その魔王は天災
大地の王アマイモン
その存在をあえて一言で例えるなら、『天災』という言葉が正しいだろう。
まるで天災そのものを無理やり人型に詰め込んだような…
他を圧倒する凄まじい存在感は天災そのものである。
「ほら…構えろサタンの娘、そして全神経を研ぎ澄ませ。俺の一撃を防ぎたいならな」
アマイモンが臨戦態勢をとると、突如としてリリムに悪寒が走る。
それは圧倒的実力差から生じた絶対的『死』への本能的な恐怖。
頭で戦うと決めても体が絶対的敗北への拒否反応を示す。
またその影響はリリムに対してだけに止まらず、周囲の生き物すべては死の危険を感じその場から離れる。
圧倒的リアルな死がその場に迫っているのだと、彼らの第六感がそう告げているのだ。
「いくぜサタンの娘、これが現役の魔王の一撃だ!!」
その速度はおそらく音速をも悠々と超えているだろう。
その衝撃で周囲の木々を薙ぎ倒しながら圧倒的速度でリリムに急接近する。
アマイモンは拳を無造作に振り上げリリムに向かって思いっきり振り下ろした。
リリムはその速度に最初驚いたが、なんとか反応し剣の柄でその一撃を防いだ。
しかしその衝撃でリリムの細い体はまるで綿飴のように軽々と吹き飛ばされる。
アマイモンのパンチの直撃を防げたはずだが、それでもリリムは激しい嘔吐感に襲われその場で咳き込んだ。
「ゴホ…ゴホッ…ソロモン72師団No.3アマイモン…これほどか」
アマイモンについて、リリムも侮っていたわけではなかった。
サタンの娘であるリリムにとってソロモン72師団とはどれだけの組織なのか、何百万もの悪魔のトップに立つ72人の悪魔がどれほど強大なチカラを持っているのかは、自分が一番わかっているつもりだった。
だがまさか、これほどとは………
「おいおいどうしたサタンの娘、そんなものなのかお前のチカラは? この程度では準備運動にもならないぞ!!」
リリムに攻撃を仕掛けるべく、アマイモンは先ほど同様凄まじい勢いで突進する。
その時リリムは、ゆっくりと目を閉じた。
自分に迫り来る強敵、普通ならば一瞬たりとも目を離してはいけない、まばたきすらもしてはいけないであろう。
ましてや目を瞑るなどもってのほかである。
「何をするかと思えば、この勝負を諦めたのか?」
まるでその行動をバカにするように笑うアマイモン。
しかし、これにはリリムなりのしっかりとした狙いがあった。
(パワー、スピード、戦闘スキル、今の私では奴の足元にも及ばない。アマイモンに対抗するには剣技で勝負するしかない。奴が間合いに入ったら抜刀術で胴を斬って怯んでる間に連撃につなげる)
リリムにとって幸いだったのはアマイモンの圧倒的存在感と殺気、それによって眼をとじいても距離感がはっきりわかること。
アマイモンがリリムを殴り飛ばそうと拳を振りかざしたその時である。
抜刀術により鋭く研ぎ澄まされたリリムの斬撃がアマイモンの胴を捉えた。
「…な、なんだと〜!?」
リリムの斬撃は深く深く肉を裂き、アマイモンは腹部からおびただしい鮮血を流し悲痛に顔を歪ませる。
今しかないと言わんばかりに、リリムは剣を振りかざしアマイモンを斬りつける。
数回斬撃をくらわせリリムが勝ちを意識し始めたその時である。
アマイモンは片手でリリムの剣を受け止めた。
「…っな!?………!!?」
「フハッ…ツーカマーエタ」
アマイモンは不敵に笑みを浮かべ、剣を受け止めた手と逆の手で思いっきりリリムの腹部をこれでもかと殴った。
山を砕き地殻変動を起こすその一撃は、リリムの想像を超える。
まるで体全ての血液が一瞬で流れ出し細胞レベルで全てが破壊されてしまうのではないかと思ってしまうほどの、果てしない破壊力をまとった一撃がクリティカルヒットした。
リリムの頭にはたくさんの記憶がよみがえり混濁した。
(ああ…これが走馬灯。まいったな…私ここで死んじゃうん…ダ)




