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サンドラン村は、人口二百人程の、大きな森に面した村である。
木々を切り開いた土地に民家が寄り集まっており、畑に行くにも井戸場に行くにも木立を通る。
道沿いの柑橘がよく実っている。風が吹き、日に照らされた橙色の実が葉の間で揺れている。手を伸ばせば届く枝もあったが、村の共有の木なので、適当に捥ぐのはご法度である。よく子供が先走って木の実を食べて叱られていた。
その日はよく晴れていた。まだ朝露が木々の葉に見える時間。何やら人々が集まっているようだ。一軒の民家に。
畑へ向かう途中だった男が、鍬を担いだまま戸口をのぞいている。頭巾をかぶった女が家に入り込み、心配そうに「ジレット、ジレット」と名前を呼んでいる。杖をついた老人が後ろから近づき、人垣の隙間から見ている。
子供たちも来ていたが、中を見ようとすると、大人に腕をつかまれて引き戻された。「外で遊んでこい」と怒鳴られて散る。
「返してえええっ、返してよおおおおおっ」
「嘘だ…嘘だ…なんでマシュランが…」
民家の中からである。
伏した女が寝床に上体を投げ出しながら喚き散らしていた。すぐ前に、何か赤いものが鎮座している。男は憔悴し、息荒くあちこちを動き回っていた。戸口から寝床、寝床から戸口…
二人は、子を持つ親であった。
「まただ……」
「取り換えだ」
「どけ」
強い声の主が人々を退かせて家に入っていく。鎖帷子を着、丸い鉄兜を被った壮年の男だ。彼は槍を外の壁に立てかけていた。持って入るには戸口が低すぎたのだ。後ろに三人、武装した男たちが付いている。領主代官から遣わされた兵士であった。
「…これは」
寝床に突っ伏す母親らしき女、その前の赤く鎮座するものを目の当たりにして、兵長は絶句した。戸口の村人へ顔を向け、尋ねる。
「他の二件も同じか」
「子供が消えて…代わりにこれがいたんです」
頭巾の女が答えた。
「アランのところも、その前の家も」
「これと同じものがか。…本当に、森の魔物の仕業か」
「三件目だぞっ」
戸口の男が怒鳴った。
「もう三件目だっ。あんたらを呼んでから、この村に着くまでにまた一人取り換えられた。どうにかしてくれるのかっ」
「魔術師を呼ぶしかないだろう。町に使いを出そう」
老人が言った。魔術師を呼ぶのは金が掛かるが、領主が負担してくれるだろうか。
「ああ、すぐに代官様に知らせて手配してもらう…お前、館へ戻れ。急げっ」
「はっ」
兵士の一人が駆け出して行った。
「あの、待ってください」
頭巾の女が兵長の前へ出た。
「あなた方が来たから、皆、少しは安心したんですよ。なんとかしてくれると…また、誰かを呼ぶんですか?その魔術師が来るまで、今夜も、その次の夜も待つんですか」
「うちにも子供がいる。家に閉じこもって一緒に寝ていたって安全じゃない。どこへやればいいんだ?」
兵士達は戸口の人々に向き直った。
「魔術師が、必要だ。俺たちだけでは、これが何かも分からん」
兵士が寝床の赤いものを指して言った。その言葉を聞いて、父親のゴティエが詰め寄った。
「じゃあ、何をしに来たんだ…お前ら、何しに来たんだよっ」
兵士の一人がゴティエの前へ出ようとしたが、兵長が制した。
「お前たちを助けるためだ。まずは、確認だ。今から魔術師を呼ぶ。分かるな」
「森の化け物に子供が奪われてるんだぞっ。マシュランがっ。マシュランだけじゃない他の家の子もだっ。探しに行ってくれないのかっ」
「…」
ゴティエは兵士を睨みつけ、それから壁際へ歩き、薪割り斧を取った。
「俺が行く」
その言葉に、母親…ジレットが涙塗れの顔を上げた。ゴティエは斧を握り直し、兵士の前へ戻った。
「あんたらも来てくれるんだろ。なあ」
兵長はゴティエの肩を掴んだ。
「待て」
「道は知ってる。俺が先に行く」
「どこへ向かう気だ」
「森だよ」
「闇雲に入ってどうする」
「捜すんだよ」
「当てもないのにか?」
「ここにいろってのかっ」
ゴティエが声を張り上げた。絶叫だった。
「この化け物の前でっ、妻がこうなってるのを見てっ、俺に、何をしてろって言うんだっ」
「……。森の道は分かるのか」
若い一人の兵士が言った。
「待て」
兵長が言った。若い兵士は振り返る。
「まだ朝ですよ。村の近くを捜すくらいなら」
言い終わる前に、ゴティエが若い兵士の手を両手で強く握った。




