プロローグ 不可思議な夢
暗い暗い闇の中に赤い光りが射すこの部屋。
体に繋がれる管と、纏わりつくような暖かい液体は僕を守ってくれていた。
ゆっくりと開ける瞳に写るのは同じくらいの女の子で、僕に向かっていつも微笑んでくれる。
その子と一緒にいるだけで僕は幸せで、満足していた。
反響音にも聞こえる声が耳に届いたのだが、返事の声は届かなくて、暴れる事しかできずにいる。
隣の女の子はそんな僕にも優しく手を伸ばしてくれた。
長い長い間一緒に過ごした。
楽しくお喋り。
時には喧嘩。
すぐに仲直りもした。
自由に動けるようになったらどうしようかも考えた。
きっと、綺麗な空に向かって大笑いして、新緑の草原を駆けることだって出来るはずだよ。
毎日が楽しかった。
でも、現実は残酷だ。
僕を殺す?
微かに反響音の声が、掠れた泣き声が、僕の耳に入った。隣の女の子は眠っていたけど、僕は目を覚ましていて、しっかりと聞いた。
暴れる事は無く、ただ泣く事しか出来ずに涙をボロボロと流していた。
さようなら。名前も知らない女の子。せめて名前を知りたかったな、でも、もう叶わないことだ。
僕は手を広げ、ゆっくりと手を振った。
バイバイ。
またあの夢だ。
つい最近から見るようになった不思議な夢。
胸がキュッと締め付けられ、いつの間にかポロポロと涙を流して、小学生の頃の思い出に浸るような懐かしい気分になる。
高校生が泣いてるのは可笑しいと自嘲気味に笑い、腕で目を擦り、天井をボーっと見上げた。
季節は夏。高校生になって青春を謳歌するはずの夏休みの真っ只中だ。
僕は立派で、足を鍛えながらも趣味に没頭する事を目標とする帰宅部に所属しており、夏休み前半のロスタイムでも部活の方針である趣味に没頭を、ひたむきに実行している。
世間一般的に訂正すれば、暇人という一言で終わってしまうが。
「いい加減に起きてくださーい!」
下の階から、今時にはほとんどいないであろう全ての人に敬語を使う、母さんのモーニングコールが鳴り響いた。
目覚まし時計を確認すると既に十二時を回っているので、いつもどうりの暇人というレッテルを背中に張られた気分だ。
布団から這い出た僕は重い足取りでリビングへと向かい、椅子に座る。母さんが用意してくれた朝食……ではなく昼食に箸を進めながら垂れ流しているテレビを見ていると、
「やることが無いなら家事でも手伝ってください」
食器を洗いながら笑顔でご立腹の母さんに言われた。
さっきの話でもう少し訂正するところがあった。僕には趣味なんて無い。
なら働けば?という質問をされそうだが、コンビニ、レストラン、ファーストフード、ガソリンスタンド等、20社のアルバイトに不合格の判子を貰っている僕には、気力もやる気もでるはずが無い。
目覚めに泣いたはずだが、今度は違う意味で泣きたくなった。
「そういえば、渡宛に茶封筒が届いてましたよ。テーブルの上に置いといたはずです」
母さんの言うとおり、色が同化でもするかのように、テーブルの端にA4の茶封筒がポンと置いてあった。
この時、なんで怪しげな茶封筒なんかを開けてしまったのだろうと後悔をした。




