表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お嬢様は恋煩い  作者: 霧原善光
13/28

第2-8話 団欒の後(4)

 

 

 柔らかいベッドに身を投げ出して、私は大きく息を吐いた。

 本当に、自分で自分が嫌になる。

 さゆは何にも悪くないのに、あんなふうに怒鳴ってしまった。

 さゆとは生まれた時からずっと仲良しで、喧嘩なんてこれまで一度もしたことがなかったのに。

 いつでもさゆは優しくて思いやりがあって、私のことを気遣ってくれていたのに。

 私もさゆのことが大好きで、一番の友達だと思っていたのに。

 なのに――

「うぅ……ん……」

 私が叫んだ時の、さゆの凍りついた表情が頭から離れない。

 そんなつもりはなかった。

 怒鳴るつもりなんてなかったのに……どうしてあんなこと……。

 ……私は怖かったんだ。

 大好きなさゆと、大好きな慶太が一緒になって、私だけが独りぼっちになるのがとても怖かった。

 慶太の優しい微笑みがさゆに向けられているのが嫌で、私に構ってほしくて。

 さゆが慶太のことを楽しそうに話すのが嫌で、慶太を取らないでって思って。

 気付けば思いが決壊していた。

 ……さゆ、私のこと嫌いになっちゃったよね。もう私とは友達でいてくれないよね。

 そして慶太も、こんな私のこと好きにはなってくれないよね。

 さっきのことを慶太が知ったら、なんて思うかな。

 これまでみたいに私に優しくはしてくれなくなるだろうな。

 私は二人のこと大好きだけど、二人はもう、私のことを好いてはくれない……。

 知らないうちに、涙が零れていた。

 そのことに気付くと、ますます涙が止まらなくなって、声も抑えられなくなって、布団の中にもぐりこんで、私は思いきり泣いた。

 ――だから、部屋に誰かが来たことにもまったく気が付かなかった。

「お嬢様」

 急に琴葉の声が聞こえて、私はビクッとした。

 でも、琴葉の顔を見るのが怖くて、私は布団の中でじっとしていた。

 ……琴葉にも嫌われちゃったかな。

 琴葉はずっと私のことを可愛がってくれてたけど、さゆにあんなこと言って、もう一緒にはいてくれなくなるかもしれない。

 そしたら、私はもう完全に独りぼっちだ……。

「ごめんね、琴葉」

 琴葉の顔を見るのは怖かったけど、謝らずにはいられなかった。

 こんな私でごめんね。

 ずっと一緒にいてくれてたのに。

 さゆのこと傷つけて、本当にごめんね。

「私に謝る必要なんてありませんよ」

 布団がめくられて、私は体が外気にさらされる。

 すると、不意に私の体は、布団よりももっと暖かくて柔らかい感触に包まれた。

 私の体を、琴葉が優しく包み込んでくれていた。

 その温もりを感じて、私はますます泣いてしまった。

「私はずっと、お嬢様のそばにいますから」

 私は体を返して琴葉に抱きついた。

「お嬢様は、慶太様がさゆに取られるのが怖かったんですよね」

「うん」

「大好きな慶太様と大好きなさゆが、お嬢様を一人にしてしまうことが怖かったんですよね」

「うん」

「そんな心配、ありませんよ。たとえどんなことがあっても、私はお嬢様と一緒にいますから」

 その言葉で、私の中で最後まで頑なになっていたところは完全に消え去った。

 もう、どうしたって泣き止むことはできなかった。

「それに、さゆもお嬢様のことが大好きですから。もしお嬢様がまださゆのことを好きでいらっしゃるなら、さゆもお嬢様と一緒にいたいと思いますよ」

 そうかな……。

 あんなひどいことした私を、さゆは許してくれるかな……。

「慶太様もお嬢様のことをとても大事に思っておられますから、きっとこれからも傍にいてくださりますよ」

 慶太……慶太に会いたい……。

 私がさゆにどれほどひどいことをしたか、慶太に懺悔したかった。

「慶太は……」

 だけど一つだけ、どうしても気になることがあった。

「慶太は、さゆのこと好きなのかな……」

 もしそうだったらどうしよう。

 もし慶太がさゆのことが好きだったら、私はどうすればいいんだろう。

「嫌いじゃないと思いますけど……でも、お嬢様の方がずっと好きだと思いますよ」

「そんなの……分かんない……」

 そんなの分かんない。

 だって――

「さゆの方が……私より可愛いし……お料理も上手だし……優しいし……」

「でも、さゆよりお嬢様の方が、慶太様のこと好きですよね?」

 ……うん、それは絶対だ。

 たとえさゆがどんなに慶太のことを好きになったとしても、私の方が慶太のことを愛してる。

 それだけは間違いない。

「さゆは、お嬢様みたいに慶太様のことが好きなわけではありませんよ。ただ、優しいお兄さんだと思っているだけです。お嬢様のように、ずっと一緒にいて、お付き合いして、いつか結婚したいと思っているわけではありませんよ」

 ……そうなのかな。

 でも、琴葉が言うんだったらきっとそうなんだ。

「だから安心してください、お嬢様」

 そう言って、琴葉は私の頭を優しく撫でてくれた。

 私は琴葉の胸の中で、小さく頷いた。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