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お嬢様は恋煩い  作者: 霧原善光
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第3-8話 女子会

 

 

「で、石神君とはどこまで行ったの?」

 いきなり竹内さんにそんなことを言われて、私――池内桃香は飲みかけたカシスオレンジを盛大に吹き出してしまった。

「げほっごほっ……」

「大丈夫桃香ちゃん?」

 菅原さんが私の背中をさすりながら、ナプキンを手渡してくれる。

「ごほっ……大丈夫です」

 口を拭って、私は何とか息を整える。

 今日、私はバイト先の先輩にあたる竹内さんと菅原さんと三人で駅前の居酒屋に飲みに来ていた。

 二人の方から誘って下って私はとても嬉しかったんだけど、飲み始めた瞬間から二人は私の恋愛事情を根掘り葉掘り聞き出そうとしてきて、私は厳しい防戦を強いられていた。

 中学高校とこれまで男の人と付き合ったことなんてなかったから、二人に語って聞かせるような話なんて私にはない。

 けどそれでは二人とも満足してくれなくて、話はとうとう慶太さんの話に及んでしまったのだ。

「いきなり何てこと言うんですか竹内さん!」

 竹内さんは私の剣幕にも特に意に介したふうでもなく、深々とタバコを吸って、ゆっくり煙を吐き出した。

「だってほら、せっかくこの前は二人きりになったんだし、当然行くところまで行ったんでしょ? 酔っぱらった年頃の男女が二人……もう、やるっきゃないわよね」

「何がですか!?」

「何がってもうカマトトぶっちゃって」

「うぅ……」

 竹内さんにいじめられる私を、菅原さんがよしよしと慰めてくれる。

「でも、本当はどうなったの? 告白はした?」

「……してません」

 私が正直に答えると、菅原さんは大げさに驚いた様子を見せる。

「ええ!? だってせっかく二人きりになれたんだよ? ここはもう既成事実作っちゃって、無理やりにでも持って行かないと!」

 菅原さんの言ってることも、結局竹内さんと同じだった。

「だって、そんな状況じゃなかったんですから……」

 思い返して、小さな後悔が私の胸をちくりと刺した。

 私の歓迎会が行われた日、私は絶好のチャンスを得ることができた。

 慶太さんと二人きりになって、アルコールのおかげもあってか公園に誘い出すところまではいったんだ。

 だけど、それでおしまいだった。私としては結構大胆に攻めたつもりだったんだけど、私の想いが慶太さんに伝わることはなく、そのまま家まで送ってもらって別れてしまった。

 もしあの時、私が勇気を振り絞って告白していたらどうなっただろう。

 もしかしたら、慶太さんは私の気持ちを受け止めてくれたんじゃないだろうか。今頃私と慶太さんは、恋人どうしになれていたんじゃないだろうか。

 そんな思いが、ずっと私の中でわだかまっていた。

 もっとも、冷静に考えるとその可能性は低かったと思う。慶太さんはシャイだから、知り合ったばかりの女の子から告白されたところで、多分そう簡単には付き合ったりしなさそうだし。

 だからちょっぴりの後悔と同時に、私は早まったことをしなくて良かったと深く安心していたのだった。

「覚えてないだけで、何かされた可能性はない?」

「ないです!」

 私が強く言い切ると、二人はこれ見よがしにため息をついて肩を落とした。

 本当にひどい先輩たちだ。ちょっとくらい、私の純粋な気持ちを慮ってくれてもいいのに。

「でもさあ、気になってなんだけど、桃香ちゃんってどうして石神君のこと好きなの?」

「え?」

 菅原さんの言葉に、竹内さんもうんうんと頷いている。

「だってそうじゃない。まあこう言ったら失礼だけど、石神君って別にカッコ良いわけでもないし、面白いわけでもないし、いっつも気だるげにしてるし。おまけに大学中退だし、正直、好きになる要素なんてないと思うんだけど」

「むー、さすがにそれは言い過ぎですよ!」

 他人の好きな人に対してそこまで言うなんて、やっぱりひどい先輩たちだ。

 ……まあ、本当は竹内さんにも菅原さんにも、私が慶太さんのことが好きだなんて言ったことなかったんだけど、完全に決めつけられていることに関してはこの際もう何も言わないでおく。

 今さら何を言ったところで遅かったし、私が慶太さんに恋しているのは事実だし。

「ごめんごめん」

 そう言う菅原さんは、特に悪びれた様子もない。

「でも確かにそれは私も気になってたわね。前から知り合いだったの?」

「いえ、そういうわけでもないんですけど……」

 竹内さんに訊ねられて、私はふるふると首を振る。

 そろそろ慶太さんの話は終わりにしたかったんだけど、二人の前でそれは望むべくもないことだった。

「ねえ教えてよ。なんで石神君のこと好きになったの?」

 結局私は観念して、慶太さんとの出会いから二人に話すことにした。

 ううん、本当は誰かに話したかったのかもしれない。話して、私の恋に協力してほしかったのかもしれない。

 そんなふうに考えてしまうあたり、自分でも打算的な女だなと思って、少し嫌になるのだった。

 

 

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