第3-10話 女子会(2)
「そんなことがあったんだ……」
私が慶太さんと出会ってから好きになるまでの経緯をかいつまんで話し終えると、菅原さんはしんみりと呟いた。
さっきまでからかい調子だったはずなのに、私が話し始めると二人はすごく真面目な顔で聞くものだから、もう恥ずかしくて恥ずかしくて、顔から火が噴くかと思ったほどだ。
でも、話の途中で変に囃されたりしなかったことが、私はとても嬉しかった。
「ホント、意外よねぇ。あの慶太君が女の子を助けるなんて……」
でも、失礼なことに変わりはない。竹内さんも菅原さんも、そこまであからさまに驚いた表情をしなくたっていいのに。
だけど、竹内さんの言うことも分からないでもなかった。
確かに慶太さんは、傍目には無気力で、面倒臭がりで、素っ気なくて、あんまり他人のことを気にしないマイペースな人だと写ると思う。
私だって前もって慶太さんのことを知らなかったら、きっとこんなに好きになったりしなかっただろう。
けれど、それでも私に傘を貸そうとしてくれたし、絡まれている女の子を助けたことは間違いない。
だから慶太さんは、本当に優しい人なんだと思う。ただそれを見せるのが下手なだけで。
たまたまかもしれないけれど、私は慶太さんのそういう優しいところに気が付けて、良かったと思っていた。
「ここまで聞いたんですから、協力してくださいよ?」
恥ずかしさを紛らすために、いっそ開き直ってみる。
二人とも慶太さんとはそれほど仲が良いというわけではないかもしれないけど、付き合い自体は私よりもずっと長いはずだ。
何より二人とも私なんかに比べたらずっと恋愛経験豊富そうだから、きっと頼りになると思う。
「協力って言っても、押せばいけそうな気するけどね」
竹内さんは簡単に言うけど、押し方だってあるじゃない。
それに慶太さんは、竹内さんが考えてるよりずっとガードが堅いと思う。
「でもそんな話聞いちゃうと、私も石神君のこと好きになっちゃいそうになるわね」
「ダメです!」
私は反射的に立ち上がっていた。
ここまで散々言っておいて、好きになるなんてそんなの絶対許されない。許されていいはずがない。
それでも竹内さんは動じもせずに、タバコを吸いながらくすくすと笑うのだった。
「もう、石神君のことを馬鹿にすると怒るくせに、好きになってもダメだなんて我が儘ね……」
まるで世間を知らない子どもを見るかのように、竹内さんは慈しみのこもった眼差しを私に向ける。
結論として、私はどうあがいても竹内さんには敵わないようだった。
せめて一矢報いたくて、「やっぱり年の分だけ人生経験豊富ですね」なんて言ってやりたかったけど、さすがにひどいと思ってやめておいた。
ついこの間、竹内さんが年齢のことを結構気にしてるって聞いたのよね。
先の歓迎会でも、自分がダントツで最年長だったことにショックを受けていたそうだ。
「けど、それだけ桃香ちゃんは石神さんのこと好きだってことだよね!」
ホント、いちいち口に出さないでいいのに……。
菅原さんも、単純明快なだけに性質が悪い。
これで武田さんのことを訊き返しても、菅原さんはまったく動じることなく惚気話でもするんだろうな……。
それからますます夜は更けていき、ブルーメ女子会は大いに盛り上がった。
竹内さんのお酒の強さにあらためて驚き、スタイルの良さを羨ましく思い、達観した人生哲学には憐れみを覚え――
菅原さんの可愛らしさに憧れ、惚気話にうんざりし、現在進行形の恋に親近感を抱き――
慶太さんのことを抜きにしても、ブルーメに来て良かったなって思ったのだった。




