突然殴られたんだけど……
読み方
記憶の世界【イデア】
短い読み方なので、うまくルビとしてなってないかもしれません。
パートナーの夢【ブリーフィングルーム】
一陣の風が僕の頬を掠めて、服が波打つように揺れる。
住んでいる街が政令指定都市への準備が着実と成されていく中、惜しくも指定範囲内とされない地方に顕在してある、二階建ての小さな建物の前に僕は立っていた。
コンクリート製の建物を地面へと引き込むかのように生えたツルと、木漏れ日がなんとも古めかしい遺跡を彷彿とさせるが、なまぬるい草の匂い、中央から伸びている大きなひびが神秘的な雰囲気を損ない、遺跡には格段に劣る建物だという事が、嫌でも考えさせられる。
辺りを見渡すと、この建物を隠すかのように高く、そして太い木々が僕を見下ろしてくる。
周囲から聞こえてくるミーンミーンという、生きてきた中で一度は耳にしたことがあろうそれは、幼少期のころは外に出て遊ぶ合図だったが、今年から高校生になった僕にとっては雑音という部類に、整理をしていた。
晴天の空から、肌に突き刺すように降ってくる日差しは、夏という季節であることを威張っているかのように感じる。
もう一度建物へと視点を戻し、出入り口であろう扉の横にある、道場などで見かける縦長の木製の板を視界に捕らえ、多分ここの会社名の刻まれた文字を心の中で暗唱をしてみた。
『ソクラテス』
世界史の授業で聞き覚えのある人物だったが、曖昧な答えしか脳裏に浮かび上がってこなかったので、考える事をやめた途端、拳で殴られたかのような衝撃が鼓膜を揺らす。
「ようこそ!『ソクラテス』へ!」
思考を張り巡らせていた間に近づいてきたと思われる女が、耳元で轟音とも形容できる声を発した。頭の中身を声によって押し出されたと錯覚するかのように、頭の中が真っ白になる。
一旦落ち着きを取り戻し、徐々に正常な仕事を始める脳のことは一切気にせず、女は僕の背中を押しながら建物に入る事を促してきた。僕は反抗できず、そのままドアを開けて建物内へと入ってしまう。
外の外見とは裏腹に、床全体にカーペットを敷き、仕事に必要最低限の物を集めたのか、パソコンと一冊のファイルと文房具の入った筒が乗った四つのオフィスデスクが二つずつ向かい合って中央に据えており、脇の壁にあるソファーと、申し訳程度に観葉植物が置いてあった。そのすぐ横には二階に繋がる薄暗い階段と、台所がひっそりと作られている。旧型のエアコンもついており、外にいるよりは大分ましな空間だった。
「ようこそ!『ソクラテス』へ!まぁまぁソファーにでも座って」
本日で二回目である台詞と、ソファーに座ることを促してくる中年オヤジの声が耳元へと入ってきた。その声で、どこかふわふわと浮いていた脳が、頭の中で綺麗に着地を決めた。
目の前には白衣を身に纏い、ヘラヘラと笑いながら無精髭をさすっている中年オヤジが、顔を覗きこんでいた。
「まさか、あんなもので来るとか、信じられない」
来た時からソファーに座っていた男が、肩をすくめながら溜め息交じりで言った。
あんなものとは、僕がここに来るきっかけとなった一枚の茶封筒の内容だろう。
「僕は、来たくて来たんじゃ――」
男の態度に少々苛つき、男の方を向いて反抗をしようとした時、後ろからさっきの女がソファーに座っていた男に「サキチちゃん、なんですかその態度は!」と言い、蛙跳びをしながら襲いかかった。
女はスカートだったのだが、スパッツを履いていたので美味しいものは見れず、僕は少し唇を噛み締めた。
男は飛び込んでくる女の手を握り、上手く勢いを殺しながら立ち上がり、肩の上に乗せた。女は「離せぇー、高いところは嫌いなんですよぉ」と涙声になりながら言っている。極度の高所恐怖症どころではないと思っていると、男はすぐに女を地面へと座らせて、屈みながら女の頭をポンポンと叩きながら笑っていた。
