宿敵 4
「ふはっ――」
顕象されたモノを見て、俺は驚きを隠せずにいた。何故か? その刀はあまりにも綺麗だったから。
「すごいな、それがお前の求段か……」
神器、いいや。これは妖刀と言ったほうが正しいのかもしれない。
ゆらゆらと漂う凍えた冷気。その一振りで白哉を守護する兵隊たちは跡形もなく消滅する。
「ああ。顕象条件が厳しくてな、一人では扱うことすらままならない屑物だよ」
そう言って凛子は刀を構えなおす。
「白哉とやら、……どうだ? 私の渇望を聞きいてみる気はないか?」
優しく語りかけるように、凛子は間合いを詰めていく。この一振りで戦いを終わらせるために――
「いいや、別に……興味ないよ」
言って白哉の率いる軍団は、更なる猛威を振るいにかかる。
「そうか……それは残念だ――ならば逝ねッ!」
瞬間、その切っ先は白哉の心臓を正確に射貫いていた。
「――ッ!?」
そこで始めて奴の顔が歪む。
まるで想像の範囲外の攻撃を受けたかのような。
「自分を思ってくれる人が多ければ多いほど、この求段は強くなる。友逹と家族と恋人と――そんな人たちと過ごす時間こそが至高。ゆえに、私はそんな時間が永遠に続けばいいと思った」
更に追い打ちをかける凛子の求段。
「だから私は、時を止める。貴方が望むそのときまで――」
その渇望は冷たい。だけれど溶けることは決してない。
熱くて涼やかな、凛子にしか紡げぬ一途な渇望。
「お前は私の型には嵌まらない人種だ。ゆえに、今一度矯正してやろう……骨の髄まで染み込ませろよ!」
「――ッ! 舐めるな!」
再び雪崩のように押し寄せるゾンビの大群。
だがしかし――
「今のお前じゃ絶対に私たちを止められん。……人の温もりが分からん奴に、この私が倒されるわけがないだろうッ!」
圧倒的に相性が悪かった。
凛子の求段とは、言わば時間停止とそう変わらない渇望。
あのときの時間は楽しかった、最高に嬉しかった。そしてその場所には――私の大好きな人たちがいる。
ゆえに、時は凍る。あの時間は永遠に私のモノ、いいや私たちの物。だから、私の認めないこんなクソみたいな時なんて――死ぬまで凍り続けばいい。
その刹那、私が消し飛ばしてあげるから――
「ふっ、なるほど。嫌というほど君の渇望が流れ込んでくる。人と過ごした時間こそが至高……か。僕にはもう、理解することのできない感情だよ」
曰く孤独を望む者。それが興梠白哉という人間であり。
曰く連帯を望む者。それは夜終凛子という人間の想い。
これらの渇望がぶつかり合った結果。
勝負の分かれ目となったのは――
「……もういい。君たちとは殺るだけ無駄だ」
先に心が折れたほう。いいや、ほんの少しだけでも相手の渇望に憧れを持ったほう。この無意味と言っても過言ではない戦いの終止符を打ったのは白哉からだった。
「悪かったね、聖。僕はもうこの学校に用はないし、ここを去る。またどこかで会うかも知れないけど……その時は――」
「ああ。言わなくても分かってるよ」
「……そっか。じゃあね、聖。それと凛子さん。そこの後輩ちゃんのことはよく分からないけど、次会う時を楽しみにしているね」
くるっと身を翻し廊下を歩いていく白哉。その後ろ姿からは、敵意や殺意は感じられずただただ歩いているだけ。
奴のレギオンたちは姿を消し、再び廊下には静寂が訪れた。
「……まったくなんだアイツは……この私でも一瞬心が腐りかけそうになったぞ」
冷気を纏わせていた刀は、徐々に力を収めていく。そして鞘に収まるころには、どこにでもある普通の日本刀と変わらない色をしていた。
そして俺は重大なことに気付く。白哉と凛子の戦いを見て、俺は――圧倒的力不足。
足手まとい。そう言ったほうがしっくりくる。
「このセカイに生き残った奴らって皆、あの不思議な力。スキルを使えるのか……?」
だとしたらマズイ。なんとしてでもスキル。
もとい――求段を習得しなければならない。
「なあ凛子、……アレを習得するには、ただ単純にレベルを上げるだけじゃあダメなのか?」
もしかしたら俺は、このセカイに置ける基本中の基本すらもできていないんじゃないか? ただひたすらにレベルを上げるだけじゃ叶わない。己の渇望へと到達するためには――
「セージ。正直に言わせてもらおう」
途端、発せられる空気が変わった。
「お前はこのセカイで生きるための"絶望"が足りない」
「絶望……」
「初めての異変が訪れた直後、お前はどう思った? ……いいや、何を思ったんだ?」
そんなの、言うまでもない。
「ただ純粋に嬉しいと思った。あのくそったれたセカイを変えてくれた盟友に、感謝の気持ちしかない」
「……そうか」
ふっとため息をついた直後、
「今のままじゃ絶対に求段へと到達することは不可能だ」
俺は無慈悲にも現実を突き付けられた。
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