↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/12

4

剣士と浮遊する黒いものの二人組に、ルチオは声を掛けた。


「もし、あなた方は…」


兵士が少し慌てたように弁明する。


「司祭様。いや、こちらは旅の方です。村の件を聞きたいという事なので、今から兵長に引き合わせるところで」


「旅の方……」


石段を下りて、近寄っていくと、剣士の方が言った。


「井戸を使わせてもらった。村に感謝する」


「ええ。それは構いません…私は、この教会の司祭を務めております。ルチオと申します」


「ザーレだ」


「ボクはハルキン。よろしく」


黒いものが当たり前のように喋った。挨拶も兼ねてルチオは祈りの所作を行った。不思議な事に、あまりこの人形に不吉な感じはしなかった。


「この人達も修行僧だそうです」


兵士が補足する。ルチオの眉が上がった。


「そうでしたか。どちらの教えを学ばれたのでしょう」


「ウォーデ派だ」


「おお、ウォーデ…そうでしたか。ああ、珍しい事です、本当に」


ルチオはザーレの方を見つめた。驚いているようだ。


ザーレは後を続けた。


「ところで、ルチオ師。村では何があったのだろう」


「おい、一度兵長のところで…」


「ああ、ご説明には私も後で同席したいのですが、よろしいでしょうか」


「司祭様も?…ああ、もういいか、一旦話しても」


諦念した兵士の傍ら、腕組みしたザーレは返事を待っていた。傍らのハルキンもこちらを向いていた。


「……子供が、消えたのです」


ルチオは言った。


「三人。夜、家で寝ている間に、親が狩りに出ている間に。親と一緒に逃げている間に…」


ザーレが兵士を見る。兵士がうなずいた。


「逃げている間に? 親の目の前でか」


「ええ。ただ、それだけではありません、消えただけでなく…」


「代わりに何かが残されたのか」


ルチオは目を見開いてザーレを見た。兵士もギョッとしている。


「ご存じなのですか。そうなのです、まるで伝承の『取り換え』…」


「たまにある話だ。続けてくれ」


「まさに、その通りです。全ての家族に、子供ではないものが……」


その時教会の扉から音がした。そばに、子供が一人立っていた。外へ出てきかけたが、ハルキンを見て止まった。ハルキンがそちらへ顔を向けた。子供は扉の陰へ引っ込んだが、悲鳴のような歓声のような声が漏れる。


ルチオは声を落とした。


「こちらへ来ていただけますか」


教会の脇には、低い木の腰掛けがあった。いつもは村人が荷物を置いたり、礼拝の後に話をしたりする場所だった。ルチオが腰掛けを示すと、ザーレは座った。ハルキンはその隣に浮いたまま着いてきた。

兵士は槍を持ったまま、道の見えるところに立った。


「ここにいる子供たちは」


ザーレが尋ねた。


「親御さんに、教会に泊まるように言われたのです…今夜はこちらで預かろうと思っています」


「そうか」


ルチオは自分も腰を下ろした。


扉の方から、子供たちの声が聞こえた。ハルキンについて話しているらしく、扉の隙間からチラチラとこちらを見ては引っ込む。


意を決したように、ルチオが口を開いた。


「…突然で申し訳ない。あなた方に力を貸していただきたい」


「司祭、いくら何でも、急ではありませんか。使い魔を連れているとはいえ、まだ、こちらの方々が何者かも……」


「ええ。それは、そうなのですが」


村の子供たちの命が懸かっているのだ。通りすがりの旅人に、何を根拠に頼むのか。問われれば返答には困る。自分でも随分と無茶なことを言っていると思う。


それでも、頼むなら今だと思った。


長く祈り、日々の務めを果たしていると、妙な巡り合わせに出会うことがある。困り果てた時に訪ねてくる者がいる。何気なく交わした言葉が、長く抱えていた悩みを解いてしまう。何も知らないはずの相手が、こちらに必要なものを持っている。


そういうことが、あるのだ。


もちろん、何でも神の計らいと決めつけるわけにはいかない。だが、その可能性を信じて目の前の人に声を掛けるくらいは、自分でしなくては。


「……どうにも、この方々をお引き留めした方がよい気がしまして」


「気がする、というのは」


「まあ、その、勘です」


兵士は困った顔をした。無理もない。ルチオは旅人へ向き直る。


「ご迷惑かもしれませんが、まずは話だけでも――」


「構わない。こちらもそのつもりだ。これは定めのようなものだ」


ザーレが答えた。ルチオと兵士は驚いた。ここまであっさり承諾するとは。


「君、最初から分かってたよね」


隣に浮かぶハルキンが言った。


ザーレがそちらを向く。


「何が」


「これが君の使命だってこと。サボろうとしてなかった?」


「水が飲みたかっただけだ。その後取り掛かるつもりだった」


「…」


「本当だ」


ザーレが微妙に気まずそうにしている。兵士は旅人二人の会話に困惑し呆気に取られていた。ルチオは意味を測りかねながらも、少し嬉しそうだ。


気を取り直すかのように、ザーレが再び口を開いた。


「最初の一件から、詳しく聞かせてほしい。その残されたものも見せてくれるか」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。