悪魔のお姫様
「…おい、リリムいねえじゃん。どこ行ったんだあのアホ」
ワカバとリリムはいつも一緒だ。
一心同体とでも言おうか、とにかくいつどんな時も一緒。
以前リリムが「私たちは二人で一つのツーマンセルなんス」などと言っていた。
それを聞いた時は言い過ぎだと思ったが、今はあながち間違いではないとも思っている。
「…偵察してくるとか言って、数時間前に出て行った」
「偵察…なんで?」
「知らん! 最近のアイツは挙動不審で何を考えているかわからん」
「…心配だな、アイツアホだからなおさら…」
紅葉は人の心配などしない。
だがこの時ばかりは、直感的にリリムのことが心配になった。
紅葉でさえ、自分がなぜこんなにもリリムを心配に思っているのかはわからない。
わからない…が、妙な胸騒ぎがする。
(悪魔と戦ったばかりだからか?本当に…それだけなのか…この胸騒ぎの原因は)
〜マリリアナ区とある名もなき洞窟〜
手負いの二人の悪魔は、そこで傷の手当てをしていた。
二人のうち、特に酷いのはサリエルの火傷だ。
からだの火傷は体表の四割にも及んでいた。
人間ならとうに再起不能なレベルの火傷だ。
しかしながら、悪魔の治癒力はだててはない。
四割近い火傷も、すでに全体の一割程にまで回復していた。
あと一日もすれば傷は完全に癒えるだろう。
「…私が悪魔で助かったよ。人間だったら死んでた」
「まあ…確かにね」
自分が悪魔である事に感謝し、サリエルはそうつぶやく。
(それにしても、あの人間はいったい何者だったんだろう。たったの一撃で私にここまでの深手を負わせたあの勇者…あんなのチートだわ)
「フフッ…部様だよね私、たったの一撃でこの有様じゃあね」
「…部様なんかじゃないよサリエル。あの大男の勇者が来たのはイレギュラーだ。あれの邪魔さえ無ければ」
「邪魔さえなければ、勇者モミジに勝てたって…言いたいんスか…ウィネ」
「…ッッエ!!?」
突如として、第三者が話に加わった。
第三者、その正体はリリムである。
二人がリリムの存在を確認した瞬間、リリムは大剣を右手に召喚しウィネに掴みかかった。
「…ッエ…ウソ…何するの!?
おまりの突然の出来事に、ウィネの反応が少し遅れた。
「動かないで。動いたらその首が体から離れるなんてことになっちゃうスよ」
「………ッ!!」
リリムは己が剣をウィネの首元にあて、耳元でそう呟いた。
ウィネは刀身の冷たい感触を感じ、ゴクリと生唾を飲み込む。
(全く気づかなかった。それにこの女いったい何者? 私の名前を呼んだ…どうして私の名前を知ってるの!?)
「誰かと思えば、あの時のお嬢ちゃんじゃない。どうしたのこんなところで…迷子か何かかしら?」
冗談めかしてそんな事を言うサリエル。
それを聞いてフンッとあざ笑うリリム。
「いやいや、私はあなたに用があってきたんスよ。ソロモン七十二柱支団第八軍団長…『魔眼の炎姫サリエル』、及び第四十軍団長『風姫ウィネ』」
………何だとッ……!!
「ッあなた…一体何者!? どうして私の名前を…!?」
サリエルが驚いたのは自分の名をこの勇者が知っていたことである。
悪魔の情報は極めて少ない。
それは情報を集める手段が無いに等しいからだ。
名前すらわからないという悪魔も多い。
しかし、サリエルの目の前にいる者は名前を知っていた。
知っているが故に異常事態なのだ。
「どうして名前を知っているか…タネを明かせば簡単なこと…私が『人間じゃない』からッス」
次の瞬間である。
大気が震え、洞窟内が揺れる。
リリムを中心とし、魔力が渦を作り一点へと凝縮する。
その衝撃で辺りを吹き飛ばし、巻き込まれたウィネも地面を転がる。
「ふぎゃあああああああァ!!」
まるでボウリングボールの様にコロコロと勢い良く転がるウィネ。
「…この魔力はまさか!?」
その魔力に、サリエルはハッと気づかされた。
そして確信した、この者がなぜ自分たち悪魔の名前を知っていたのか。
「…え、てかうそ…マジで!? リリムお嬢さま!!?」
渦巻く魔力が四散し、中から一体の女悪魔が現れる。
白髪の髪に真紅の瞳。
その姿は気高く、そして美しい。
高貴なオーラを纏い、悪魔のお姫様はここに降臨した。




