チート級の『怪物』リリム
紅葉は傷だらけになった体を無理やり起こし、ゆっくりと5秒ほどの時間をかけながら立ち上がった。
紅葉の後ろには倒れたウィネがいる。
ウィネはまだ死んでないが、かなりのダメージを負っているため立ち上がることはできない。
「ハア…ハア…もう立てねえのかウィネ? じゃあこの勝負俺の勝ちだな。俺の本気をモロに食らって生きてるなんてラッキーだったな」
紅葉はそう言うとその場を離れるためにボロボロの体を引きずりながら歩き出した。
それは離れた場所で戦うリリムに加勢するためである。
(戦い始めて一時間ってとこか…早く加勢してやらねえとな。リリムじゃあアレとのタイマンは荷が重いだろ)
「………ッグ…待て、まだ私は死んでない。行くなら止めを刺せ」
「あん?」
紅葉には、ウィネが何を言っているのかわからなかった。
紅葉は別にウィネが死なないように手加減をしたわけではない。
確実に勝ちを得るため全力の一撃をウィネにぶつけた。
ウィネが死なないでこうしてまだ生きているは偶然の産物であって、決して意図的ではない。
それは攻撃を受けた当人であるウィネも当然わかっているはずだ。
拾った命をなぜ大事にしないのか、紅葉にはわからなかった。
「………嫌だね、お前を殺して俺に何の得がある。俺は急いでるんだ、お前にこれ以上関わっていては時間と労力の無駄だ」
「恩を売ったつもりか貴様………」
「だから違うって…俺はもう行く、死にたきゃ勝手に死ね…じゃあな」
紅葉は動けないウィネを残し、戦場を後にした。
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戦い始めて一時間が経過した時点でサリエルは悟った。
魔王の娘リリム…自分ではこの化け物には勝てないと。
ならばこの後に来るであろう秘密兵器の勝機を少しでも高められるよう、『勝つための戦い方』ではなく『相手を負傷させる戦い方』に思考を切り替えた。
「悔しいな…彼奴に託すしかないなんて」
余計なことなど一切考えず、サリエルはリリムに向かって全力で突進した。
それは中・遠距離では部が悪いサリエルが少しでも優位に立てるよう近距離での戦闘に持ち込むためである。
「なりふり構ってられないみたいね、でも残念…私が接近を許すわけないでしょ」
リリムは剣を数回縦横に振り、サリエルに向かって斬撃を飛ばした。
「その速度で突進しては高速で近づく斬撃は避けれないでしょう?」
リリムの言う通り、サリエルは斬撃を避けることは出来ず、無数の斬撃を体におった。
しかし、サリエルは立ち止まることをせずさらに加速しリリムの懐までたどり着いた。
斬撃は確かに当たっているし肉も少なからず裂けている、それならなぜ倒れないのか…
それはいたって単純かつ大胆なサリエルの作戦があったゆえ、サリエルはリリムの攻撃を避けれなかったのではない、最初から食らうつもりで肉をえぐられる覚悟を決めて突進したのだ。
だからリリムの斬撃を受け肉が裂かれてもひるむことがなかったのである。
「この距離は…私の間合いです」
リリムが焦りを感じた時にはすでに全てが遅かった。
サリエルの蹴りがリリムの顔面を襲う。
リリムは口から血を流し、地面に叩きつけられた。
サリエルはリリムに対し息つく暇を与えず連撃を加える。
(私の体力も残り少ない、おそらくこの機を逃せばもうチャンスはこないだろう、ここで全てを出し切る。)
顔、胴体、足、腕、全身に本気の攻撃を打ち続ける。
その連撃は100をゆうに超え、その全てが常人なら一撃で絶命するであろう威力である。
「こ、れ、で…どうだー!!」
サリエルは最後のチカラを振り絞りリリムの腹部を蹴った。
リリムはその衝撃で後方に飛ばされた。
全てのチカラを出し切ったサリエルはその場に膝から崩れ落ちた。
そして、地面に横たわるリリムを見ながら思った。
(頼む立たないでくれ、これで立ち上がられたら私にはもう戦うチカラは残ってない)
常人相手ならサリエルの心配など必要ないだろう。
しかし相手は常人などではない、魔王の実子にして師団長クラスを圧倒する紛れも無いチート級の『怪物』なのである。
そして………
サリエルの淡い期待を踏みにじるかの様に、その怪物は体を震わせながらゆっくりと立ち上がる。
サリエルの攻撃によるダメージはその様子から間違いなく有ると見受けられるが…倒すまでには至らなかったようだ。
「フフッやってくれるじゃないサリエル、まさに捨て身の攻撃と言ったところかしらね。でも…どうやら勝ちを得るには至らなかったみたいね」
リリムはダメージが大きい腹部を抑えながら、サリエルにとどめの一撃を加えるため、一歩また一歩と距離をつめた。
その様子を、遠くの丘から見下ろす男が一人。
両手を鎖に繋がれたその男はただジッとリリムとサリエルの戦いを見ていた。
「あれが魔王サタンの娘か…なるほどな。あのレベルであるならば…俺も少しは楽しめそうだ」
そう言うと男はスッと立ち上がり、リリムのいる森へと向かった。




