4話 財宝はイイ
――藪の中
オレサマは盗賊団の生き残りを引きずり出し、地面に座らせた。
ン? ズイブン小せェ。というか、コイツは若ェな。下っ端ってトコかねェ?
ニンゲンの歳はよく分からねぇが、幼年あるいは若年ってトコか? まぁ多分、見た目はイイ方だろう。
「ヒッ……あぁ……」
完全に怯えてやがるナ。
「オイオイ、今までこうやって旅人を襲って殺してきたんだろ? 今回はたまたまテメェらがヤられる番になっただけじゃねェか?」
その声に、ようやくヤツは俺の顔を見た。
その目には、かすかな憎悪。
ま、元気があるんならそんでイイ。悲嘆に暮れた挙句、目の前で自害でもされたら後味が悪ィからな。
「とりあえず、オレサマの問いに答えな。仇だの何だのは、その後にしてくれヤ」
オレサマはニヤリと笑ってヤツを見下ろした。
――四半刻(約30分)後
オレサマは一通りの情報収集を終えた。
……とはいえコイツも盗賊団のナワバリからあんまり出たコト無いようで、大した情報は得られなかった。
とりあえず得られた情報だが……
ニンゲンどもと魔王軍の戦いは、数年前に終わっちまったらしい。結果は、魔王軍の敗北だ。
これにはオレサマも驚いた。今回の戦いは、魔王軍が勝利するハズだったからだ。
このニンゲンと魔族の戦いは一万年前から続いている。いわゆる、“魔王戦役”ってヤツだ。初めは魔族の侵攻で始まり、地上は闇に閉ざされた。それを第一回の戦いとして、計十一回繰り返されてきたのだ。二回目はニンゲンどもの勝利。その次は魔族が勝利と、千年ごとに地上の支配権は入れ替わっていた。そして今回は、魔王軍が勝利する回だった。魔王自身も“茶番”と言ってるアリサマだったワケだ。
しかし、結果はコレだ。一体ナニが起きてんだ?
どうやら魔王は戦死、聖地エルズミスを始めとする地上への侵攻ルートは封じられてしまったそうな。つまり、オレサマの帰還の道は閉ざされちまったワケだ。
ついでに言えば、イルムザールとヴォルザニエスのヤロウどもは相打ちで、ナカヨク戦死しちまったらしい。
チッ……ナニやってんだか。見返してやる機会は永遠に失われたってワケかよ!
それ以外の情報は、この周囲の街についてのモノぐらいだ。
まぁ、無いよりはマシってトコだな。
さてと。
「もう十分だ。とっとと消えな」
オレサマはヤツに声をかけると、背を向けた。
さてと。戦利品をいただくかね。
盗賊どもの懐から金品を漁った。
まぁそれほど大した額にはなりゃしねぇが、これから生きていくためには幾らか役に立つだろー。魔界にゃしばらく帰れなさそうだしナ。
このままコイツらの屍と一緒にこの場で朽ちていくぐれェなら、使ってやった方がよかろうってモンだ。
あと、ついでに武器や道具だな。まぁ素手でもコイツら程度の敵なら十分ヤりあえるが、イルムザールみてェな強敵が現れたらコトだ。
ナイフやら銅貨やら、使えそうなモノを拾い集める。
……まぁ、大体こんなモンかナ。
さて、行くか。……ン?
ふと目を挙げた先に、あの生き残りがいた。
「ど……どこへ行くつもりだ?」
小剣を構え、オレサマを睨みつけてやがる。
「南だ。この先にあるリシュートって街だな。……にしても、どうするつもりだ? 剣なんぞ持って」
ヤレヤレ、メンドクセェ。
「兄貴のカタキだ!」
やっぱしか。ズイブン勇ましいこって。が、声も足も震えとるがナ。
「カタキ、ねェ。まぁ、オレサマを付け狙うのは構わんが……覚悟はしとけよ? 今回みてェに見逃がしてやるとは限らんからな」
まッ、オレサマもちっと甘いかもナ。
「か、構うもんか!」
斬り掛かってきやがった。
それを反射的に手で払うと、あっさりヤツは地面に倒れた。
「もうちょっと強くならねェと、相手してやれんゾ」
オレサマの好意を無にするとはな。ケド、正直殺すのもメンドクセェ。
地に伏したまま泣きわめくヤツを背に、オレサマは歩き出した。
――十二分刻(約10分)弱後
オレサマはある“ニオイ”を嗅ぎつけていた。
それは、財宝の“ニオイ”だ。
貴金属や宝石の発する微弱な匂いも、オレサマの鼻なら捉えるコトが出来る。
その出所は……ココだな。
小高い丘のふもと、崖状になったところにぽっかり空いた洞穴の中だ。
周囲には岩や樹木があり、遠目からは見ることができない絶好の隠れ家だな。
あの連中の棲家かもしれん。
が、一応中を見てみるか。
洞穴入口近辺は、高さ半レン(約2m)ほど。やや低いトコロもあるんで、気をつけねぇと頭をブツけちまいそうだ。
幅もほぼ同じ。奥行きはそれなりにありそうだな。
オレサマは、落ちていた棒切れに“幻光”の呪文をかけて明かりを確保し、さらに中へと向かう。
そして少し入ったところは、高さ1レン、幅2レン半ほどの広さの部屋がある。
中央には炉。その周囲には幾つかの生活用品が置いてあった。
明らかにニンゲンが暮らしてた場所だな。
周囲の壁はセメントや木の柱で補強されており、扉までつけてやがる。その扉の先は、人が二、三人暮らせるサイズの小部屋が三つあった。
とはいえ、一見ココにはお宝はない様にも見える。
が……ニオイの出所は、ココだ!
