03.巨大な鬼
悠夜は一つ作戦を考えていた。その作戦というのは、悠夜一人で無双する作戦ではなく、全員で戦い勝つ作戦だ。
ただ、その作戦の勝率は5分5分。素でいけば悠夜達の負けが殆ど決まりである。では悠夜はなんでそんな作戦を話しているのかというと、やはりそれが妥当な決断であるから。
「じゃあ行きますよ。相手は四匹、忘れないで下さい」
アリージメントサーチは常に発動。悠夜はかなりの気を配っていた。死者を出させないために。
「「「「はい」」」」
その返事が戦いの始まりになった。
優しく頬を撫でる風。一風は長くしつこく纏わりつく。木々も靡きカサカサとした音は鮮明に聞こえた。だがそれは、放たれ続く矢の間隔が早くなる頃には聞こえなくなっていた。
「ハァアアア!!」
「狭山さん右!」
矢を引きながら後ずさる弓士のゴブリン。その顔に焦燥の影は見えず、どちらかと言えば嘲笑うかのような面持ちだ。
多分、俺たちが草むらにいるやつらに気づいていることに気付いていない。
誘き寄せて、草叢の間を通った時に殺そうとでもしているのだろう。
それならそれを利用するまでの話で___
横薙ぎに剣で一閃。
軽く何かに当たるような押し返される感覚。
だがそれは一瞬で、スッと切先が入れば首が飛び、その後には血飛沫が散った。
一閃したゴブリンの首は宙を舞う。その舞う顔は何処か驚いたような顔だった……気もする,
あともう一匹……。
脚を前へ突き出し、姿勢を低く保って心臓部を刺す。
すると、グチャッと湿った音と返り血が俺を襲った。
「ふぅ」
そうして剣を引き抜くと、ゴブリンの血はドボドボと夥しい量で地面を侵食していった。
「狭山さん、行けましたか」
「はぁはぁ、はい倒せました。怪我もありません」
「分かりました。山田さん!」
「は、はい!」
じゃあ少し落ち着いたところで、今回の作戦のおさらいをしておくか。
血振りをした後、鞘に刃を納め山田さんの方に目を向ける。
人に指示する事が久々だった今回の作戦。
そんな久しぶりの作戦は至極簡単な作戦だ。
リーチの長い1人と盾持ち、共に俺が突っ切って、草叢のゴブリンを一掃し、後ろで待機する人と盾持ちとで空いた道を走って弓士を片付けるというもの。
それも無事に完遂出来たようだ。
「お、終わりました!」
「お疲れ様です!」
サイスからポタポタと垂れる血は、確かに刈り取ったものだった。
まぁ、なにより、首がそこに転がってる訳で……。
ほんと初めてながら、お疲れさまです。
「皆さんお疲れ様です。まさかこんなにスムーズに進むとは思いませんでしたが、よかったです。後は速やかに森から出ましょう。僕が河田さんを担ぐんで、皆さんこのまま付いてきてください」
そういって悠夜は、影宮から貰った盾を片手に河田を軽々担いだ。
「行きますよ!」
もう少しは掛かると見込んでいたのだが、まさかこんなに早く終わるとは。簡単だったからこそ直ぐに終わったのだろうか。皆さんも、殺すことに躊躇なかったし、もしかしたらただのアドレナリンなのかもしれないがそれのおかげかもしれない。
でも、説明的に魔物ってメチャクチャに強いっぽかったんだが、なんか正直拍子抜けだ。
いや、相手の意表を突いたからだったのかもしれないな……。
でも、やはり。と、アリージメントサーチで見る、この森の図に歯噛みする。
何があったか。それは簡単な事で、一定の場所に生き物が沢山集まっている事だ。
集まるには、同じ生き物じゃないといけない。
だから特定の生き物は一種族で、一種族が集まっているとなるとそこに文明が存在している。つまりはそこで「生活」をしている訳だ。
それを踏まえて、河田さんが言っていた事。この森には集落がある事がわかる。
それに___
「皆さん、木か草叢に隠れて下さい!」
「何でですかか」
「デカイのが来るんです!」
それは、言葉にした後で皆んなも気づいた。
思わず皆んな脚を止めた中、再度声を掛ける。
「隠れて!!」
その声に各々近くの草叢、木の陰に身を潜ませる。
遠目だが近づいてくる緑色の巨体。重たい地響きは、俺たちに近づくたびに大きくなる。
なんとか隠れられたかな。
アリージメントサーチで全員の位置を確認すると、ちゃんと隠れて居たのでホッとする。
後は、やり過ごすだけ。
息を殺し、極限まで身を屈める。
悠夜以外の冒険者も、あまりにもの恐ろしさに身体を震わせるが、声を上げるのを堪えて息を殺していた。
そうしてついには間近に迫る。獰猛な吐息、荒い声。何かを探すようにして顔を右に左に向けるゴブリン。
「グアグアグア」
何をしているのか……傍からみれば顔を突き出して鼻をピクピクさせている滑稽な姿だ。
だが、目前にすればその発想は逆転し、見つかるのでは無いかという恐怖心が強まるばかり。
でも、堪えろ。
「グァアアアア!!!」
だが、そんな思いと裏腹に大きなゴブリンは、豪腕を振るった。
バキバキバキと木々の皮は剥かれ身が露出する。さっきまで頼りにしていた木はほぼ薙がれた。
木の幹は頭に降り注ぎ、草叢に軽く音を立てながら落ちる。
……これは、隠れきれないか。
くそっ。
「はぁ!」
短剣を二本取り出し、目に向けて投げ込む。
何とかしないとやばいぞ。
この戦闘以外、逃げられる気がしないのが本当にシビアだ。
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