「ここに正座してください」
女が自分の前に指を差し、涙目で頬を赤くしながら男のことを睨んでいたが、怖いというより愛らしさのほうが上回っている。男は困ったように笑いながら頬を掻き、女の言うとおりに正座をした。
僕の隣では、無邪気に笑いながら二人のやり取りを観賞している中年オヤジが、僕のことを逃がさないように肩をがっちりとホールドをしている。
暑苦しい。
「年齢ではあなたの方が上かもしれませんが、仕事としては私のほうが先輩です。しっかりと敬ってください」
「でもよ、俺の方がキャリアはあると思うけどな~」
悪戯な笑みで男が言うと、頬をより一層膨らませながら、そっぽを向いた女は「それは別です」と発した。
「話はこれで終わりか?」
何も言えずに黙ってしまった女を見てか、男は正座を崩して背伸びをする。女は小さく独り言で「前は人生の恩人だ。ってあんなに慕ってきてくれたのに」と人差し指でカーペットに小さく丸を書きながら言ったが、欠伸をしていた男の耳には入らず、男は立ち上がって一つのオフィスデスクへと向かった。
一番下の大きな引き出しを開け、ある物を取り出す。
耳を覆うことが出来るほどの大きいサイズのヘッドフォン一つと、今の時代にはあまり似つかわしくない、CDを挿入して聞くタイプの携帯型音楽プレーヤーを取り出し、「行ってくるわ」とだけ言って僕の横を無言で通り過ぎ、建物から出て行った。
「まぁ、あいつは昔やんちゃな時代もあったから、信用できない人にはちょっと冷たいんだよね。別に嫌ってるわけじゃないから大丈夫だよ。それより、気分とか悪くならない?」
中年オヤジからの突然の質問に疑問を抱きつつも、「いいえ」とだけ言う。
「実はね、ここらへんには毒を散布する植物が生えてるんだよ」
「……はぁ?」
思わずがんを飛ばしてしまったが、なんかそう言われると少しずつ気分が悪くなってきた。少し吐き気も催してくるので、膝をカーペットにつけ、口を両手で抑えつけると中年オヤジが背中を摩りながら
「さっきのは嘘だよ」と耳元で囁いてきた。そして続ける、
「脳って、不思議だよね。ありもしない情報を本当の事にしてしまう」
中年オヤジは僕との距離を開け、オフィスデスクに上り、両手を半分程度まで上げ、堂々とした演説かのように、何かを演技するかのような体勢で話し始めた。
「ここで問題だ。都会の道中を散歩していた君の目の前には、見知らぬ保育園児のAちゃんが一人で泣いていました。君はAちゃんに泣いている理由を尋ねると、大事にしていたクマのぬいぐるみが何処かへと隠れてしまったらしい。さて君は初めにどうする?」
馬鹿らしい。僕は社会勉強のため、夏休み中アルバイトをしようとしたのだが、他のアルバイトが不採用だったためこの胡散臭い会社の所まで足を運んだというのに、ふざけたところなんてごめんだ。
立ち上がったあと踵を返し、ドアノブに手を掛ける。
「帰っちゃうのかな?」
「はい。こんなふざけたところはこちらから願い下げだ」
上に敬う言葉遣いは遙か彼方へと吹き飛び、中年オヤジに向かって睨みすらきかせている。
「残念だな、これは採用試験といってもいい問題だよ。この問題に正解したら時給1500円と、特別手当として一つの仕事をこなすごとに1万円が貰えるチャンスなのに」
「その問題に正解してやる」
「お、やる気が出てきたみたいだね」
僕はあくまで社会勉強のためにアルバイトを探している。大事な事なのでもう一度言おう、決して金のためではなく社会勉強のためのアルバイトだ。
もう一度踵を返して、中年オヤジと向かい合う。
たしか問題は、見知らぬ女の子がクマのぬいぐるみを無くしているのを目撃して、初めにどうするかだったよな。まず女の子に大体の目星を教えてもらってから――
「タイムアーーーーーップ!!」
