アマイモン
静かに、だが着実に、決着の時は近づいていた。
ハルカ、ジルマ、クロトラの攻撃はアマイモンに休む暇を与えず、確実にダメージを蓄積させ体力を奪っていった。
「ぐぬ、ちょこまかと!!」
ハルカは素早く二人に指示を飛ばす。
「次!! ジルマは右斜め上からの剣撃!! タイミングを合わせて僕は能力を使い奴の動きを鈍らせるから、ガードのできていない逆側の足にクロトラは攻撃してくれ!!」
「「了解」」
《神の翼》
ジルマは能力により両腕を翼に変体、高速でアマイモンの間合いに入る。
「右側のカバーが甘いぜ悪魔さん!!」
スピードそのままに、アマイモンの右側頭部を蹴りあげようとした。
蹴りがアマイモンに当たると同時に轟音と衝撃が周囲に広がる。
「確かに速いが反応できないほどじゃ無いな」
「何ッ!?」
ジルマの蹴りはアマイモンの右手に防がれ、勢いを無くしたジルマの体はその場にコンマ数秒の間静止する。
その瞬間、ジルマの蹴り出した足を鷲掴みにした。
「おいおいマジかよ。どんな反射神経してんだよコイツ。俺の移動速度は音速以上だぞ」
「フンッ!!」
「ガッハァッッ!!」
アマイモンはジルマを持ち上げ、そのまま地面に叩きつけた。そしてそのままトドメを刺すモーションをとることアマイモン。
それを見てハルカは素早く指示を出す。
「ヤバい!!クロトラ、カバーを!!」
「了解!!」
アマイモンは無造作に拳を振りかざし、ジルマの顔面にその拳をぶつけんとする。それをクロトラが横から割って入り両手で防ぐ。アマイモンの攻撃を防いだクロトラはグッと体を押し込まれ、衝撃で地面が凹む。腕はミシミシを悲鳴をあげる。
「ぬう〜なんちゅう威力!!」
「ハハッ潰れろよ勇者!!」
「潰れんのはお前だよクソ野郎!!」
倒れていたジルマはアマイモンの意識が自分から離れた一瞬の隙を突き、アマイモンの死角から胴体を蹴りつける。アマイモンは数メートルほど離れた場所まで蹴り飛ばされる。ジルマ・クロトラとアマイモンの距離ができたそのタイミングで、ハルカは能力を発動する。
《二十倍・重力の束縛 》
自重250キロ×20倍、重さに換算すれば実に5000キロもの重力がアマイモンの体に重くのしかかり自由を奪った。この重力にはさすがのアマイモンの動きも大きく鈍る。
「グッ…この程度………」
「いんや、もうこれでチェックメイトや」
動きを鈍らせたアマイモンに対して、クロトラは必殺の拳を喰らわせようと、構える。
《破壊》
クロトラの一撃は完璧にアマイモンの腹部を捉え、メシャッと何かがつぶれるような音が響く。
それはおそらくアマイモンの臓器がクロトラの《破壊》により破壊された音だろう。
アマイモンは口元から大量の血を吐きその場に膝をつき、そしてゆっくりとうつ伏せに倒れた。
…………………………………フゥー。
数秒間の沈黙の後に、ハルカとジルマは大きく息を吐き全身のチカラを抜いた。
「目標の沈黙を確認、この者を中央国に連行します」
「あークッソ身体中痛えよマジで。手負いでコレとかマジでバケモンだわ」
「ジルマは、早いうちに医療機関で体を見てもらったほうがいい。骨が折れている可能性もある」
「それよりもまず、あのバケモンを運ぶのが先決だろ」
「ああ、そうだね。僕は仲間の様子を見てくるからジルマとクロトラは奴を中央国まで運んでくれるかな?」
「ああわかったよ。ほら行くぞクロトラ」
「……………………………」
「クロトラ?」
「………ん、ああ、そうだな………」
この時、クロトラは違和感を感じていた。
(確かに俺の一撃は奴にクリティカルヒットした筈だが………妙だな)
幾度となく、数え切れないほどの敵を己の能力で屠ってきたクロトラ。
今回もまた、その必殺の一撃で急所を捉えたはずなのだが、クロトラの拳に残るその感触は今までに経験のない感覚だった。
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内臓をメチャクチャにされたアマイモンは、内心苦笑いしていた。
(フハハッマジかよ!! 手も足も出ないじゃねえか。サタンの野郎、良い“リハビリ”に成るとか言ってたが…リハビリにしちゃ厳しすぎるぜ。破壊された臓器を“複製”して一命は取りとめたが、俺の能力が“治癒系”じゃなけりゃ死んでたぞ)
三人と向き合った時点で、この勝負に勝てないことは分かっていた。
先のリリム・モミジとの死闘による疲労とダメージは当然のことながら相手が人類最強、しかも3人だ。
さすがのアマイモンでも勝機は薄いだろう。
だが、そんな絶望的状況でありながら、アマイモンの心中はとても落ち着いていた。
(まさに絶体絶命だが、まあ…“あの時”ほどじゃねえか)
アマイモンが思った“あの時”、それは遠い昔の出来事、まだソロモン72師団の第2師団の団長に籍を入れて間もない100年以上前まで遡る。
当時、自分が“最強”なのだという事に絶対の自信を持っていたアマイモンは自分が組織のトップでない事に不満を感じていた。
もともと人に指図されたり集団の中で他人に合わせるのが苦手なアマイモン。
ソロモン総師団長サタンには怒りを通り越し殺意すら湧いていた。
“なぜ最強の俺があんなのの下についていなければならない”
そんなことを思っていたアマイモンはある日、自身の団員を皆殺しにしソロモン72師団を裏切りサタンに挑戦を申し込んだ。
「俺の上に居座んじゃねえ。俺がトップで俺が絶対だ」と。
そしてしばらくしてから、二人は相見える。
ソロモン72師団のNo.1サタンVSNo.2アマイモン、お互いに殺気をあらわにし鬼神の如き形相でチカラとチカラのぶつかり合いが始まった。
そしてお互いの拳が肌に触れ合った瞬間、アマイモンは気づく。
“自分は最強などではない”と“自分はただのお山の大将なのだ”と…
勝負は一撃で決着した。
自身を最強だと歌った哀れな男はサタンの一撃に沈み、それから100年もの間、冷たい地下の独房に身をやつし出て来ることはなかった。
アマイモンはサタンという男のチカラに畏怖した。
数字の上では、肩書きの上では1と2の違いである。
しかし、順番に並ぶ数字とは違う。
サタンという悪魔の異次元の強さには、並ぶことは決してできないのだとアマイモンは思った。
比べる事すら憚られるほどの絶対のチカラ、これこそが“最強”と呼ぶに相応しいだろう。
“あの時”の、サタンの一撃が自分に食らいついたあの瞬間が絶望だと言うのであれば、この程度の不利などアマイモンにとってはなんということではないのだ。
(“撤退の指示”はまだか…もう情報は取れ高十分な筈だが)




