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二百五十五話 こいつ、権力で押し通す気か……

 2月19日



 あれから10日、図書館通いをずっと続けている。

毎日ではないがホリプスも2~3日に一度ぐらいの頻度で姿を見せてくる。

もうすぐ【ラライエ創成記】を最後まで読み切ることが出来そうだ。


 しかしこの世界の歴史…… それを記した【ラライエ創成記】の内容には何とも解せないというか、腑に落ちない点がちょくちょく出てくる。

特に魔王が討伐されて以降の記述は何かが引っかかるんだよな。

この内容について【大筋で嘘ではない】とピリカが言っている以上、間違ってはいないのだろうが……。


 精霊が魔族の側に付いても尚、数に勝る人類がじりじりと押し込んできて、魔族と精霊は劣勢を強いられる。

 その戦いの中で炎と土の精霊王を(うしな)い、その敗北が決定的な局面となっている。

そしてその状況で、この戦いに介入してきたのは何と神だとある。

このラライエを創造した創成神フェシオス……。

この世界に実在したとされる唯一神だ。


 もちろん、人類の信仰の対象であったことは【ラライエ創成記】にも記されている。

その神が魔族と精霊の側について人類の敵として立ちはだかったわけだ。


 人類側の衝撃と動揺はいかばかりであったのか…… 想像もつかないな。


【神は人類の敵になりました!】なんてことを宗教指導者達が一斉に発表すれば今の地球でさえ、世界がひっくり返るような騒ぎになるだろう。


 そしてフェシオスは人類を排除するための行動を明確に起こしていることになっている。

この瞬間、普通に考えると人類に勝算は無くなったはず……。


 にもかかわらず降伏も停戦もせず、人類は抵抗を続け最終的にその神すらも討伐してしまった。


 何だろうな…… この妙な違和感……。


「この前からなんだかうかない顔つきだね? なにか読めない言葉でもあるのかい?」


 ホリプスがティーカップを片手にそんな声をかけてくる。


「いや、そういうのじゃなくてさ。これの内容自体がさ……。やっぱり、腑に落ちないような……。精霊も人類もその立ち回りというか、そういうのがちょっとな」


「前にも言った気がするけど、そんなのを気にしても仕方がないんじゃないかと僕は思うけどね。そんな何千年も前の出来事、実際に見聞きしたものなんて誰もいないんだし、確かめようもないことだろ?そんなことよりも、僕らは目の前の出来事にこそ気を回すべきじゃないのかい?」


 まぁ、こいつの言うことも分からなくはないのだけどな。

要するにホリプスは歴史とかそういったものに一切興味を持てない種類の人間なんだろうと思う。

日本にいたころの俺の周りにもそこそこの割合でこんな手合いはいたからな。


でも、地球でもそうだったが歴史問題ってのは根も闇も深いものになりがちだからな。

最低限のことは知っておかないとそういうのを気にする人間の相手をするときに、その辺の事情を察することすらできなくなってしまうリスクがある。

その結果、自分の知らないところで敵を作ってしまうことは出来ることなら避けたい。


「……ふむ、そんなに【ラライエ創成記】のことが気になるなら、禁書庫の蔵書を見て見るかい?」


 少し考えるようなしぐさを見せた後、ホリプスが唐突にそんなことを口走った。


「えっと…… 唐突になかなかのパワーワードが飛び出したみたいだけど、それはどういう意図なのか聞いても?」


「いやね、この図書館には通常の入館者には閲覧が許されていない蔵書が秘蔵されているんだよ。君が気になっていることの真相もそちらの書物ならわかるんじゃないかな」


「わかるんじゃないかなって…… あんたは真相どころか該当する資料や書物が存在するかすら知らないような口ぶりだな」


「ああ、実際知らないからね。禁書庫にどんなものが収められているのかは4分の1も知らないよ。興味ないからね。フィブレ伯爵家の責務の一つとして図書館の管理だけはやっているけどまぁ、それだけのことだから」


 これはやっている…… というか、正確には配下の家の者にやらせている。 ……が、正解くさいな。


「いいのか? そんな簡単に開示できない資料だからこその禁書庫なんじゃ……」


「そうなんだけどね。実際、この国の王族だって簡単には出入りできないことになっている。でも僕はほら、この図書館の管理者、フィブレ伯爵家の当主だし、勇者だし、しかも二つ名持ちだしね。そこはね……」


 こいつ、権力で押し通す気か……。


「心配しなくても大丈夫。僕としてもここで君に貸しを作っておきたいし、しっかりと正規の手続きで許可が出るようにするからさ。だから、さすがに今すぐというわけにはいかないけどね」


