第7話 あなたの色(中編)
ローランとマルグリットは一瞬ポカンとしたが、すぐに朗らかな笑い声を上げた。
「ははっ、ユーモアのある子だな」
「クラウス、あなたもちょっとは見習いなさい」
エレオノーラは話がわかっていないようだったが、楽しそうな二人を見て微笑んでいた。
簡単な挨拶だけして、四人はすぐに食堂へ移動した。
好物ばかりの食卓に、マルグリットは目を輝かせていた。
「こちらが今日のメニューでございます」
ガスパールがローランとマルグリットに紙を渡した。
マルグリットはそれを見てすぐに、「まあ!」と声をあげた。
「これ、すごくわかりやすいわ。うちの料理人にも見習ってほしいわ」
エレオノーラとガスパール共作のメニューだった。
ガスパールは誇らしげな顔で下がっていった。
「ノーラ、改めて両親を紹介させてくれ」
乾杯が終わると、クラウスが言った。
「父のローランだ。俺の前に騎士団長を務めていた。今は南部の駐屯所で騎士の指導をしている」
「よろしく、ノーラ」
「こちらが母のマルグリットだ。母は――」
「植物が大好きで、今は毎日たくさんの植物を育てているの。田舎に引っ込んだのも、大きな庭が欲しかったからなのよ。ああ、それでね、お土産もたくさん持ってきたの。ジェラールに渡しておいたから……」
「母さん」
クラウスがマルグリットを止めた。
エレオノーラが固まっていた。
記憶が飛んだ時の顔だ。
「ノーラがビックリしてるだろ。もっとゆっくり話してやってくれ」
「あら、ごめんなさいねえ」
「ノーラ、母さんはいつもこんな感じだから、話が長かったら止めていいぞ」
「はい」
その後も和やかな食事が続いた。
ほとんどマルグリットがしゃべり倒していたが、クラウスもローランも慣れた様子だった。
食事が済むと、クラウスとローランは騎士団本部へ挨拶に向かった。
マルグリットとエレオノーラは、侍女を連れて王都の隅にある植物園へ向かった。
マルグリットが植物好きと聞いて、エレオノーラが選んだ場所だった。
「久しぶりに来られて嬉しいわあ。ノーラさんは植物はお好き?」
園内を歩きながら、マルグリットが言った。
「好きですが、あまり詳しくありません」
「そう。ああ、ほら、パンジーよ。かわいいわあ」
マルグリットはパンジーの花壇のそばにしゃがみこんだ。
エレオノーラもその横に屈んだ。
「美味しそうな色ですね」
影に隠れていたチョコレートブラウンのパンジーを見て、エレオノーラが言った。
その瞬間、マルグリットの目がきらりと光った。
「あらあらあら。珍しい色ねえ。どういう組み合わせなのかしら。お花の色ってね、面白いのよ。人間の目の色も、親の目の色で決まるでしょう? それと同じようにお花も組み合わせで色が変わるし、環境でも変わるし……」
エレオノーラの頭が揺れ始め、そのままコテンと後ろに倒れて座り込んだ。
マルグリットは、咄嗟にその背中を手で支えた。
「大丈夫? 私ったら、また喋りすぎちゃったわ」
「ごめんなさい。私、五十文字を超えるとお話がよくわからなくなってしまうんです」
「あら、そうだったの」
「クラウスさまは、いつも区切って話してくださっています」
「なるほどね」
マルグリットは腕を組んで考えた。
喋るのが好きなマルグリットにとっては少々難しいが、できなくはないと思った。
「じゃあ、私もそうするわ!」
明るく言い切って、マルグリットは立ち上がった。
「さ、行きましょう」
「はい」
エレオノーラは、差し出されたマルグリットの手をキュッと握った。
柔らかく少し冷たいその手は、エレオノーラに故郷の母を思い出させた。
* * *
一時間ほど歩いたあと、二人は園内にあるカフェに入った。
エレオノーラはチョコレートケーキとカフェオレを注文した。
さらに、カフェオレには二つの砂糖が投入された。
「ノーラさんは甘いものが好きなのね」
「はい、とても」
「クラウスから聞いたけど、宝石も好きなんでしょう?」
「はい。原石もたくさん集めています」
「まあ、帰ったらぜひ見せてちょうだい」
マルグリットは紅茶を啜ると、はあと幸せそうなため息をついた。
「ノーラさん、クラウスはどう? 迷惑かけてない?」
「とても優しいです」
「あの子、口が達者な方じゃないでしょう? 結婚して、上手くやっていけるか心配してたの」
エレオノーラは、まっすぐにマルグリットを見つめた。
透き通ったその瞳は、マルグリットに息子の目を思い出させた。
「でも、今日会って安心したわ。だってあなたたちは――」
マルグリットの言葉が止まった。
しばし茶褐色の紅茶の水面に視線を落として、再びノーラの目を見た。
「ふふっ、やっぱり内緒」
マルグリットはそう言って、いたずらっぽく微笑んだ。
ティータイムを楽しんだあと、二人はカフェの横にある小さな土産屋に入った。
様々な種子や植物、園芸用品も売っており、マルグリットは大興奮で見ていた。
エレオノーラはその間、店内を見て回っていた。
棚に置かれた小物を見ていると、ふと葉っぱの形をしたカフスが目についた。
手に取ってみると、どこか見覚えのある形だった。
「それが気に入ったの?」
「はい」
買い物を終えたマルグリットが、エレオノーラの手元を覗き込んだ。
「あら、オークの葉っぱね」
「これを買います」
「いいじゃない。きっと喜ぶわ」
大事そうにカフスを握りしめて、エレオノーラは店員のところへ向かった。




