二百五十六話 両世界でただ一人の異能力者
3月2日
ラライエの暦で2週間が経過した。
地球の暦では春だな。
まだまだコートも冬服も手放せないとは思うけど……。
いつも通りピリカを伴い図書館に着くと、エントランスにはホリプスと最近よく見かける執事ぽいお付きの中年男性、あとは数名の冒険者が俺の到着を待っていた。
「来たね。前にも言った通り禁書庫閲覧の手続きは出来ているから、今日からは禁書庫入室可能だよ」
「ヴィノンから聞いたけど、結構大変だったんじゃないのか?」
「少なくとも君が僕に足を向けて寝られなくなる位には人手もコストも掛かっている ……くらいは言わせてもらってもいいかな?」
やっぱりな。完全に俺に恩を売りに来ている感じか。
ヴィノンの読み通り、5年10年を見越した長期的スパンでの搦め手というわけだ。
これは適当な頃合いでこの国を出て行方をくらませてしまう方が後の面倒が無いかもな。
……無茶なお願いされる前に。
きっと話を切り出してくる前には何かしら兆候があるだろう。
そこを見落とさないようにしないとな。
「そいつはどうも ……それじゃ、せっかくの厚意を無駄にしないためにも、早速行ってみようかな。その禁書庫に……」
「そうだね。あとは頼むよ。夕方にまた迎えを頼む」
ホリプスは一緒に来ていた冒険者たちにそう声をかける。
冒険者たちはホリプスに頭を下げるとそのまま立ち去って行った。
あ、この執事ぽいナイスミドルは残るんだ。
そんな気はしたけど……。
図書館に入るといつもの図書室とは逆の方向に向かう。
なんとなくだけど、そっちは図書館の職員たちのいる部屋だよな。
「今日からはこっちだ」
図書館の受付を完全に無視してホリプスがすたすたと進む。
受付の職員はホリプスの行動を止めるどころか頭を下げてそのまま通過させた。
多分、事前に話が通っているのだろう。
「えっと、俺達もこのまま行ってもいいのかな?」
そんな感じで受付に声をかけてみた。
受付は何も言わず黙って頷いた。
通ってよし、ってことだろう。
「それじゃ失礼して……」
ホリプスたちに続いてさわれないピリカの手を引いてそのままいつもとは逆方向の扉をくぐる。
そこは予想鵜通り図書館職員たちの執務室だった。
その部屋も無言で通り抜けて、さらに奥にある長い廊下を進む。
突き当りの扉の向こう側は、ソファーと机が置いてあるだけの質素な部屋があるだけ。
部屋には窓ひとつなく、俺達が入ってきた扉の向かい側にさらにもう一つ扉があるだけだった。
向かいの扉の前に図書館の職員とはまた違った上品な服を着た男が一人、俺たちの到着を待っていた。
「さて、この扉の向こう側が禁書庫なわけだが……」
禁書庫というからには地下の隠し扉の中とか、最上階の開かずの間とかそんなのを想像したけど、普通に一階の奥の部屋にあったのか。
「この中に入るにはいくつか守ってもらわないといけないルールがある」
まぁ、そうだろうな……。
きっとセキュリティ面の話だろう。
なんとなく内容は察しが付くけどさ。
「一つ、この先に入ることができるのは僕とハルト君、執事のセントの三名だけだ。君の精霊はここで留守番だ」
「!! おいっ! それは…… 」
「そう突っかからないでくれたまえよ。そういう決まりなのだから…… 数百年前に契約精霊同伴で禁書庫に入って、精霊に書物を盗み出させようとしたバカな精霊術師がいたらしいんだよ。それ以来、精霊術師はここで精霊を顕現させて待機させる決まりになったのさ。もちろん僕だって例外じゃない」
ホリプスが片手を上げて合図を送ると、隣に以前見た水の精霊が姿を現した。
なるほど、姿を消していただけでずっと隣にいたのか。
なんか、やたらとこっちを見ている気がする。
多分、精霊にとってきれいに見えるらしい俺の魂のせいなんだろうけど、ちょっとやめてくれていいかな?