中年オヤジはそう叫びながら、オフィスデスクから飛び降り、「さぁ、答えは!?」と仁王立ちしながら言った。
「早すぎないか?」
「そんなことはないよ。だってパンはパンでも食べられないパンは?っていうなぞかけと同じくらい簡単だから」
少し腑に落ちないが、反抗でもして不採用になるよりは我慢したほうがいい。
「それじゃあ、女の子にだいたいの目星を教えてもらって、一緒に探す」
中年オヤジはゆっくりと歩を進め、近づいてくる。僕の顔が中年オヤジの胸に鼻が当たってしまうぐらいの近さまで近づき、見下ろしてくる。中年オヤジの表情は、前に採用試験で落ちてしまった美容玩具グッズ専門店の面接官である、オカマさんより厳しい目つきだった。
微妙な例えだという事は分かっているが、嫌な寒気が襲ってくるところが似ている。
「残念、不正解だ」
そう、淡々と告げる。
「ふざけんな、あんなの十人十色の答えが出てくるだろ!」
僕は中年オヤジと視線を合わせながら少し荒い口調で言うと、中年オヤジは溜め息を吐き、僕から離れてソファーにどっかりと座る。
「問題の答えは、女の子に親のことについて聞くが正解だ。都会の中保育園児が泣いてたらクマのぬいぐるみよりAちゃんを心配するんだよ」
中年オヤジはそう言うと、すぐにまたヘラヘラとした表情に変わった。
「まぁ、この問題はオレが今さっき考えた問題だから正解でも不正解でもどっちでもいいんだけどね」
なんか騙されたらしいな。苛つくのだが、中年オヤジの問題の解答は反抗が出来なくて、むしろ納得していたからすぐに落ち着くことが出来た。
中年オヤジはソファーから勢いよく立ち上がり、今までずっとカーペットに丸を書いていた女に一言掛けて、次は僕に言い出す。
「これから君には実技試験を受けてもらうよ。これは嘘じゃないから本気でやってね」
「分かった。なにをすればいい?」
「よし、やる気は満々だね!それではピナちゃん、やっちゃって」
その言葉を最後に僕の後頭部が痛み始め、倒れてる最中に視界の端に捕らえたのは、太い木の棒を持ったピナちゃんと呼ばれたさっきの女だった。
少しずつ意識が薄れていく中、この会社に関わってしまった事を今更ながら後悔している。
***
「大丈夫ですかー?」
目の上に重くのしかかった瞼を退かし上体を起き上がらせてから、声の発信源の方を見ると、僕の頭を殴った犯人と白い背景が視界に広がっていた。
僕は大理石を削って作ったような、固くて冷たい黒々とした椅子に座っていた。周りを見渡すと、一辺が五メートルの立方体である全面が白い箱の中に僕はいるようだ。蛍光灯とは違う優しい光りが天井(?)から降り注いでいるが、光源が見当たらない。
ここまでならなんとか、理解が出来るだろう。だが、ニュートンによって発見された万有引力の法則を嘲笑うかのように、部屋の中央で浮かび、淡く白い光りを発しているゴルフボールほどの玉がある状況は、さすがの僕でも飲み込めない。
「何をした」
向かい側に同じような椅子に腰掛けている女に、睨みを利かせながら問いただす。
ここに来てから睨んでばかりで顔の筋肉が攣りそうだ。
「あはは、そんなに睨まないでください。私も昔は被害者側だから、驚きは分かってるつもりです。ここはパートナーの夢と呼び、まぁ、仕事の準備室と言ったところでしょうか。主な目的は道具を用意する事です」
「道具の用意? ここには道具らしき物は何一つ無いのだが」
「しっかりとありますよ。道具はここにあるんです」
女が自分のこめかみを人差し指で二回小突く。頭の中ということだろうか。
「道具を細かく、構造まで想像するんですよ」
急にそんなことを言われてもこんな状況で想像できるものなんて無い。
「あ、そういえば。寝てる時、とても苦しそうでしたよ?」
