」
「はい、優しくしてもらってます」
満面の笑み――それは、勝利の笑みといっても良かったかもしれない。
女の子は、いっそ悲壮な表情を浮かべている。
「お手洗いかな?」
「違う!」
とぼける私に対してムキになる女の子は、とても可愛らしかった。
「じゃあ、慶太さん呼んできますね」
そう言い残して、私は厨房に戻った。
今日のところは私の勝ちかな。
でも――年齢の差はあるにしても、ちょっと強敵だな……。




