不良参上
〜名もなき洞窟〜
「あなた達は、ここマリリアナ区で何をするつもりなの?」
悪魔化したリリムは魔王二人を睨みながらそう言う。
「あ…あの…そ、それは…その……」
魔王の一人ウィネは完全に萎縮している。
まあそれも無理ないだろう。
今のリリムはそれほどに凄まじい。
ウィネの様子を見兼ねて会話に割って入るサリエル。
「お言葉ですが、いくらリリムお嬢様でもそれをお教えすることは出来ません。この件に関して、あなたは部外者ですから」
サリエルはリリムを睨み返しながらそう応える。
ウィネとは違い、サリエルにリリムに対しての恐怖心はない。
(ふぅん…サリエルは流石と言ったところね。私の威圧を受けても涼しい顔でいる。これは一筋縄じゃいかないわね)
「軍団は連れて来ていないのかしら? あなた達二人以外の悪魔はいないようだけど」
この質問にはウィネが応える。
「こ、今回は軍の出撃はありません。此度の作戦において無数の軍は不要、むしろ足手まといなのです。それに…」
その先を喋ろうとしたところで、サリエルが話に割って入る。
「おいウィネッ!! 貴様はペラペラと喋りすぎだ!!」
殺気立つ声で、ウィネを睨みつけながらサリエルはそう言う。
「ッご、ごめん…」
「私からも一つ質問なのですが。リリム様こそ、こんな東の片田舎になぜいらっしゃるのですか?」
サリエルの質問に、リリムはほんの少し言葉に詰まった。
『今は超級勇者の元で一人の勇者として悪魔と戦っている』なんて、言えるわけがないからだ。
「…それは秘密よ、あなたに言える義理はない。まあ、言ったところで理解されるとも思えないし」
そう言うとリリムは、ニヤリと牙を見せ笑う。
「一つ、提案があるのだけれども…聞いてくれるかしらサリエル」
「…なんでしょう」
「今回のところは、私に免じて帰ってもらえないかしら?」
リリムの提示した内容は、二人の思うものとはまるで違うものだった。
なぜ、仲間であるはずのリリムがそんな提案をするのか。
その真意を、二人の魔王は理解できなかった。
「…そんな事、できるわけがないでしょう」
サリエルは強い口調でリリムの提案を拒んだ。
だがそれも想定内だ。
「…そう、なら今回は私はあなた達の『敵』ということね」
リリムは腰元に剣を召喚し手に取る。
「敵とはどういうことですお嬢様!?」
サリエルの問いには耳を貸さず、リリムは召喚した魔剣の刀身をサリエルに向ける。
「手負いのあなた達二人で、私の全力を耐えられるかしらね」
「リリムお嬢様ッ!!」
“魔剣よ我が魔力を糧として眼前の敵を滅せよ”
振り上げた魔剣をサリエル達に向け振り下ろそうとした…まさにその瞬間である。
ドゴォオオオオオンッ!!
洞窟の天井が突如崩壊し何かが落下してきた。
「ッこれは一体!?」
サリエルとウィネは一度距離をとった。
状況の把握ができていないサリエル。
しかし、リリムはこの状況をいち早く察し己を人の姿へと戻す。
降ってきたその者の魔力をよく知っていたから。
「ケホッケホッ!! だークソッ加減ミスっちまったぜ。こんなド派手な登場予定じゃなかったんだけどなあ」
土ぼこりが徐々に晴れ、その中から金髪で目つきの悪いあの男が現れる。
異世界からやって来た、噂の絶えないあの問題児。
不良勇者こと、葉隠紅葉ここに参上。
「よお久しぶりだなリリム。おれの好意で助けに来てやったが、お取り込み中だったかな」
紅葉は得意げな笑みを浮かべる。
そんな紅葉を見て、リリムはフゥとため息をつく。
「そうッスね、全くもって先輩はタイミングが悪いッス。今まさに私がこいつらをケチョンケチョンにしてやるところだったのに。紅葉さんのせいで距離を取られてしまいましたよ」
「ッハハ、そいつは悪かったな。まあそんなことはどうでもいい」
リリムの元に近づいて言う。
「ほら帰るぞリリム、皆が待ってる」
『帰る』と言ったのはあまりにもいきなりことだった。
当然のことながら、リリムは首を横に振った。
「イヤっスね、私はまだやることがあるんスよ。帰るなら先輩お一人でどうぞ」
「ハッ寝言は寝て言えよ。無理やりにでも一緒に帰ってもらうぞ」
紅葉は強引にリリムをお姫様抱っこする。
「ちょ…ちょっとなにするんですか」
ジタバタするリリム、紅葉はそれを万力の力で抑える。
その状態のまま、紅葉はサリエル達の方を見る。
「今は退かせてもらうが、お前らとは近いうちまた潰し合うだろう。まあそん時までにその身体は治すことだな」
そう言って、紅葉は両脚に万力の力を込め離陸体制をとる。
「せ、先輩…ちょっと待っ
リリムの声が紅葉に届くことはなかった。
紅葉はリリムを抱えたまま、脱兎のごとく何処かへ飛んでいった。




