04.意思の歯車
「皆さん俺の脇から走って逃げてください!!」
「グァアア!!!」
怒号、威嚇、怒り、悲しみ、嘆く叫び全てが合わさるかのような声。この3mはあろう巨大なゴブリンは、醜顔に眉間を寄せていた。
そんな巨大なゴブリンに飛びながら一太刀浴びせるも強固な爪によって弾き返される。
流石にそれは予想できず、後方へタタラをを踏みながら繰り出される爪の斬撃を躱すが、巨大なゴブリンは飛ぶようにして距離を詰めて来た。
「グァアアアア!!!」
確か、あのしおりの一番最後に書いてあったな。3m程の筋肉質な体躯で、腰毛皮を巻き、爪が異常に硬い魔物。
ゴブリンの変異種<フュージゴブリン>
名前はそのままだろう、でかいゴブリンだ。
班の皆んなと一緒に戦ってもいいのだが、正直でかい一匹となれば邪魔だ。そんな余裕はない状況だから尚更逃げてもらうことが先決。
ただ、大人しく下がってもらえるのかと聞かれれば、それは多分もらえない。
「っはぁ!」
だけど、ここを走ってもらわないと困る。
アリージメントサーチを見る限り、数を揃えてこちらに向かっていることが見受けられている。この人数では絶対勝てないと判断できる数、撤退が賢い話だ。
「皆さん! 僕の脇を走り抜けて下さい! 皆さんが通ったら僕も追いますから!!」
ここからあと800mはあるが、今から走ってもらう方向に生命反応はない。
だからこのルートを走ったんだ。安全のために。
「ヴァガァアアアア!!!」
耳を劈くような叫聲。空気が震えて、共鳴した地面にヒビが入る。
そんな声からは少し遠い所にいることが幸いだ。
「___走って下さい!」
「___嶋崎さんは!」
「___だから! 後から追うんで早く行って下さい!」
聞こえにくいが聞こえただろう。
叫びは耳に残り、耳鳴りが顔を顰めさせる。
声は次第に小さくなり、代わりに獰猛な吐息と殺気が俺たちを襲った。
その時に気づいた事があった。フュージゴブリンの筋肉が大きくなっていたこと。
<筋肉肥大化>
このスキルを使った気がする。
エレンは魔物も<スキル>を使うと言っていたから、多分その確率は高い。
肥大化し、より巨大になったその姿に、周りはただならなぬ事が起きることを感じていた。だが、誰一人として引かなかった。
ちょっと、今のままじゃ庇いきれないって。
「はやく! 俺以外戦力外なんだよ! 邪魔だから早く行け!!」
「そんなの無理ですよ!」
「そうだ! なんで嶋崎さんだけが残るんだよ、俺も残る!」
「あ、あの嶋崎さん! 僕も残るんで。斧ですけど」
そうじゃない、そうじゃないんだ!
「だから邪魔なんだよ! 早く行けって!!」
右に左に何度も斬りつけるが、相手もこの速度に着いてきて___否、遥かに威力と速度を高めて弾き返す。ならばと突きを繰り出すが、気づけば近づいていた足に、自然と右に大きく飛んでいた。
あー、面倒だ。
「っくそ」
どうしても悪態は吐きたいものだ、指示に従わないなんて。
「行ってください! お願いします!!」
だけど、やはり動く姿は見られなかった。それよりも、各々武器を取り出し構え出していた。
「あー、もー!!」
……分かったよ、早く倒せばいいんだろ。
悠夜は、少し重心を前にして姿勢を少し低く保った。剣を両手で握り、神経を一瞬静止させる。
そして、微電流を一斉に放電。
正直、使いたく無い。
けど、やるしか無い。見られたく無いが、逃げてもらうという賭けに負けたのは俺なんだ。
もう出し惜しみしてられない。
怖がってられない。
やるべき事は、早急に今を切り抜ける事!
髪が少し逆立ち、身体がかなり痺れる。筋肉が痛い。
それでも、動けなくはない。
活性化した筋肉を使い、突出した勢いのまま飛び上がり剣で縦に切り裂いた。
頭蓋骨は貫通し、脳や肉を割く。
多量の血は噴き出したかのように飛び散り、頭上に降り注いだ。
頭を真っ二つに切り裂かれ力なく倒れる巨大なゴブリンの姿は、何処か呆気なく取れるものでもあった。
「終わりました。早く行きましょ」
お読みいただきありがとうございました。




