2話 ニンゲンにされて、それから
――そして、現在
オレサマは草原を一人、歩いていた。
空でも飛べりゃあいいんだが、あいにく今のオレサマはニンゲン風情と変わんねェ。
あの戦いの後、魔王の前に突き出されたオレサマは、その裁定により呪いでニンゲンごときの姿に変えられちまったってェワケだ。忌まわしいゼ、マッタクよォ。
その後どうやら魔王軍駐屯地の一つに封印されていたらしいんだが……ソコから解放されたのが、数日前のコトだった。
解放、と言っても刑期が終わったとか恩赦が出たとかしたワケじゃねェ。
オレサマを封じていた水晶塊が、或る日突然砕け散ったんだよな。何が何やら……。
そこでオレサマが見たものは、もぬけの殻になった廃墟……いや、元駐屯地だった。
どーいうこった?
もしかしたら魔王軍本隊は全土を制圧しちまって、ココが無用になったんか?
ソレならソレで、オレサマも連れて行って欲しかったんだがナ〜。
いや……まさか、もうオレは無用の長物なのか?
ちょ、ちょっとカナシクなってきたゼ……。
いや、そんな訳ないよな? 多分……
……そんなこんなで、今オレサマはアセりながらも今この草原を彷徨っているってワケだ。
「にしても、ココはドコなんだよ」
草をかき分け歩きつつ、思わずそんなボヤきが口から漏れる。
目の前の敵を倒すコトにしか興味がなかったから、地上の地理なんぞ全くワカラン。
それにニンゲンになっちまったせいで視線が下がってら。これじゃあ見慣れた景色でも違って見えてるだろうしナ。
う〜む。
道行くニンゲンとっ捕まえて道でも聞こうかと思ったが、通りすがりもしねぇヤ。
……つかよ、今はイツなんだ? あれからどんぐらい経った? 拘束されてる間オレサマの意識はなかったから、もしかしたらかなりの年月が経ってるのかもしんねェ。
十年そこら、ならいいケドさ。それこそ百年とか千年とか……。ひょっとしてヨ、まさか魔族もニンゲンどもも、地上から姿を消してたりとかは…?…
もしかして……オ、オレが最後の一人だったりとか?
な、ないよな? ないよナ、多分……
ちょっと心細くなってきた。
――しばしのち
オレサマは、見覚えのある場所にたどり着いた。
うむ。ココだきゃあ決して忘れねェ。
ニンゲンどもとの戦いで、あの忌まわしい敗北を喫した場所だ。
この辺りの地面には、時折サビた剣や槍などが落ちている。
その具合からすると、まだは時間そんなに経ってないな、多分。精々数年ってトコか?
あ゛〜〜ッ、良かったゼ。
確かこの先には、落とす予定の街があったはず。確か、アルタワールって名前だっけか?
にしても、あの戦いの後はどうなったんだろうかねェ。
ケッ、オレサマがいりゃあもっとラクに戦いが進められたハズ、だよな多分……
た、多分。
お、おっと、石畳の道が見えるゼ! 多分ニンゲンどもはココを通るだろう。
オレサマは足早に近づく。
いや……もしオレサマが魔竜王レスィードとバレたらイロイロマズいか? 一応ニンゲンらしい姿はしてるよナ?
思い直して一旦立ち止まり、自分の姿を確認する。
麻の上衣に皮のズボン、そしてブーツという格好だ。
モロい皮膚しか持たないニンゲンどもは、こういうのを着ねばならねェんだナ。不便なモノだ。
そして、腰から下げた革袋には、駐屯地に残っていた金目になりそうなモノをかき集めて突っ込んである。よくワカランが、大した額にゃならねェだろうがな。……これを使う機会がありゃいいんだが。
にしても、ハラが減った。
とりあえず、急ぐか。
オレサマは再び歩き始めた。
――アルタワール南門
しばし歩くと、遠方に城壁が見えて来た。
見覚えがあるな。あれがアルタワールの城壁だ。
道の先には堅牢そうな門。そしてその近くには、櫓のようなモノが見える。
確かあの戦いの少し前に、イルムザールのヤロウが建造していたとかいうモノだ。そのせいで痛い目に遭ったんだよな。チクショウめ。
にしても、アレが健在ってコトは結局この街は落ちなかったんかねェ。
……おっと、城門の側には兵士が見えるな。そして数人の列。
よかった。まだニンゲンどもは生きているんだな。
妙なコトで喜びつつ、オレサマは歩を進めた。
何にせよ、マズはメシだな。
そして情報だ。
魔王戦役がどうなったかと、ヴォルザニエス達の所在だ。
何とかしてこの呪いを解いてもらわにゃならん。
とりあえず、街の中に入ってからだな。
――門
門の前にはニンゲンどもが数人並んでいた。
ナンだぁ? とっとと通りゃいいのにヨ。それともナニか? 面白いモンでもあるんか?
