3話 ムサいヤツらが出てきやがった
――草原
オレサマは元来た道をトボトボと歩いていた。
く、悔しくなんかねェよ! 悔しくなんかッ!
……でもちっと泣きたい。
そ、それはともかく、ハラが減ったナ。
せっかく街でメシが喰えると思ったのによォ。
……仕方ねぇ。そこらの動物でも狩るか。
さて、何かエモノは……
周囲を見回す。
が、何もいやしねぇ。この際魔物でもいいんだゼぇ。
しばし待つ。
が、ナンの気配もねぇ。
……そういや日中に街道歩いてたら出るハズもねぇか。
オレサマは道を外れ、近くのヤブへと向かった。
――藪の中
半レン(約2m)弱くらいの木立の中を、オレサマは進んでいた。
この辺りは乾燥しているせいか、大木らしいモノはない。その分視界が晴れてはいるが、エモノもあまりいなさそうだな。
……ン? 今、かすかにナンか音がしたな。
身体をかがめ、慎重に歩を進める。
精神を集中。
ドラゴン時代の感覚を呼び出す。
感じるのは、微弱な魔力の動き。
この世界に住むモノは、多かれ少なかれ魔力を帯びる。ソレは身体を動かす時、外部に流れとなって現れるワケだ。
……いたゼ。
目をこらすと、遠方に長いヒモ……いや、綱の様なモノが地面を這うのが見える。
ヘビだな。この際、背に腹はかえられねェ。
落ちてる枝を拾い、テキトーに折って先端が二股の棒にした。
行くゼ!
一気にダッシュ。そして棒で抑えにかかる。
「オシッ!」
ヘビが反応するより早く、首根っこを押さえた。
そして手で首を掴むと、オレサマはそれを全力で締め上げる。
一方のヘビも、腕ほどの太さの胴でオレサマを締めつけてくる。
「ぬぐぐぐ……」
かなり苦しいが、それでも耐える。
と、尾がオレサマの首に巻きついた。
が、そンでも手を離すわけにはいかねぇ。全力でその喉元を締め上げつつ、頭上高くまで差し上げる。
そして、
「ヘビごときがァ、ドラゴンを締め落とせるとォォ……思うなやァ!」
気合と共に、一気にその頭頂を地面に叩きつける。
ヤツの頭部は、半ばまで地面にめり込んだ。
頭と頚椎を砕かれたヘビは、一瞬大きくその身を震わせると力尽きた。
やったゼ!
オレサマはヘビを掲げ、雄叫びをあげた。
おっしゃ! さて、喰うか。
オレサマはちょっとした空き地を見つけ、落ち葉や枯れ枝を集めた。
そしてヘビを串刺しにすると、
「“小炎”!」
炎の呪文で落ち葉に火をつける。うまい具合に着火したな。さすがこの辺りは乾燥地帯だけあって、枯れ枝も丁度いい具合に乾いていたようだ。
う〜む、ドラゴンの身ならば、自前で着火出来るんだがな。いやそれどころか、成長してからはほとんどモノ喰う必要もなかったしな。
やっぱしニンゲンってェのはメンドクセェ。
そして炙ることしばし。
う〜ん、ナカナカいいニオイだ。そろそろ火が通ったかな?
とりあえず、一口かじってみる。
う〜む……マズいってワケでもねェケド……淡白というか、味がねぇ。
塩も何も付けて無ェから当然のコトか。ま、カクゴの上だしな。とっとと喰っちまうか。
――しばしのち
ヘビを喰い終えたオレサマは火を消すと、立ち上がった。
まぁそれなりにハラは膨れたな。
次はイノシシか野牛でも喰いてぇナ。いや、とりあえず味のある真っ当なメシを……
まぁ、それはともかく。
さて、行くか。とりあえず、アテはねェケドな……
そうだ。もう少し小さな街ならあそこまで厳重な警戒態勢をとってねェだろう。うまいこと入り込めたら、そこで情報収集と行こうか。
行く先は……南だな。
乾燥地帯を抜けた先に魔王軍の拠点があったハズだ。さっきの駐屯地は放棄されたかもしれんが、もしかしたらそこなら仲間に会えるかもな。
とはいえ実際のところ、軍に帰参しようと思ったらそれ相応の手柄がいる。そのためには、どこかで陣を借りにゃならねェ。それをさせてくれる知り合いがいりゃあいいんだがな。
……というか、そもそも戦なんぞあるんか?