 いや、むしろ地味に心配になってきた。

ぶっちゃけそこまでの機密に触れるつもりは無いのだが……。

しかし、興味がないわけでもない。

ただ、ホリプスに貸しを作ったと思わせるほどのことをしてでも見る価値があるのか……。

好奇心半分、嫌な予感半分って感じだな。


「よし! それじゃ2週間後の同じ時間から禁書庫に入れるように手配するとしよう。楽しみにしておいてくれたまえ。はっはっは」


「え? いや、俺はまだ禁書庫に行くとは一言も……」


 俺が思案している間にホリプスは勝手にそう決めて、執事風の男とともに図書館を出て行ってしまった。

まぁ、決まってしまったものは仕方がない。

せっかくだし、この流れで禁書庫の中を見せてもあることにしようか。

そのあと、ようやく【ラライエ創成記】を読み終えた俺は図書館をあとにした。



  ……


    ……


「……てなことがあってさ。近いうちにその禁書庫に入れそうな感じだ」


「バカはバカなりにあの手この手で来るねぇ。権力でごり押せないとなったら今度はそう来たか……」


 テーブルの料理をつつきながら、ヴィノンが少しだけあきれた物言いで反応した。


「えっと、何かまた悪巧みをしてるかもってこと?」


 アルはこういった駆け引きめいたことは得意ではない。

分からないことは素直に問いかける。

会社では【何も調べず、考えずにわからないことを脊髄反射で他人に聞くんじゃない!】なんて言われたりしたが……。

ここは日本じゃないし、会社でもない。

この年頃ならまだ脊髄反射で聞いても全然許されると思う。


「ああ、悪だくみって程悪質なものじゃないと思うけどね。正規の手続きを踏むって言ってたみたいだし……」


「要するに、俺に大きな借りを作ったと思わせることで、友好的に奴のお願いを無下に断れなくなるよう、外堀を埋めにきてるんだと思うぞ」


俺がヴィノンの言葉を補足してやった。


「大方、【ハルトきゅんの精霊ちゃんを調べさせてくれ】とか【ハルトきゅんの死後、精霊ちゃんをフォブレ家の者に継承させてくれ】とか、そんなことをお願いする下地作りの一環なんだろうね」


「そうなんだ。で、どうするの?」


「今すぐどうこうということはなさそうだしな。今回のところは素直に好意に甘えることにするさ」


 そんな話をしながら食事を終え、俺とピリカは自室へと戻った。


  ……


    ……


「……で、ピリカさんや」


「ん? なぁに?」


「教えてほしいことがいくつかあるんだけどな。どれも、緊急性は高くないからのんびり一つずつだな。まずは……」


 俺がピリカに尋ねたのは【ピリカストレージ】及び【ポータル】の追跡は可能なのか? ……ということだ。


「それは出来るともいえるし、無理ともいえる感じだね」


「なんかピリカにしては勿体つけた言い回しだな」


「そうだね。ピリカたち精霊なら特定の条件下ならできると思うけど、人類にはちょっと無理だと思うんだ」


 なるほどな。

それは俺の感覚からすれば無理と同義だな。


「なら、敵の目前で【ポータル】を使ったとしても、敵には俺やピリカが【どこに逃げたか】まではわからないし、魔法の残滓を追って追跡することも無理ということか」


「そうだね。敵が精霊でなければ ……だけどね」


「敵が精霊だと追跡されるのか?」


「さすがにすぐには無理だよ。術式発動の瞬間、その場にいたなら精霊には発動のプロセスが見えるからね。【どの方向に】【どのくらいの距離跳んだか】くらいはわかるはず」


「なるほど、その情報を元に自分の足で追いかけることは出来るというわけか」


「だね」


 まぁ、速攻で追いついてこないのなら大丈夫だろう。

例えばここから【ポータル】で【緑の泥】の自宅に跳んだとしても、追いかけるには海を越えて半年近くかかる。

しかも、魔境越えまで必要だ。

そこまでやる奴はまぁ ……いないだろう。


 いまは【ピリカストレージ】、【ポータル】の追跡はほぼ無理。

それだけ分かれば大丈夫そうかな。



 ちょっと、更新できない状態が続いて放置状態になっていました。

ようやく、少し投稿を再開できる環境になったので、やれる範囲で更新を再開します。


これを機に…… というのもなんですが、本作のトレイラー動画を生成AIで作成して

YouTubeに投稿してみました。

8話までの内容を約14分に端折っています。

超駆け足なので、それに合わせた改変なんかのしていますが……。

はじめて生成AIを使ってみたので何もわからず拙くはありますが

【ああ、こんなお話だったな】って思い返してもらえたらうれしいです。


YouTubeで【世界が滅亡しても引きこもりたいと思っていました】で

検索してくださいね。


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