第2-5話 団欒の後
夕食をご馳走になった後、俺は三人に挨拶をして御影邸を後にした。
愛機に跨り、暗い夜道を駆けていく(念の為に言っておくが酒は飲んでない)。頬を撫でる風は涼やかで気持ち良く、俺の火照った頭をいい具合に冷ましてくれる。
今日は御影邸での宿泊を勧められるようなことはなかった。一応歯ブラシと髭剃り、下着の替えくらいは持ってきていたのだが、余計な荷物だった。
まあ、誘われないならその方が気が楽ではあるのだが、それはそれで寂しい気持ちになる。いざ泊まらせてもらうとなればまた申し訳なく思うくせに、本当に身勝手なものだ。
でも、人間なんて所詮そんなものだろう。エゴと良心に挟まれて、毎日身悶えしながら生きていくしかないのだ。
だが、まあとにかく――今日も楽しいひと時を満喫することができた。
おいしい食事にたくさんのお土産、そしてさゆりちゃんとの出会い。
さゆりちゃんは予想以上に可愛かった。しかもただ可愛いだけじゃなくて、とてつもなく良い子だった。人懐っこく、思いやりがあり、上品で、純粋で、少々隙もある。
きっとさゆりちゃんは妖精の国で生まれ育ったのだろう。そうでなければ、あれほどまでに愛らしい少女がこの世界に存在することに対して説明がつかない。
麻夕ちゃんとさゆりちゃんに囲まれたあのひと時は、俺もとうとう天に召されたのかと思ったほどだ。
ところで麻夕ちゃんといえば、今日は終始俯いていて、つまらなそうにしていた。
いや、初めは麻夕ちゃんも楽しそうにさゆりちゃんとキャッキャしていたのだが、だんだん口数が減ってきて、ついには塞ぎ込んでしまったのだ。
俺が御影邸に長居しなかったのも、それが一番の理由だった。
ああいうときは、そっとしておくに限る。
だけど少し心配だ。
もしかしたら、体調が優れなかったのかもしれないが……いや、やっぱり俺とさゆりちゃんが仲良くしすぎていたのが原因だろうな……。
きっと麻夕ちゃんは、さゆりちゃんともっとお喋りしたかったのだろう。そして俺にも話したいことがたくさんあったのだろう。
けれど、今日はずっと俺とさゆりちゃんが話してばかりいた。しかもその内容といえば、二人の表面的な情報ばかり――つまり、麻夕ちゃんからすれば全部知っていることだった。
だから退屈で、つまらなくて、でもその優しさゆえに俺たちの会話を邪魔することはできなくて、ストレスを感じていたのだろう。
まったく……俺は中学生の女の子の機嫌を取ることすらできないのか……。
麻夕ちゃんを楽しませることは俺の責務だ。
麻夕ちゃんがいたからこそ、俺はこうして琴葉さんやさゆりちゃんと知り合えたし、大きなお屋敷に招いてもらったり、贅沢な料理を食べさせてもらったりしているのだから。
それに、何度も言うが麻夕ちゃんはまだ中学生なのだ。大人の俺が気を遣ってやらなくてどうするのか。
ああ――今回は俺の配慮が足りなかった。真摯に反省するとしよう。
どうしよう……帰ったらなんてメールしようかな……。
元気がなさそうだったことを心配するようなメールを送るのは婉曲的過ぎるし、いきなり謝るのもなんか違う気がするし……。
やはりとりあえず、“今日もありがとう”と送っておくか。
もし麻夕ちゃんが怒っているようであれば、その時はその時でどう対応するか考えよう。
家に着くと、俺はまず一服してから風呂に入り、麻夕ちゃんにメールを送って“レグナス・ファンタジー”をプレイしつつ返信を待った。
いつもならすぐに返ってくるメールも、この日に限っては中々返ってこなかった。