まぁ、あの街の衛兵の練度を考えたら、まだまだ紛争ぐらいはありそうだがな。
それに期待するしかねェな。
さて、行くか。
俺は南目指して歩き始めた。
――ガルンダール街道
オレサマは街道を南へと歩いていく。
この街道は、アルタワールの一つ向こうの街――え〜っとカデスって名前だっけ?――からこのあたりの乾燥地帯を貫き、大陸南方へと続いているそうな。オレサマが属していた魔王軍南部方面軍の拠点はそのさらに南にあった。……確か。
そういえば、この先にあるのはオアシス都市だっけか。
オレサマが封印されたトキには魔王軍の支配下にあったワケだが、今は果たしてどうなってるのやら。
仲間がいればいいが、もしニンゲンどもに奪還されてたら、また通行証とかメンドウなコトになりそうだな。
……ま、いいか。そんときゃそんときだ。
そういえば、その街までどれぐらいだっけか?
う〜む……。あ、思い出した。確か5ラン(約20km)ぐらいと聞いた気がする。
それぐらいならまぁいいや。ボチボチ歩いていくとすっか。
――一刻(約二時間)後
……などと考えて、グズグズしてたらいつの間にか日が暮れてら。
ニンゲンの足の遅さを忘れてたな。
うむ〜、野宿でもすべきか? どっか洞窟でもありゃいいんだが。
うむ。洞窟か〜。
……ああ、洞窟はイイ。
オレサマ達ドラゴンにとっては絶好の住処だ。そこはあたかも、大地の胎内。それはドラゴンが生まれ、そして回帰すべき場所だ。星辰の欠片として、灼熱の溶岩より生まれし我らのゆりかご。
そうだ。そこに財宝と美女がいりゃあ、何も言うことはねェ。
財宝は癒しだ。あの黄金の輝き。宝石の煌きは、いかなる栄誉にも替えがてぇ。
そして美女も、それらに匹敵する至宝だ。無論、繁殖相手にゃメスのドラゴンを選ぶが、ソレとコレとは別腹だ。たとえニンゲン風情だって構いやしねぇ。妖精の姫君の永遠の美しさもいいが、短命な種族の一瞬の輝きもそれに勝るとも劣らぬモノだ。
……おっと、脱線した。
そうだな。魔王軍への復帰が叶わねぇのなら、いっそ地上に居を構えるのも悪くはねぇか。
……ン?
何かニオウな。
コイツは……美女と正反対の、不快なニオイだ。
鉄のニオイもしやがる。盗賊か?
ケッ、ナメられたモンだナ。
あの門の連中ならともかく、盗賊ごときに遅れをとるオレサマじゃねェ。
目をこらす。と、道沿いの藪の中に浮かび上がる影。
ドラゴンの目をナメちゃイケネェ。暗闇でも相手の身体の熱を感知出来る優れモンだからな。
オレサマは魔力を集中しつつも、何事もないかのように歩を進めた。
……来るか。
気配が動く。
「!」
そして飛来する矢。
オレサマはそれを空中で掴むと、飛んできた方へと投げ返してやる。
「ギャッ!」
悲鳴が一つ。
命中したか。
そしてワラワラと湧いてくるヤロウども。ムサいヤツらが出てきやがった。
先手必勝!
オレサマは、地を蹴るや否や、ヤツらに突進した。
慌てて武器を構える連中。
だが、あくびが出るほど遅ェ。
踏み込んで逆水平の手刀を放つと、先頭の髭面の喉元に叩きつけてやる。
その一撃で、ヤツの頚椎は砕けた。
フン……モロいな。先刻のヘビの方がよっぽど根性があったゼ。
首が妙な方へ曲がり、崩折れた髭面を目の当たりにした残りの連中に動揺が走る。
「先に仕掛けたのはテメェらだからな!」
胸ぐらを掴むと、髭面の身体を残りの連中に向かって投げつけてやる。
そして髭面から奪ったナタで、斬りかかる。
横一文字に振り抜くと、大男が真っ二つになって吹っ飛んでいった。
次に背後から来たハゲ頭には、後ろ蹴り。
そして身体をくの字に折ったところを大上段から斬り下ろした。
後は……
三つほどの気配が遠ざかっていく。逃げたか。
だが、まだこの場に留まった気配が一つ……いや、さっきまではもう一つあったか。
低木の後ろ。
倒れたのが一人。手に弓を持ってるトコロからして、どうやらコイツが矢を放ったヤツらしいな。オレサマが投げ返した矢は、胸元につき立っている。心臓をブチ抜かれて出血多量で死亡ってトコか。我ながら、なかなかのコントロールだナ。
そしてその傍らに、うずくまったヤツが一人。弓持ちの血は浴びてるが、今んトコロ無傷なようだ。
さて、どう来る?
様子を見……ン? 動かねェな。
近づくと、涙を流して震えてやがった。
チッ……ツマンネェ。
オレサマはヤツにナタを突きつける。
「オイ……死にたくなければ、オレサマの問いに答えな」
ヤツは怯えた目をオレサマに向けた。
登場人物・用語など
・ガルンダール街道
大陸中南部から南方へと向かう街道。
・カデス
アルタワールの北にある城塞都市。ガルンダール街道の起点。




