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役立たずちゃんの地味魔法脱走劇  作者: 兵衛門


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13,農村アローフェルド

 三日後、私はハルザーンさんのキャラバンと共に鉱山町までの途中の村、アローフェルドに立ち寄っていた。

 

 あの後サイラスさんは商業ギルドで赤川を使った商用路を紹介してもらい、私が作ったいい香りの石鹸をギルドの重役たちに配ったようだ。

 紹介してもらった、というだけで今すぐそのルートで何か始めるわけじゃない。

 今回は匂わせだけして、『だから上等な石鹸が少し噂になっても、目をつむってくれ』という事だ。


 アローフェルドはなだらかな丘陵地と森林の一部を擁する広い村で、放牧地と色々な畑が広がっていて、あちこちに季節を問わず花が咲いている。

 サイラスさんが、商業ギルドの支部に馬車を預けながら私に説明してくれた。

 

 「ここは植物から取れる油や、蜜蠟、季節によっては果物なんかも仕入れていくところだ。アローフェルドに住むエルフたちは緑の声を聴くと言われるほど、植物の扱いに長けている」


 「エルフさんの村なんですか?」

 

 「エルフが多いが、ビーストフォークも結構いるな。ビーストフォークたちは家畜の扱いが上手いから、エルフとも仲が良い。そんで、そういった技術を学びに只人の出入りもかなりある」


 前世の創作物でもエルフは自然と植物について造詣が深いという設定があった。

 それが農業に活かされているというのは予想外だったので、少し驚いた。よく考えたら得意を活かすのは当然なのだから、納得できる話だ。



 ◇◇◇◇◇



 一方ケルノーの小さな城塞の一室では、腰巻一つでげっそりした様子のジョウゼンが、アヤメから水袋を受け取っていた。


 「ジョウゼン様、少しは落ち着いてきましたか?」


 いつになく心配そうなアヤメは、毒を吐く事も無く甲斐甲斐しくお世話をしている。

 ジョウゼンの方が元気がないはずなのに、ジョウゼンの口から出るのは文句や愚痴ばかりだ。


 「吐き気と腹具合の悪さはまだあるが、便所まで我慢できるくらいにはなったぜ。ようやく目的地に着いたんだから、そろそろ落ちこぼれをとっ捕まえに行くか」


 「もう少し回復してからにしましょう。今は休んでいてください」


 「この程度なら大丈夫だって。相手はなんの能力もない落ちこぼれだぞ?」


 「いずれにしても対象の情報がないとどこにいるかもわかりませんから、同僚から情報をもらってきます。食事も用意していきますから、食欲があったら召し上がってください。お薬もちゃんと飲むんですよジョウゼン様」


 「あの苦い泥みたいなのは嫌いだ」


 「薬をちゃんと飲んだら体調が良くなるんですから、そのくらい我慢してください」


 アヤメは眉根を寄せて軽くため息を吐いた。

 ジョウゼンは人並み外れた強さだが、腹が痛くて任務に失敗しましたなど、洒落にもならない。

 ましてや顧客の目の届くところでくだらない失敗など許されるはずがないのだ。


 実際あの狩りの日の夜からジョウゼンは著しく体調を崩し、一日移動を諦めなければならなかった。

 あまりジョウゼンに良い感情を抱いておらぬアヤメが気を使うほどである。


 「昨日もあまり寝れていないのでしょう。寝ていてください」


 「アンナちゃんこそ寝てねえだろ。ちったぁ回復したんだ、俺のことはいいから一日寝ろよ」


 「私はアヤメです、ジョウゼン様。ようやく一文字覚えられたのですね。頭をお撫でしても?」


 「やめろ。とっとと話をしに行くなり寝るなりしやがれ」


 アヤメは肩をすくめてくるりと退室すると、自分でも気が付かぬまま口角を上げた。



 ◇◇◇◇◇



 私達はエルフの農家を訪ねた。

 仕入れようとしたものが足りなかったので、直接交渉しようとなったのだが、どうやら最近ジャイアント・ビーが増えて、作業に支障をきたしているのだという。


 ジャイアント・ビーは30cmくらいある巨大なミツバチで、普段はあまり害はないが、巣に近づく者には容赦なく攻撃する。


 これだけ大きいとそれだけでかなり怖いだろう。

 しかし農場を営んでいるエルフたちはあまり危機感を抱いていない様子だった。


 「たまにこういう事もありますよ。何年かしたら落ち着きますから大した問題ではないでしょう」


 エルフは長生きだから、のんびり待つつもりらしい。


 何軒かの農場主と話したが、どこもこんな調子だった。


 サイラスさん達が頭を抱えたまま宿に戻ると、一人のエルフの女性が待ち構えていた。


 「ハルザーンキャラバンさん、初めまして。私はデメテリア・カラマーイと申します。ご相談がございますの」


 彼女は仕立ての良い服とたくさんの装身具を身に着けていて、とても裕福そうに見えるのに、なにか違和感を憶える雰囲気をまとっていた。

 どこか不健康そうというか、やつれているというか……、痩せすぎている。

 彼女はエルフの中でも背が低いようで、ざっと見130㎝くらい。これが「うすほそ」というやつなのだろうか。


 「私の農場に、ジャイアント・ビーが巣を作ってしまいまして……作業が出来ない状態なんですの。ハルザーンキャラバンの護衛は手練れ揃いと聞いていますから、何とか駆除して頂けませんこと?」


 サイラスさんが片眉を上げて答える。


 「彼らはうちが雇った傭兵達だ。護衛中はそれに支障のない仕事しか受けられない」


 「もちろん存じ上げておりますわ。彼らに紹介していただけるなら、ハルザーンキャラバンさんには商品を優先してお売りすると約束します」


 「口利きくらいはしてやれるが、傭兵のリーダーと交渉してくれ。バスキア!」


 サイラスさんが大声で呼びかけると、覆面をしたままのバスキアさんが一歩前に出た。


 「俺が傭兵のリーダー、バスキアだ。今俺達は二つの護衛依頼を受けている。これ以上はハルザーンさんともう一人の雇い主の意思を確認する必要がある」


 二つの護衛依頼?

 あっ、私の護衛だ!


 そしてバスキアさんがこちらを向き、デメテリアさんも釣られるようにして私を見た。

 私の……意志、ですか?


 「私はバスキアさん達が良ければ。ところでジャイアント・ビーって基本ミツバチですよね?」


 思い切ってデメテリアさんに質問してみた。

 ジャイアント・ビーは体長三十センチほどになるミツバチの形をしているが、その生態はよく解っていない。

 

 デメテリアさんは一瞬目を瞬(しばたた)かせたが、笑顔で答えてくれた。


 「そうね、彼らはうちの納屋に入り込んで巣を作ったけれど、私もじっくりと見てはいないわ。ミツバチに似てはいるけれど……。でもそれがどうかしました?」


 「うーん……。どういう生き物なのかがわかれば、少しは対策を考えられるかと思ったんです」


 私はバスキアさんに向き直って、一つ提案してみた。


 「依頼を受けるかどうか、少し見てから考えてはどうでしょう?」


 するとデメテリアさんが「もしジャイアント・ビーがミツバチだったら、巣を報酬として頂いても構いませんわよ」と言い出した。

 言いましたね?


 もしミツバチだったら、蜂蜜に蜜蝋、その気になればローヤルゼリーなんかも……。


 こうして私はバスキアさん達と問題の納屋を調査しに行くことにした。

 ラズロウさんは止めようとしてくれたけど、私は蜂蜜と蜜蠟の、あまりの魅力に抗うことが出来なかった。

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