椅子から立ち上がり、小首を傾げながら僕に近づき、質問をしてくる先輩は愛くるしいリスを連想させた。しかし、今の僕の表情は頬を強張らせて、引きつった顔になってるだろう。
少し汗ばんだ服が鉛のように重く感じた。
「大丈夫だ、たいしたことじゃない」
中学の1年生以来、寝ているときに断片的で、内容の無い、まるで空っぽの夢を見るようになった。
真っ暗な世界で、知らない女性の声が反響して聞こえてくるという不思議な夢である。
こんな話をしても鼻で笑われて終わるので、会話を終わらせるために立ち上がると、女は急に僕が立ち上がったせいか、尻餅をついた。
「ん……」
「手を貸してくれるなんて、優しいですね」
それとなく、水中で息が苦しくなったら這い出るように出した手に、しっかりと掴まった女の手は、何故か僕の頬を熱くした。
女は僕の手を握って立ち上がり、スカートをはたくと「ありがとうございます」と言って微笑んだので、僕は半ば反射的に作った笑顔で返す。
「あはは、先輩なのに面目ないです……」
「それより、実技試験ってなんなの?」
「あ、それはですね。今から向かうイデアという記憶の世界から鍵を見つけて、アトラクタの箱を開ける事です。あ、でも心配しないでください!このしっかりとした私がいますので、確実にクリアさせてみせますよ。まぁこれはサンプルの記憶なんで気軽に受けてください。リラックスリラックス」
「ちょっと待て。半分も理解できないんだが……。でもお前がしっかりしてるってことは嘘だろ」
「えぇ!? 酷くないですか!? でも、まぁ、確かにドジをたくさんして、簡単な仕事しかさせてもらってないですが……」
と、女が人差し指の先をちょんちょんとしていると、急に中年オヤジの声が聞こえてきた。
『あーマイクテステス。聞こえるようだね、それではさっそく実技試験を始めるよ。説明はあらかた仕事の先輩に聞いたよね。さぁ、記憶の世界に行ってみようか!』
いや、何も聞いてないよ!と突っ込みをしたかったが、頭の中で響くように聞こえた中年オヤジの台詞が終わると、さっきまで一つの個室だった場所が、見知らぬ保育園の遊び場に変わっていた。
その保育園は木造建築で、遊ぶものが少ししかなく全て手作りである事から、ここはお金に困っていたと言う事が分かる。
こんなことを考えてるときではない。それよりこの状況を見て、僕はある結論に達した。
「一つだけ分かったことがある」
「なにが分かったんですか?」
「お前らに常識という二文字が無いってことだ」
「まぁそうですね。これから私達と過ごすうちに、あなたも無くなっちゃうかもしれませんよ」
「それは怖いな」
苦笑いで受け答えをしている僕の頭の中では当初の目的であった、社会勉強のため普通のアルバイトをして、好きな子の為にプレゼントを買うというサプライズを諦めていた。
「初めてこの状況を見て、君はどんな風に驚くか見たかったのになー」
不満気に女は呟いているので僕は素っ気無く「驚いたことなんてあまり無いんですよ」と言ってやった。今の僕にできる最大限の皮肉だ。
普段の僕は、暗い印象から少し敬遠されがちだけど、友達はそれなりにいるし、イジメなんてものもない。言わばリアクションが薄い、そこら辺にいる高校生の一端なのだ。
「まぁ、いいですけど……。それでは、実技試験を始めます!」
「あの、ちょっといい」
「どうかしました?」
「僕、まだ説明をしてもらっていない……」
「あ、自己紹介まだでしたね。私はピナっていうコードネームで働いている高校一年生です」
自己紹介ではない、実技試験の内容のほうだ。自称しっかり者でも、もう少しはましになろうと努力して欲しい。
「え、いや、まぁ。ってコードネームってなに?」
「この仕事は個人情報の取り扱いがとても厳しいから、としか言いようが無いですね」
「まぁいいや。僕は……コードネームがワタルで、同じく高校一年生」