興味本位で近づいていく。
が、何もネェ。タダのヒマ人どもか。
ツマンネ。オレサマはその脇を素通りして門に向かった。
が、
「オイ、アンタ。何順番抜かししてるんだよ!」
列に並んだ男から声がかかる。
「ああ゛? 順番だァ⁉︎」
オレサマはその身の程知らずを睨みつけてやる。何を言ってるんだ、このゴミは。文句あんなら、オレサマをツブしてから言いな。
「あ……いや……」
男は口中で何やらモゴモゴ言いつつ、目をそらした。
ケッ、それでいいんだよ、それで。弱いヤツはおとなしくしてな。
と、鎧を着た兵士が俺の前に立つ。
ナンだ? テメェもオレにボコられたいんか?
「順番を守っていただきたい。でなければ、この門を通すわけにはいかない」
「ケッ、オレサマをダレだと思ってるんだ。オレサマを止めたきゃ……」
魔力を解放し、戦闘態勢をとる。
と、目の前に剣に切っ先を突きつけられた。
いつの間に……
背中を冷たいモノが走った。
オレの本能が、コイツを強敵と認識しているようだ。
ふと見りゃもう一人の兵士も剣に手をかけてやがる。この門の向こうに詰めていた数人の兵士も臨戦態勢をとっている様だ。それどころか、櫓からも兵士が覗いてやがるな。ヤツらのうち何人かはどうやら弩を持ってるようだな。それに、魔力の高まりも感じる。魔導師までいるのかよ!
アノ時の悪夢が蘇ってきやがった。
所詮、ニンゲンの身体じゃコイツらと戦っても危ねェってコトかよ。
まっ、イザ戦ったとしても負ける気はしねェが、それでも大ケガしたらマズい。魔王軍がどうなってるのかも分からんのに、そんなヘタ打つワケにはいかねェからな。
それに、戦時でもないのに無意味な殺戮をするのは道義に反するだろう。
……一応、学習はしたツモリだ。
「わ……わかった。ココはそうやって並ばなきゃいけねェんだな」
オレはスゴスゴと列の最後尾に並ぶことにした。
ああ……情けねぇ……
――しばらくのち
ヤレヤレ。ようやくオレサマの番が回ってきた。
さぁ、ナニをやらせようってんだ? 前の連中は、妙な紙切れを見せてたが……
「通行証を見せてくれ」
さっきのの兵士が口を開く。
「……つうこうしょう?」
美味いんか? ソレ……
「通行証がなければこの門を通すことは出来ない」
「ま、待ってくれ。どう言う事だ? それに……“つうこうしょう”って、ナンだ?」
「…………」
沈黙が訪れた。
兵士も後ろに並んだ連中も固まっている。
え゛⁉︎ ま、まさか知らんのはオレサマだけ?
「こ、こっちへ……」
もう一人の兵士がオレサマを列から離れたところへと連れていく。
ナンだ? トクベツに通してくれんのか?
「通行証というのは、領主や神殿、各ギルドが発行する手形だ。街を出るときに貰わなかったのか?」
「い……いや。オレは田舎の出なんでな」
とっさにウソをつく。が、田舎の出とか、屈辱この上ねェ。
「そ、そうか。僻地の村であっても、そこを支配する領主がいる筈だ。そこで申請すれば、通行証は発行してもらえる筈なんだが……」
「そ、そうなのか。……分かった」
ケド、オレサマにゃソレを発行してもらうアテなんて無ェ。困ったモンだ。
「とりあえず、何か……他に通る手段は無いのか?」
「いや……規則なんでな。こればっかりは無理だ。申し訳ないが」
きっぱりと断りやがる。
「おおぅ……」
オレは思わず肩を落とした。
「通行証を知らないなんて……どんな田舎モンだ?」
列から聞こえてくる声。
オレサマは思わずヤツらを睨みつけた。
ケッ、皆目をそらしやがる。
……が、何故かさっきと違い、恐れよりも憐れみが勝ってるようなのは気のせいか?
チクショウ。
「見てやがれ! 通行証手に入れてきてやるからな!」
オレはそう吐き捨て、立ち去るコトにした。
あぁ、カッコ悪ィ……。
登場人物・用語など
・レスィード(人間体)
呪いにより、魔竜王レスィードが人間に姿を変えられてしまったもの。身長190cmを越す、赤毛で凶暴そうな顔の大男。
・アルタワール
大陸中南部に位置する都市国家。この街の南方の平原は、数年前の戦役での激戦地であった。




