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昼になっていた。
白い石造りの教会が、木立の間にある。煉瓦ほどの大きさの切石を積み、正面には木の扉と、日照用の小窓が有る。
一人の黒い僧服を着た年老いた司祭が、石段を下りている。背筋は真っすぐに伸び、広い額には皺が刻まれていた。
「…なんということだ」
彼は村の司祭・ルチオという。
ルチオは、修道院でジャヴァ派の教えを学び、領主に招かれてこの村へ来た。若い頃のことである。村人に教えを説くだけでなく、現地の祭祀についても良く学んだ。全ての古い祠にも足を運んだ。今では村祭りも任され、もう誰も彼をかつて町から来たよそ者の僧とは思っていない。
「…主よ、私には、何が出来るというのでしょうか」
一昨昨日から、『取り換え』…子供の失踪事件が三件も起きている。赤い『偽物』が置かれ、子供が忽然と居なくなるのだ。
コラードの娘のアネットは、狩りから帰ると取り換えられていたらしい。動けなくなったコラードは、妻が面倒を見ている。
アランは息子のジベールを連れて村を出て馬で逃げていたのに、いつの間にか取り換えられた。
ゴティエは朝起きたら息子のマシュランが偽物に取り換えられていたという。
これは、森の悪霊の仕業なのか。
司祭は目を閉じた。神は、救いを求める者の声を聞いてくださる。そのことを疑ってはいなかった。
だが、今の私に何が出来るのだろうか?
…。
しばらくすると、幾つもの足音が近づいてくるのが聞こえた。
ルチオは石段を下り、道へ顔を向けた。村の子供達の一団だ。小さな子の手を引く者も、毛布を抱えた者もいた。
「司祭様。…あの、お父さんとお母さんが、教会で匿ってもらいなさいって…」
後ろの子供たちも、返事を待っていた。どの顔もよく知っていた。
ああ、主のお与えになる仕事は、来たようだ。
「もちろんですよ」
ルチオは微笑んで言った。子供達が安心できるように。
「ありがとうございます、司祭様」
「今からここに入るのですか、それとも夜になってから?…毛布を持ってきた方がよさそうですね」
すぐに教会に入りたい子供達のために、木の扉に手をかけ…そこで、背後から少女の声がした。
「司祭様。ここなら、大丈夫ですよね」
ルチオは振り返って言った。
「もちろん、神様が守ってくれますから」
不安は有るが、そう信じていた。
そして、子供達を教会に迎え入れ、最後の一人が入ったところで、ルチオは道に奇妙な二つの人影を認めた。
一人は、武装している。長髪の剣士のようだ。もう一人は…いや、人には見えない。
浮いている。
道化の人形のようなものが、剣士の傍らを浮いて同行していた。剣士が何か言うとそちらに顔を向ける。
なんだあれは。魔術師の使い魔だろうか。ならばあの剣士は魔術師か。到着が早すぎる。まさか、『取り換え』を行った森の魔物…
いや。
兵士が一人、二人組に付いて何かを話している。領主から派遣されて来た者の一人だった。普通に会話しているようで、特に武器を構える様子はなかった。
一体あれは何者なのだろうかとルチオは訝しんだ。