僕の本名は天明 渡。コードネームなんて咄嗟に作れるものではないから、名前をまるごとつかった。
既に脳内では考える事を放棄して、今起きている状況を全て鵜呑みにしている。
「ではワタルちゃん、試験を始めましょうか」
こいつ――ピナには僕のことが女に見えるのだろうか。確かに昔、小学五年生まで僕のことを女だと思って、数度しか面識が無い、少年野球チームに所属していた小笠原という男子に告白された事はあったが、しっかりと下半身には一物がある。それと、自分の女っぽい顔が嫌いだ。
そういえば、コンクリートの建物にいた無愛想な男にも、ちゃん付けをしていたから、誰彼かまわず付けているのだろう。
「試験と言っても、難しいものではないですよ。この記憶の世界からキーアイテムを黒い鍵に変換してください」
またピナは説明不足だ。医者の勉強をまったく微塵もしてないうちに、手術室に入り助手をしろと、言われたぐらいにピナの台詞は鬼畜である。
溜め息をしていると、視界の端に一つの紅い鞠が転がってきた。なんとなく持ち上げてみると、ポンッという軽快な音を鳴らして、さっきまでいた部屋の椅子のように、黒々とした小さな鍵が鞠の変わりに出現した。
「そ、それがキーアイテムを変換して鍵に変えることです!」
ビシッと僕の方に人差し指をたてながら言う。
「僕が見つけられるように、わざとこっちに向けて蹴っただろ」
ピナはわざとらしく明後日の方を向き、空気が排出される音しかしない下手な口笛をしている。隠し方が昭和の人に思えてきた。それに、とびっきり下手な人のやつである。
ため息を吐きつつ僕はこの試験を通過するために、脳内では次にどんな行動をとればいいかを考えていた。
「あれが怪しいと思います……あ、独り言ですよ!」
明らかに僕へ伝える声のトーンである。
「嘘を吐くならもう少し隠しながら吐いたほうがいいよ。それに、これじゃあゴールまでパンの欠片を食べながら、進んでいる鳥みたいで気分が悪くなる」
僕が呆れながら言うと、ピナ先輩は「はーい」とまるで反省をしていない子供のように片手を上げながら言った。
しかし、これは採用試験なので助かったと言えば助かった訳で、さっそくさっきまでピナ先輩が熱い視線を送っていた場所へ行くとしよう。ここからでは死角のタンス裏に行くと、一メートルより少し小さい立方体の鍵と同じように黒々とした色の箱があった。
黒く、どこまでも底が無いような暗い色をした箱はまるで虚無感という恐怖を体現してるように感じた。
「これがアトラクタの箱と言います。さっき紅い鞠が黒い鍵に変わりましたよね。このアトラクタの箱……つまり忘れてしまった記憶が具現化したものに、紅い鞠と言うキーアイテムを挿す事によって記憶を想起させるのが私達『ソクラテス』の仕事です。中央に鍵穴があるので、挿してみてください」
後ろにいたピナ先輩が得意気に説明をする。
原理を今更考えたってしょうがない。
つまり、仕事というのは依頼者の記憶の世界と呼ばれる記憶に入り込んで、忘れてしまった記憶を思い出させてあげるようなものか。
例えば、夕食後デザートのプリンを食べようと冷蔵庫の前に来たのだが、なにをすればいいか忘れてしまい、なんとなく冷蔵庫の中に入っていたケーキを見たら『デザート』というワード関連で『プリンを食べたい』と思い出す感じだろう。
この時『デザート』が黒い鍵となり、『プリンを食べたい』がアトラクタの箱と考えればなんとなく分かった。
言われたとおり、黒々としたアトラクタの箱の中央には、鞠に代わって出現した鍵がピッタリと合いそうな穴があった。手にしていた鍵をアトラクタの箱の鍵穴に近づけるたびに、アトラクタの箱に白いノイズがはしる。鍵を挿入して、回そうと思った瞬間、背後からカシャン、カシャンという金属を擦り合わせるような音が迫ってきた。
鍵を手にしたまま、おずおずと振り向く。




