↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
11/12

11

森の奥で、枝が揺れた。見張っていた男が立ち上がった。


「おい……誰か来るぞ」


最初に姿を現したのは、子供を抱いたゴティエだった。人垣の中から声が上がった。


「戻ったっ」


「子供は?」


「いる、抱いてるぞっ」


「コラードの奴を呼んでやれっ。アネットだ」


ジレットが駆け出した。ゴティエの腕の中で、マシュランが顔を上げた。その口から「お母さん」と聞こえた途端、ジレットは叫んだ。


続いて現れた者たちへも、村人が駆け寄った。肩を掴む者、子供の顔を覗き込む者がいる。


「本当か。本当に、お前か」


アランと妻が息子のジベールに尋ねていた。頬を撫で、耳の下に手をやり、抱き寄せた。


「みんないるかい?」


ハルキンが頭上から声をかけた。


ザーレはその下を通り、兵長の前に立った。


「血肉套……じゃなかった、妖精は始末した。連れ戻した者を数えてくれ。子供が三人、捜索に入った者が六人だ」


兵長は頷いた。戻った若い兵士を見つけ、手招きした。


「兵長…」


「報告っ」


兵長の鋭い声に、若い兵士は兵長の前でビシッと足を止め、槍を立てた。


「ただいま戻りましたっ。捜索に出た六名、全員無事ですっ。子供も三人とも無事にっ…あの、お二人組に、救助されました」


「……よし。槍を置け。少し休め」


「はっ」


兵長は、ようやく息を吐いた。


「……お前、本当にどうなるかと思ったぞ」


「すみません……」


肩に、重い手が置かれた。


「水を飲んでこい。話は後で聞く。あの旅人達に礼をしなくてはな」


そんなやり取りを横目に、ザーレはルチオの前へ進んだ。


「肉人形は全て処分した。子供達を診たが、異常は無い。安心していい」


ルチオは返事をしなかった。ザーレはその顔を見た。抱き合っている親子を見ていたのだ。唇が僅かに動いている。


それを見て、ザーレは少し待った。やがてルチオがこちらへ向き直った。


「……申し訳ありません。何と仰いましたか」


「元凶の妖精についてだ。血肉套という。幼児を自分たちの領域に適応させ、同族を増やす類の――」


「ザーレ様」


「ん?」


「あなた方がいらっしゃらなければ、私は……」


ルチオは言葉を切った。すぐそばで、子供が大きな声で泣いていた。母親が何度も「もう大丈夫」と繰り返している。


「私は、この感謝を伝える方法を知りません」


ザーレが口を開きかけた。


「どうか、祈らせてください。あなた方を遣わしてくださった神に。そして、あなた方にも、旅の加護がありますように」


ルチオが手を合わせて瞑目する。ザーレはなんとも言えない顔で黙っていた。ハルキンが、その肩の隣まで下りてきた。


「感謝は受け取っておくものだろう?」


「そうだな」


ザーレは背筋を伸ばした。そのままルチオに向けて祈りの所作を行う。


「ジャヴァの司祭よ!全ては神の采配である。貴方の智慧の眼が開き、絶対の真理を悟ることができるように」


ルチオの目が見開かれた。祈りを終えたザーレは、少し笑った。


「ははは、これでイーヴンだな。そちらにも祝福があるように。ルチオ師」


「本当に冗談が下手だね」


ハルキンが言った。


ルチオは口元に手を当てていた。肩が小さく揺れている。


「失礼を……今日は、もう……笑えるとは、思っておりませんでした」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。