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「今夜はこの村に泊まるんだな」
長髪の剣士は、村に入る道を歩きながら言った。
「酒場宿が有るはずさ。君のやるべき事もね」
隣で浮いている黒いものが返した。どこから発音しているのか分からないが、声変わり前の男児のような声音だった。
「分かった。とりあえず水が飲みたい」
その剣士は赤みがかった朱色の長髪で、金属の額あてだか髪留めだかよく分からない装備で変な前髪になっている。絶世の美男子と思いきや、よく見ると女である。
緑色の衣服の上に身につけた武具には統一感がなかった。短い丈の鎖帷子の上に肩当てを足し、腕には別の鎧から外したような鉄の覆いを巻いているという有様だ。明らかに見栄えを気にしていなかった。
腰に提げた剣は安物ではあるがよく手入れされており、鍔に錆はなく鞘の留め紐も新しかった。
「井戸の場所を聞こう。…あ、そこの兵士はどう?」
浮遊する黒いものの持つ球状の頭部は灰白色の縫いぐるみのようだった。目は丸型の、口は三日月型の黒い穴がポッカリと空いているだけだ。
白黒の三つ又の道化帽を被っており、胴体はポンポン付きの黒マントで隠れていて判然としない。
村の入り口に立っていた兵士が、井戸への道を尋ねられる前に怪しい二人組に声をかけた。同時に穂先を向けるのを忘れない。
「お、おいあんたら、止まれ…何だ」
二人組は兵士の前に止まった。
(使い魔か…魔術師か、いや呼びに出たのはついさっきだ…)
「流れの剣士か何かか」
「まあ、そんなところだ」
剣士が言った。女の声だったので兵士は少し驚いた。
「本当は修行僧だけどね」
黒いものが言った。普通に喋ったので兵士はかなり驚いた。兵士はそちらへ目を移した。
「……あんたは何だ、使い魔か」
「ハルキン」
「何者かと聞いているんだが」
「この人の旅の連れだよ」
兵士は剣士を見た。剣士はうなずいた。それで説明は終わったという事らしかった。
「…。今、村で面倒なことが起きている。泊まるなら、巻き込まれるかもしれんぞ」
「そうか。私は気にしない。井戸を使わせてもらえるか」
「その言い方はどうなの」
ハルキンが剣士へ顔を向けた。
「喉が渇いている」
「助けになれるかもしれないのに」
「水を飲んでから何が有ったのかを聞くつもりだった」
「それなら、そう言おうよ」
兵士は槍を下げた。妙な二人だったが、敵意は無いようだ。しかも、助けになりたいだとか。
…通してよいのだろうか。とりあえず、見張っておこう。
「井戸までの道は案内する」
「ありがとう」
「良かったねザーレ」
剣士の名はザーレというらしかった。
農夫や話し込む婦人達の警戒と奇異の目に晒されながら、兵士は二人組を井戸まで案内した。なんで俺が気恥ずかしい想いをしないといけないんだと思いながら。
ザーレは水桶から口を付けずに器用に水を流し込み、その後革の水袋に水を溜めた。
「ふう。助かったよ。ところで、この村で何が有ったのか聞かせてくれないか」
兵士は少し考えた。使い魔を連れているような奴である。只者には見えないし、この手のトラブルに何か手を貸してくれるなら儲け物だろう……
「あー…。ついて来てくれ」
一旦兵長にも話を通しておかないとな、と兵士は思った。




