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葉隠紅葉という存在

何故、俺は生まれつき他人の何百倍もの身体能力を有していたのか。

何故、魔力という概念の無い世界から来た俺が、人並み外れた魔力を持っているのか。

もしかすると、俺こと葉隠紅葉はもともとこちらの世界の住人なのかもしれない。

そして、葉隠紅葉という異世界に転生した存在は、そもそも人間ではないのかもしれない。

そんなことを最近思い始めている。

でもそうなると、俺の両親はどうなるのか? 妹もそうだ。

俺が異世界人ということになれば、あの人たちと俺との関係性はどうなるのだろう。

俺は養子だったのか?

いや違う、俺の金髪は母さん譲りだし、幼少の頃に施設でDNA型を調べて親子であることは間違いない。

でもなんでだ、俺が異世界人であるとするならばDNA型は一致するはず無いのに…。

そういえば、俺が物心つく前の子供の頃。1〜4歳くらいの頃、母さんと父さんはどうやって俺を育てたんだ?

子供は全員漏れ無くわがままでやんちゃなはずだ。当然俺もだだをこねたり暴れまわっていたはずだ。

いくら子供だったとはいえ、すでに常人の腕力では無かったはず。

脚力だって、ハイハイで20キロぐらいは出せていたかもしれない。

そんなスーパーベイビーをまともに育てることができるのか?

いやいやどう考えても無理だろ。

だとするならば、ひょっとして父さんと母さんはもともと異世界人だったのか?

そう考えれば全ての説明がつくんだよな。

俺に魔力が備わっていたことも、俺を育てることができたこともすべて…。


だったら、やっぱり俺は…


「もう起きる時間だよお寝坊さん」


聞き覚えのある女性の声が聞こえた気がした。

この世界に来る前、毎朝俺を起こしに来た母さんの声だ。

俺はその声で反射的に起き上がりあたりを見渡した。

起き上がったそこは簡易的なつくりをしたベットの上だった。

ベットは地面の上に直接置かれている。

当然、母親の姿などあるはずも無い。

そう、母さんの声が聞こえた気がした…そんな気がしただけなのだ。


「ハアハアハア痛ッ!!」


全身が張り裂けてしまうような激痛が走る。

その痛みで、若干混乱していた俺の記憶が蘇る。


俺はあの悪魔に、魔王アマイモンに負けたんだ。


「やあやあ、やっと起きたかい寝坊助」


先ほどとは違いこれは気のせいではない。

母親の声とは違う、幼い声が聞こえた。

それはワカバの声である。


「ハアハア…ここは?」


「ああ、ここは町外れに設置された簡易的な診療所だ。倒れているお前を私がここまで運んできてやったんだぞまったく。私もかなり疲れていたというのにお前は」


『ぼみじざーん!!』


ワカバの話を遮るかのように、涙やら鼻水やらでグチャグチャの小妖精が俺の胸に飛びついてきた。

チル、こいつがいるって事はハルカも来てるのか。


「よがったのでずよーいぎででほんどうによがったのでずよージュルジュルビー!!」


ああ、もうほとんど何言ってるかわかんねえ。

てか人の包帯で鼻水を擤むな!!


「えーゴホンッ…まあなんにせよ、しばらくは安静にして動かないほうがいい。医者曰くお前の全身の骨はメチャメチャで生きていることも不思議らしいからなあ」


メチャメチャか、本当によく生きてるもんだよ。

あれ? そういえば…


「ワカバー、ハルカたちはまだ帰ってきてないのかー? チルがいるって事はあいつも来てるんだろ?」


外に出ようとしていたワカバにそう問いかけた。


と同時にワカバからにじみ出る負のオーラ。


「…ああ、ハルカ殿たちならまだ悪魔と交戦中だ」


「まだ戦ってんのか…あれ? お前は行かなくていいのかよ?」


「………ああ、まあそうだな。私が行っても足手まといになるだけだからな。ここでおとなしくお前の看病をしているよ」


あからさまな作り笑顔でそう言って、ワカバは外に出て行った。

あーあ…もしかして聞いちゃいけない事聞いちゃったかな?


「アイツ…いつもより元気ねえな」


「そうですか? チルにはいつも通りに見えますけど」


「うーん…なんか落ち込んでるみたいな?」


「もともとワカバさんはおとなしい方なのであれは普通ですよ。きっと疲れているのですよ。モミジさんみたいに常時頭の中お花畑ではないですからね」


「まあ、なら別にい…ておい!!」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


西の国元王宮:王の間


一人の男、否、一体の悪魔がそこにいた。

その男の名はサタン。

悪魔軍最強に位置付けられる魔王である。

目をつむり、一切体を動かさずに集中していた。


「ああそうか…よくやってくれた。アマイモンを連れて撤退してくれ」


サタンは誰に命令するわけでもなく、ボソボソと独り言のようにそう言った。


「ああ、リリムの事は帰ってからじっくり話そう」


サタンはゆっくりと目を開け、大きくフーッと息を吐いた。


「誰からの連絡ですかサタン様」


サタンに声をかけたのは、メガネをかけたスーツ姿の悪魔アスタロト。


「ん? アスタロトか。東の国に遠征に出ていたサリエルたちからだ。なんとかデータは取れたが、いろいろと邪魔が入ったらしい」

「邪魔…というと、勇者どもですか? だとしたら相当の手練れが出向いたのでしょうな。アマイモン様はもちろん、サリエルとウィネも相当やりますからね」

「うむ、いよいよ『三賢者』どもが動き出したようだ。それと、噂の『異世界人』に、なぜか『リリム』の邪魔も入ったらしい」

「リリムお嬢様ですか? クスッ最近お姿が見られないと思ったら勇者どもと居ましたか」

「まったく、我が娘ながら何をしたいのか理解できん。本当に手を焼かされる。ん? そう言えばアスタロトよ、お前は以前異世界人と会ったそうだな」

「ええ、まあ会ったと言っても遠目で見ただけですが」

「どうだった異世界人は。予言に出てくるほどなのだから相当に強いのだろう?」


アスタロトはそう問いかけられると、少しの間黙り込んだ。


「“あの時点”では、我々の脅威に成り得る存在だとはとても思えませんでした」

「あの時点というと、今は違うのか?」

「わかりません。わかりませんが…私の感覚が正しければ奴の潜在能力はサタン様にも届き得るかもしれません」

「私に届き得る潜在能力とな」

「今の奴はダイヤモンド原石のような物です。磨かなければただの石ころ同然。ですが、奴は我々魔族との戦いで研磨され、いずれ完全な状態になる。そうなった時に、果たして我々のチカラが及ぶものなのか…保証は出来ません」

「ふん、まあなんにせよ…実に楽しみだ」












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