知り合い
クロトラとワカバは目的地に向けて移動を始めていた。
お互いに何も話さず、目も合わせず、ただただ気まずく時間は過ぎてゆく。
「……………」
「…………………」
「…『久しぶり』ですねクロトラさん」
沈黙を破り、ワカバは口を開いた。
「…ん……まあそうやな。3年ぶりくらいか?」
返答を聞いて顔をしかめるワカバ。
「1年と半年ぶりですよ」
強めの口調でそう言う。
「…そうだっけ? 細かいところは覚えてへんわ」
適当なクロトラの返答に、ワカバの士気が下がる。
「…………ッハァ〜……」
深く深く、ため息をつくワカバ。
「相変わらず適当な人ですね、クロトラさん」
「ガッハッハ、まあそれがワシなんやから仕方ないやろ」
豪快に笑い飛ばすクロトラ。
「それで、今回は何が目的でこんな辺境へ?」
「……目的?」
「超級勇者であるあなたが、何の用もなくこんなところに来るはずないでしょう。とぼけても無駄ですよ」
「とぼけたわけでは無いんやけど…まあ目的というよりは『興味』やな。今噂のハルカの弟子とやらがどれほどのものか、会ってみたくなった。ただそれだけや」
「っえ?」
ワカバは少なからず驚いた。
超級勇者の一人であるクロトラが、ただの一勇者である紅葉に興味を持ったことに。
そして、それ以前に…
「クロトラさん、モミジを知っているのか?」
勇者モミジという存在を、勇者のトップが知っているということに、ワカバは驚いたのだ。
「当たり前やろ。南の国での一件、あれは衝撃的や。なんせ…ろくな能力も覚えてない駆け出しの勇者が、体一つでソロモンの72王の一人を倒したんやからな」
南の国での一件、おそらくそれは先の戦争のことだろうとワカバは考える。
その説明に、「たしかに」とワカバは納得するしかなかった。
ソロモンの72王を倒すとはそれほどのことだ。
功績だけでいえば、既に勇者でもトップクラスと言っても過言ではないだろう。
魔王を倒すことは、それほど困難なことであり、また名誉なことなのであり、驚天動地なのである。
(そう考えれば…知っていて当然か)
ニヤニヤとワカバを見るクロトラ。
「なんですかニヤニヤして…気色悪い」
気色悪いとそう切り捨てるワカバ。
だがそんなことは気にもしないクロトラ。
「ワカバ、お前はあいつ、モミジの何なん? ひょっとしてこれか?」
そう言って、クロトラは小指をたててワカバに見せる。
ワカバの頬が一瞬で真っ赤になる。
「ち、違う!! 誰があんな奴の…ッ」
全力で否定した。
「ガッハッハ、青春しとるのうワカバ」
まるで聞く耳を持たないクロトラ。
「違うと言っているだろうが。いくらクロトラさんでもいいかげん怒りますよ」
「はっはっ、すまん冗談が過ぎたわ」
少しの時間が過ぎ、クロトラは唐突に質問をする。
「ワカバ、お前はモミジについてどれほど知っている?」
そうワカバに問いかけるクロトラ。
「私も、そんなに長い付き合いではないですからね。モミジについてはほとんど知りません」
「そうか…じゃあ聞くがワカバ、お前はおかしいと思わんかったか?」
「…何がですか?」
「とぼけんなや、生身で魔王と渡りある程の剛力、脚力、敏捷性。人並外れたそのチカラに、なにも違和感を感じんのかと聞いとるんや」
確かに、生身で魔王と渡り合うチカラなんて通常あり得る話ではない。
それだけでも異常。
しかも勝ってしまうなんて更に異常…
常軌を逸している。
じゃあモミジのあのチカラは何なんだ?
困惑したワカバの思考は空回りし、複雑に感情が入り混じる。
「『異世界からの救世主』。誰もが知っているそのはなしは、もしかしたら本当なのかもしれへんな」
クロトラは不敵に笑いながらそう一言言った。
〜マリリアナB区〜
紅葉はリリムの元へと急いでいた。
「あと10km、大きな魔力が三つ。一つはリリムので間違いねえが、問題は…」
残りの二つの魔力にも、紅葉は覚えがあった。
だからこそ紅葉は休む暇なくリリムの元へと急ぐ。
「クソッ、リリムの奴、なんで悪魔と一緒に居んだよ!!」
そう、つい数時間前まで紅葉と抗戦していた二体の悪魔。
悪魔が、今リリムと共にいる。
「カハハッ、まったく世話の焼ける後輩だぜ!!」
紅葉は更に強く、地面を蹴りつけ加速するのだった。




