力不足
「みなさん、遠いところようこそお越しくださいました。ワシはこの町の当主を任せられています、ラニーニャ・ミーニャと申します」
深々と礼をして自己紹介を済ませた女の頭には猫の耳のようなものがあった。
「おいワカバ、あの人頭には猫耳付けてるぞ。そういう趣味なのかな? コスプレイヤーなのかな?」
ワカバの耳元でボソボソとそう言う紅葉。
「コスプレじゃない、彼女は『ケットシー』なんだよ。人間じゃないんだ」
「なるほどケットシーね、それなら納得だ。それにしても…」
紅葉はワカバに向いていた体をラニーニャのいる方に戻し、舐めるように全身を見る。
「どうしたモミジ、エロい顔して気持ち悪いぞ」
「エロい顔なんてしてねえよ!! ただあれだよ、金髪猫耳少女が浴衣姿というのもなかなか乙なものだなとおもってな」
そんな話をモミジとワカバがしていると、ラニーニャは猫耳をパタパタと動かし喋り始める。
「モミジ殿、ワシは少女と呼べるほど若くないぞ。今年で40になるからな」
ラニーニャのその言葉に、モミジだけではなくほかのみなも驚いた。
ラニーニャの見た目はどう見ても少女であり、40歳になどどう見積もっても見えないからである。
「驚いくのも無理はない。ケットシーは人間よりも青年期が長いのでな、歳を重ねてもあまり見た目に変化はないのだ」
ラニーニャは笑い、また猫耳をパタつかせた。
「この町は我々ケットシーの一族が代々守ってきた。ケットシーは生命力が強く長寿で知られる人種、しかし、繁殖力が人間に比べて低くてな、だから青年期が長いのだ、子孫を残すためにな。しかし、今では町に残るケットシーも私と夫と娘だけになってしまった。だから君たちのちからを借りなければならないということだ」
「なるほど、あなた方だけでは手に余る事態ということですね。しかし、ラニーニャさんはランク8の上級勇者でしょう。モンスター程度ならあなただけでもなんとか出来るのでは?」
ワカバはそうラニーニャに問いかけた。
「それは無理なのだ」
ラニーニャは即答でそう答えた。
と同時に、ラニーニャは懐から一枚の写真を取り出した。
「これはこの町から100Km離れた山間で撮られたモンスターの写真だ」
その写真に写っていたのは、身の丈が山の頂上ほどもある獣の姿だった。
その姿は虎のようでもあり、ライオンのようでもあり、また熊のようでもあった。
「こいつはデカイな」
「確かに、ここまで大きい獣は見たことがない」
「ハハッこれはヤバイな、規格外や」
「……………」
勇者一同もその写真に写る巨獣に驚きを隠せない様子だ。
「写真から推測されるこの獣のおおきさは500メートル強、モンスターの種は不明だが、おそらくランクS相当の猛獣だ。ワシだけではとても手に余る」
「西からはランクS相当の猛獣、北からは騎士団長クラスの上級悪魔2人、なるほどこれで挟み撃ちというわけか」
「む!? ソロモンの悪魔がきているのか? それは聞いていないぞ。ということは、悪魔とモンスターは仲間ということか?」
紅葉にそう問いかけラニーニャ。
「ああそうだな、奴ら軍を率いる代わりにとんでもねえバケモンを用意しやがったってわけだ」
ガハハっと、紅葉は豪快に笑う。
「笑いごとではないぞ紅葉殿!! このままでは詰みだ!! 」
ラニーニャは血相を変え紅葉を怒鳴りつけた。
「ッ………まあ落ち着けって。こっちには俺だけじゃない、クロトラのおっさんがいるじゃねえかよ。なんとかなるって」
あたかも楽観的に話す紅葉だが、状況は絶望的だった。
それは紅葉にも重々わかっていた。
(ああクソ情けねえ、俺にチカラがあれば心配なんていらねえんだ、もっと圧倒的なチカラがあれば!!)




