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森の奥で、枝が揺れた。見張っていた男が立ち上がった。
「おい……誰か来るぞ」
最初に姿を現したのは、子供を抱いたゴティエだった。人垣の中から声が上がった。
「戻ったっ」
「子供は?」
「いる、抱いてるぞっ」
「コラードの奴を呼んでやれっ。アネットだ」
ジレットが駆け出した。ゴティエの腕の中で、マシュランが顔を上げた。その口から「お母さん」と聞こえた途端、ジレットは叫んだ。
続いて現れた者たちへも、村人が駆け寄った。肩を掴む者、子供の顔を覗き込む者がいる。
「本当か。本当に、お前か」
アランと妻が息子のジベールに尋ねていた。頬を撫で、耳の下に手をやり、抱き寄せた。
「みんないるかい?」
ハルキンが頭上から声をかけた。
ザーレはその下を通り、兵長の前に立った。
「血肉套……じゃなかった、妖精は始末した。連れ戻した者を数えてくれ。子供が三人、捜索に入った者が六人だ」
兵長は頷いた。戻った若い兵士を見つけ、手招きした。
「兵長…」
「報告っ」
兵長の鋭い声に、若い兵士は兵長の前でビシッと足を止め、槍を立てた。
「ただいま戻りましたっ。捜索に出た六名、全員無事ですっ。子供も三人とも無事にっ…あの、お二人組に、救助されました」
「……よし。槍を置け。少し休め」
「はっ」
兵長は、ようやく息を吐いた。
「……お前、本当にどうなるかと思ったぞ」
「すみません……」
肩に、重い手が置かれた。
「水を飲んでこい。話は後で聞く。あの旅人達に礼をしなくてはな」
そんなやり取りを横目に、ザーレはルチオの前へ進んだ。
「肉人形は全て処分した。子供達を診たが、異常は無い。安心していい」
ルチオは返事をしなかった。ザーレはその顔を見た。抱き合っている親子を見ていたのだ。唇が僅かに動いている。
それを見て、ザーレは少し待った。やがてルチオがこちらへ向き直った。
「……申し訳ありません。何と仰いましたか」
「元凶の妖精についてだ。血肉套という。幼児を自分たちの領域に適応させ、同族を増やす類の――」
「ザーレ様」
「ん?」
「あなた方がいらっしゃらなければ、私は……」
ルチオは言葉を切った。すぐそばで、子供が大きな声で泣いていた。母親が何度も「もう大丈夫」と繰り返している。
「私は、この感謝を伝える方法を知りません」
ザーレが口を開きかけた。
「どうか、祈らせてください。あなた方を遣わしてくださった神に。そして、あなた方にも、旅の加護がありますように」
ルチオが手を合わせて瞑目する。ザーレはなんとも言えない顔で黙っていた。ハルキンが、その肩の隣まで下りてきた。
「感謝は受け取っておくものだろう?」
「そうだな」
ザーレは背筋を伸ばした。そのままルチオに向けて祈りの所作を行う。
「ジャヴァの司祭よ!全ては神の采配である。貴方の智慧の眼が開き、絶対の真理を悟ることができるように」
ルチオの目が見開かれた。祈りを終えたザーレは、少し笑った。
「ははは、これでイーヴンだな。そちらにも祝福があるように。ルチオ師」
「本当に冗談が下手だね」
ハルキンが言った。
ルチオは口元に手を当てていた。肩が小さく揺れている。
「失礼を……今日は、もう……笑えるとは、思っておりませんでした」