さっきからなんかピリカさんの視線が痛いような気がするから……。
「お前はそこで待機だ…… 僕が戻ってくるまで余計なことは一切するなよ」
ホリプスの言葉を受けてか水の精霊はしずしずと部屋の隅に移動してじっと動かなくなった。
気のせいだと思うが、その表情がなんとなく物悲しく見えた。
「あと、この先には手荷物の持ち込みは禁止だ。武器・魔道具はもちろん身に着けているものは全てこのテーブルに置いて行ってくれたまえ」
「徹底してるな」
「許可されているのは閲覧のみだからね。持ち出しはもちろん書き写すのも禁止だぞ。そして君が入室を許されるのは、僕とセントが同伴の場合に限る。僕らは君が不正を働かないか監視する役目も担っていると理解してくれたまえ」
なるほど、そのための丸腰入室か。
俺は武器、リュック、スクロールの収められたポーチ、身に着けている物をすべて机の上に置いた。
そのあと、待機していた身なりのいい服の男が俺の体を足から順番にまさぐっていく。
どうやらボディーチェックまでやるようだ。
程なくして男がうなずいて一歩下がった。
ボディーチェック完了ということだろう。
「最後に…… 今の君にはあまり関係ないだろうけど、禁書庫では魔法、【固有特性】の使用は一切禁止だ。もっとも禁書庫の部屋自体が特別な魔術結界を形成する魔道具になっているから、中で呪文を詠唱しても【固有特性】を使おうとしても一切、発動しないけどね」
「了解した。じゃ、ピリカ…… 悪いけどここで俺の荷物を見張っていてくれ。さすがに盗んでいこうとする奴はいないだろうけどな」
あ~、予想通りとてもご不満のようで、ぷくーと頬を膨らませてピリカがちょこんとソファに腰かけた。
絶対に言葉を口にしないのはここにいる俺以外の人間がよっぽど気に入らなくて信用していないからだろう。
これは…… 禁書庫に通い詰めるしばらくの間はずっとご機嫌斜めだな。
何か埋め合わせを考えておいた方がよさそうだ。
これでようやく禁書庫に入れるのか…… と、思ったところでとても気になることがあった。
さすがにこれは突っ込まざるを得ない。
「おい、手荷物は持ち込み禁止じゃないのか? セントさんだっけ? この人が持ってるこれはなんだ?」
今、まさに禁書庫に入ろうとしているこの瞬間に、ホリプスの執事っぽい人が手にバスケットのような手荷物を下げているのが目に入った。
「ああ、それは構わないんだよ。きちんと申請してあるものだし、事前に中身のチェックも受けてあるからね」
セントさんがバスケットのふたを開けて俺に中身を見せてくれた。
「なんだこれ…… ティーセット?」
「あのさ、僕らは君のために一緒に中に入るわけだけど、僕は禁書庫に興味が無いわけ。君が怪しい行動を取らない限りは、僕らは暇を持て余すんだ。時間を無駄にしないためにもせめて優雅なティータイムくらいは過ごしたいだろ?」
「中で紅茶こぼしでもしたらえらいことになるんじゃないのか?」
「こぼさなければどうということはないさ」
なんだ、その三倍速い機動兵器に乗っていそうなやつみたいなセリフは……。
「ここは僕が管理している図書館なんだ。このくらいの我儘は当然のように許されるさ」
「さいですか」
もう突っ込むのはよそう。
俺たちはそのまま、禁書庫の中に足を踏み入れる。
……。
……。
禁書庫に一歩足を踏み入れた瞬間、強烈な違和感が全身を走った。
この違和感には覚えがある。
シュルクと戦った際にピリカの【MPタンク】を切り離した時だ。
この書庫の中では魔法や【固有特性】が一切無効になるんだったな。
まさかピリカの【MPタンク】まで無効化してくるとはな。
これは部屋の向こうでピリカさんが怒り散らしているかもしれない……。
いや、それよりもだ。
ピリカとの繋がりが一切絶たれた状態はさすがに不安すぎる。
この部屋の中じゃ、俺は下手打ったらゴブリンやコボルトにだって秒殺されるぞ。
……ん?
これは……。
この状況下でも脳内PCは何の問題もなく機能している。
【固有特性】も使えなくなるはずでは……。
これはもう、推測ではなく確信だ。
俺の脳内PCはこの世界の摂理でもたらされた【固有特性】なんかではない。
ピリカの言う通り、俺の魂の中で一体化してしまっているのなら、これはもう俺の体の一部ということだ。
つまり俺の手足と同列の存在だから、禁書庫の結界の影響も受けないと考える方が自然だな。
俺の脳内PCのカテゴリは【固有特性】ではなくラライエ・地球どちらにも分類のない【異能】 ……というやつなんだろう。
俺は両世界でただ一人の異能力者になってしまっていたのかもしれない。
だからなんだという話ではあるが……。
投稿再開して2回目の投稿です。
この感覚だと投稿ペースとしては週1~2話程度の
投稿になりそうな感じですね。
できるだけ投稿頻度は維持したいところです。
そこではげみになるのはやっぱり、
ブックマーク・評価・いいねです。
是非是非よろしくお願いいたします。
あと、AIを使って本作のPV動画を制作しています。
現在は9話以降のシーンを映像化中です。
出来れば近日中にアップします。
現在1~8話をダイジェストにした
#1の動画がアップ済です。
ストーリー導入部の空気感など、
小説とはまた違った形で表現しています。
興味のある方はよければどうぞ。
YouTube:
(URL)https://youtu.be/fHCG6FmCvN0




