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剣士と浮遊する黒いものの二人組に、ルチオは声を掛けた。
「もし、あなた方は…」
兵士が少し慌てたように弁明する。
「司祭様。いや、こちらは旅の方です。村の件を聞きたいという事なので、今から兵長に引き合わせるところで」
「旅の方……」
石段を下りて、近寄っていくと、剣士の方が言った。
「井戸を使わせてもらった。村に感謝する」
「ええ。それは構いません…私は、この教会の司祭を務めております。ルチオと申します」
「ザーレだ」
「ボクはハルキン。よろしく」
黒いものが当たり前のように喋った。挨拶も兼ねてルチオは祈りの所作を行った。不思議な事に、あまりこの人形に不吉な感じはしなかった。
「この人達も修行僧だそうです」
兵士が補足する。ルチオの眉が上がった。
「そうでしたか。どちらの教えを学ばれたのでしょう」
「ウォーデ派だ」
「おお、ウォーデ…そうでしたか。ああ、珍しい事です、本当に」
ルチオはザーレの方を見つめた。驚いているようだ。
ザーレは後を続けた。
「ところで、ルチオ師。村では何があったのだろう」
「おい、一度兵長のところで…」
「ああ、ご説明には私も後で同席したいのですが、よろしいでしょうか」
「司祭様も?…ああ、もういいか、一旦話しても」
諦念した兵士の傍ら、腕組みしたザーレは返事を待っていた。傍らのハルキンもこちらを向いていた。
「……子供が、消えたのです」
ルチオは言った。
「三人。夜、家で寝ている間に、親が狩りに出ている間に。親と一緒に逃げている間に…」
ザーレが兵士を見る。兵士がうなずいた。
「逃げている間に? 親の目の前でか」
「ええ。ただ、それだけではありません、消えただけでなく…」
「代わりに何かが残されたのか」
ルチオは目を見開いてザーレを見た。兵士もギョッとしている。
「ご存じなのですか。そうなのです、まるで伝承の『取り換え』…」
「たまにある話だ。続けてくれ」
「まさに、その通りです。全ての家族に、子供ではないものが……」
その時教会の扉から音がした。そばに、子供が一人立っていた。外へ出てきかけたが、ハルキンを見て止まった。ハルキンがそちらへ顔を向けた。子供は扉の陰へ引っ込んだが、悲鳴のような歓声のような声が漏れる。
ルチオは声を落とした。
「こちらへ来ていただけますか」
教会の脇には、低い木の腰掛けがあった。いつもは村人が荷物を置いたり、礼拝の後に話をしたりする場所だった。ルチオが腰掛けを示すと、ザーレは座った。ハルキンはその隣に浮いたまま着いてきた。
兵士は槍を持ったまま、道の見えるところに立った。
「ここにいる子供たちは」
ザーレが尋ねた。
「親御さんに、教会に泊まるように言われたのです…今夜はこちらで預かろうと思っています」
「そうか」
ルチオは自分も腰を下ろした。
扉の方から、子供たちの声が聞こえた。ハルキンについて話しているらしく、扉の隙間からチラチラとこちらを見ては引っ込む。
意を決したように、ルチオが口を開いた。
「…突然で申し訳ない。あなた方に力を貸していただきたい」
「司祭、いくら何でも、急ではありませんか。使い魔を連れているとはいえ、まだ、こちらの方々が何者かも……」
「ええ。それは、そうなのですが」
村の子供たちの命が懸かっているのだ。通りすがりの旅人に、何を根拠に頼むのか。問われれば返答には困る。自分でも随分と無茶なことを言っていると思う。
それでも、頼むなら今だと思った。
長く祈り、日々の務めを果たしていると、妙な巡り合わせに出会うことがある。困り果てた時に訪ねてくる者がいる。何気なく交わした言葉が、長く抱えていた悩みを解いてしまう。何も知らないはずの相手が、こちらに必要なものを持っている。
そういうことが、あるのだ。
もちろん、何でも神の計らいと決めつけるわけにはいかない。だが、その可能性を信じて目の前の人に声を掛けるくらいは、自分でしなくては。
「……どうにも、この方々をお引き留めした方がよい気がしまして」
「気がする、というのは」
「まあ、その、勘です」
兵士は困った顔をした。無理もない。ルチオは旅人へ向き直る。
「ご迷惑かもしれませんが、まずは話だけでも――」
「構わない。こちらもそのつもりだ。これは定めのようなものだ」
ザーレが答えた。ルチオと兵士は驚いた。ここまであっさり承諾するとは。
「君、最初から分かってたよね」
隣に浮かぶハルキンが言った。
ザーレがそちらを向く。
「何が」
「これが君の使命だってこと。サボろうとしてなかった?」
「水が飲みたかっただけだ。その後取り掛かるつもりだった」
「…」
「本当だ」
ザーレが微妙に気まずそうにしている。兵士は旅人二人の会話に困惑し呆気に取られていた。ルチオは意味を測りかねながらも、少し嬉しそうだ。
気を取り直すかのように、ザーレが再び口を開いた。
「最初の一件から、詳しく聞かせてほしい。その残されたものも見せてくれるか」




