第2-8話 団欒の後(4)
柔らかいベッドに身を投げ出して、私は大きく息を吐いた。
本当に、自分で自分が嫌になる。
さゆは何にも悪くないのに、あんなふうに怒鳴ってしまった。
さゆとは生まれた時からずっと仲良しで、喧嘩なんてこれまで一度もしたことがなかったのに。
いつでもさゆは優しくて思いやりがあって、私のことを気遣ってくれていたのに。
私もさゆのことが大好きで、一番の友達だと思っていたのに。
なのに――
「うぅ……ん……」
私が叫んだ時の、さゆの凍りついた表情が頭から離れない。
そんなつもりはなかった。
怒鳴るつもりなんてなかったのに……どうしてあんなこと……。
……私は怖かったんだ。
大好きなさゆと、大好きな慶太が一緒になって、私だけが独りぼっちになるのがとても怖かった。
慶太の優しい微笑みがさゆに向けられているのが嫌で、私に構ってほしくて。
さゆが慶太のことを楽しそうに話すのが嫌で、慶太を取らないでって思って。
気付けば思いが決壊していた。
……さゆ、私のこと嫌いになっちゃったよね。もう私とは友達でいてくれないよね。
そして慶太も、こんな私のこと好きにはなってくれないよね。
さっきのことを慶太が知ったら、なんて思うかな。
これまでみたいに私に優しくはしてくれなくなるだろうな。
私は二人のこと大好きだけど、二人はもう、私のことを好いてはくれない……。
知らないうちに、涙が零れていた。
そのことに気付くと、ますます涙が止まらなくなって、声も抑えられなくなって、布団の中にもぐりこんで、私は思いきり泣いた。
――だから、部屋に誰かが来たことにもまったく気が付かなかった。
「お嬢様」
急に琴葉の声が聞こえて、私はビクッとした。
でも、琴葉の顔を見るのが怖くて、私は布団の中でじっとしていた。
……琴葉にも嫌われちゃったかな。
琴葉はずっと私のことを可愛がってくれてたけど、さゆにあんなこと言って、もう一緒にはいてくれなくなるかもしれない。
そしたら、私はもう完全に独りぼっちだ……。
「ごめんね、琴葉」
琴葉の顔を見るのは怖かったけど、謝らずにはいられなかった。
こんな私でごめんね。
ずっと一緒にいてくれてたのに。
さゆのこと傷つけて、本当にごめんね。
「私に謝る必要なんてありませんよ」
布団がめくられて、私は体が外気にさらされる。
すると、不意に私の体は、布団よりももっと暖かくて柔らかい感触に包まれた。
私の体を、琴葉が優しく包み込んでくれていた。
その温もりを感じて、私はますます泣いてしまった。
「私はずっと、お嬢様のそばにいますから」
私は体を返して琴葉に抱きついた。
「お嬢様は、慶太様がさゆに取られるのが怖かったんですよね」
「うん」
「大好きな慶太様と大好きなさゆが、お嬢様を一人にしてしまうことが怖かったんですよね」
「うん」
「そんな心配、ありませんよ。たとえどんなことがあっても、私はお嬢様と一緒にいますから」
その言葉で、私の中で最後まで頑なになっていたところは完全に消え去った。
もう、どうしたって泣き止むことはできなかった。
「それに、さゆもお嬢様のことが大好きですから。もしお嬢様がまださゆのことを好きでいらっしゃるなら、さゆもお嬢様と一緒にいたいと思いますよ」
そうかな……。
あんなひどいことした私を、さゆは許してくれるかな……。
「慶太様もお嬢様のことをとても大事に思っておられますから、きっとこれからも傍にいてくださりますよ」
慶太……慶太に会いたい……。
私がさゆにどれほどひどいことをしたか、慶太に懺悔したかった。
「慶太は……」
だけど一つだけ、どうしても気になることがあった。
「慶太は、さゆのこと好きなのかな……」
もしそうだったらどうしよう。
もし慶太がさゆのことが好きだったら、私はどうすればいいんだろう。
「嫌いじゃないと思いますけど……でも、お嬢様の方がずっと好きだと思いますよ」
「そんなの……分かんない……」
そんなの分かんない。
だって――
「さゆの方が……私より可愛いし……お料理も上手だし……優しいし……」
「でも、さゆよりお嬢様の方が、慶太様のこと好きですよね?」
……うん、それは絶対だ。
たとえさゆがどんなに慶太のことを好きになったとしても、私の方が慶太のことを愛してる。
それだけは間違いない。
「さゆは、お嬢様みたいに慶太様のことが好きなわけではありませんよ。ただ、優しいお兄さんだと思っているだけです。お嬢様のように、ずっと一緒にいて、お付き合いして、いつか結婚したいと思っているわけではありませんよ」
……そうなのかな。
でも、琴葉が言うんだったらきっとそうなんだ。
「だから安心してください、お嬢様」
そう言って、琴葉は私の頭を優しく撫でてくれた。
私は琴葉の胸の中で、小さく頷いた。