洞穴の一番奥にあるチェストの背面。その壁面は、その周囲の岩肌とは少々質感が違っていた。
ふむ……
チェストをどかし、その壁を軽く叩いてみる。
軽い音がする。その向こうは空洞の様だ。
……ナルホド。隠し扉か。
岩に偽装してあるが、どうやら板の表面をモルタルか何かで偽装してあるだけだナ。
どう開けるか?
ふむ。よく見りゃあ、取手らしきくぼみもあるナ。
とりあえず、引いて……おっ、動いた。
少し奥へと押し込んだ後、横へとズラす。
そうして扉が開くと、奥に部屋が現れた。
さてと、お宝だ。
オレサマは嬉々として隠し扉をくぐった。
――隠し部屋
「おおっ!」
オレサマは思わず喜声をあげた。
部屋の中には幾つかの長櫃がある。そのフタを開けると、金塊などが入っていた。
純金か! あぁ……この輝き。タマラン。
思わず取り出し、頬ずりする。
量としちゃ多くはねェが、それでもかなりの額になるだろう。
しかし、おかしなモンだ。ナンであんな盗賊ごときがこんなお宝を貯めこんでやがる? これだけのモノがありゃあ、街中で真っ当な暮らしが出来るんじゃねぇか?
それとも……この辺り一帯でお尋ねモノになっちまったせいで、街じゃ暮らせねェとか?
ケッ、ニンゲン社会のコトなんぞ知ったこっちゃねぇ。が……妙なのと関わっちまったな。
オレサマは、隠し部屋の入口で固まっているヤツ――盗賊どもの生き残り――を見、肩をすくめた。
――しばしのち
「こんな部屋があるなんて知らなかったよ……」
ヤツは呆然として部屋の中を眺めていた。
「何か事情があったんだろうさ。それも、黙っとかなきゃいけねェ類の事情がナ」
俺は長櫃の中身を確認しながらヤツに声をかける。
「どういう事だよ!」
イラついたようにヤツがオレサマを睨んだ。
「そうだな。オレサマはあんまりニンゲン世界の物価についちゃ詳しくねぇが……コレだけの財宝がありゃあ、街中で十分暮らせるだろ? ナンで未だにあんなアブねェ橋を渡るようなコトしてるんだヨ」
「そ、それは……」
「テメェ……え〜と」
「フェルズだ」
「ふむ。フェルズにゃ聞かせられんコトでもやってたんじゃねェのか?」
「そんな訳あるはずないだろう⁉︎」
怒声をあげるフェルズ。だが、心なしか元気がないのは、この財宝を目にしてしまったせいか。
「コレ、読めるか?」
ついさっき長櫃の中から出てきた書類を示す。
「い、いや。俺、字は読めないんだ……」
フェルズは恥ずかしそうに目をそらした。まぁ、盗賊に教養を求めるのはマチガイか。
「じゃあ……ジブンの目で見てみな」
俺は“翻訳”の呪文をかけてやる。
「これで読めるハズだ。確かめてみな」
「え? あ……ああ」
フェルズは恐る恐る書類を手に取った。もしかしたら、内容は想像ついてるのかもしれん。
「……そんな⁉︎」
目を通すと、ヤツは悲鳴じみた声をあげる。
それは、人身売買の取引内容を記した書類だ。
「なぁ、フェルズよ。ソイツを見る限り、この辺りじゃ人身売買はご法度なんだよな?」
「そ……そうだ」
御禁制ゆえに、報酬もかなりのモノだったようだナ。
「で、あの連中はそれに手を染めちまった為に、街では暮らせなくなった。違うか?」
「うっ……」
やはり思い当たるフシがあるんだろう。
「で、だ。フェルズよ。ナンでお前だけソレを知らされてなかったんだと思う?」
「だっ……黙れ!」
フェルズは半泣き顔で叫ぶ。俺の言葉を否定したい様に。ケドさ、事実は事実だ。
「いずれお前も“商品”になるはずだった。……違うか?」
「……ッ!」
オレサマの言葉に、ヤツは地面に崩折れた。
登場人物・用語など
・フェルズ
盗賊団の生き残り。
・時間の単位
一刻=約二時間。半刻=約一時間。四半刻=約30分。六分刻=約20分。十二分刻=約10分。




