三人の最強
「*******」
男の能力演唱が俺の耳に届く。
「消し飛べ…『炎王爆烈陣』!!」
男周りの空間が歪んだのが見えた。
その瞬間、男から生じた『何か』があたり一帯を消し飛ばし、紅葉を巻き込んだのは刹那のことであった。
午前5時34分
〜苔の密林〜
ふと気づくと、青みがかった空が広がっていた。
朝だと、紅葉はただ漠然とそう思った。
……朝…だと? どういうことだ?
俺は悪魔の女と戦っていた。その時はまだ夜だったはずだが…。
もしかして、気を失って…
「よう少年、気がついたか」
結構近いところから野太い声が聞こえた。
声のした方へ目をやると、あの大男が立っていた。
突然と現れたこの男。
紅葉はこいつのたったの一撃で気絶した。
こいつはいったい、何者だ?
「すまんな少年。能力の制御を間違うてなあ、君ごと吹っ飛ばしてしもうたわ。しかも、残念なことに敵さんには逃げられてしまったわ」
ガハハッと豪快に笑う大男のおっさん。
いやいや笑い事じゃあねえだろ。
とツッコもうと思ったが、やめておこう。
今するべきことではない。
「おっさん…何者だ? 敵か…それとも味方か?」
紅葉はそう質問した。
この男が何者なのか、敵なのか味方なのかなどの確認、これは現時点で一番必要な情報の一つである。
ポリポリと頭をかき、男は少し呆れ顔でため息を吐く。
「…言うたやろ少年。君を巻き込んでしまった、敵さんには逃げられてしまった、てな」
「………」
(確かに言ってた…かも)
この男の話が本当だとすれば、敵さんとはあの悪魔のことだろう。
それに、この男が敵なら紅葉が気絶している間に殺してしまえばいい話。
ならやっぱり、こいつは本当に味方?
だが本当に信じていいのか?
紅葉に何らかの利用価値があって、生かしているだけという可能性も0%じゃない。
一定の距離をとったまま、紅葉はその男を睨み続けた。
「安心しろモミジ。その人は敵じゃない」
とても聞き覚えのある声がした。
「…なんだワカバか、お前いたのかよ」
そこに立っていたのは黒髪の美しい少女。もとい幼女、ワカバだ。
「いたよ! ずっと貴様の周りをチョロチョロしてたよ!」
少し泣き目でそう怒鳴り散らすワカバ。
チョロチョロしてたってなんだよ。
ていうか、こいつなんで少し泣き目なんだ?
「お前、なんで泣いてるわけ?」
そう問いかけると、ワカバはムッとしかめっ面になる。
「……貴様があまりもに私に気づいてくれないから…その…悔しかったのだ」
うわっ何その理由、超カワイイ!
「…ッハハ。いつもお堅いワカバさんにしてはカワイイ理由ですこと」
思わず、いつもの憎まれ口が出てしまった。
「……ッ!!」
「……あっ、ヤバイ」
後悔先に立たずとはこの事だ。
堅物のワカバのことだ、こんな事言ったらどうせ殴りかかってくるに決まってる。
(…まあいいや、これもコミュニケーションの一つ、そう考えよう)
「かッかわい…わたしが…カワイイだと! それわ…その……あの」
(…あれ…なんか思ってたのとちがうな。
なにこの乙女な反応、ギャップ萌えでも狙ってんのか?)
顔を真っ赤にしたワカバは、まるで雑念でも振り払うようにブンブンと首を振る。
「ふ、ふん! 可愛らしさなど私には不要だ」
そんな可愛げのない事を言い出した。
「不要か…まあいいや。お前が不要だってんなら不要なんだろうぜ」
「不要だ、可愛さなどお飾りに過ぎん。私には必要ないのだ。勇者たるもの馴れ合わず、孤高で無ければならんのだ」
そうキッパリと言い切った。
しかし……
なぜだかはわからないが、そのときのワカバの顔は、紅葉には少しだけ…さみしそうに見えたのだった。
「…そんで、なぜこのおっさんが敵じゃないなんてわかんだよ。知り合いか?」
「いや、会ったのはおろか話したのも今日が初めてだ」
「初対面なのか? じゃあなんで」
「顔と名前はよく知ってるよ、勇者なら誰でもな。逆に貴様がなぜ知らないのか疑問なくらいだ」
「ウッセーよほっとけ。んで、このおっさんは結局誰なんだよ」
紅葉がそう問いかけると、ワカバは素直に答えた。
「この方は、世界に3人しかいない超級勇者の一人、クロトラ殿だ」
紅葉は少なからず驚いた。
ハルカと同じ超級勇者。
それは現時点で世界に3人しかいない、『人類最強』の3人。
「イヤーそないに立派な自己紹介、ワシ恥ずかしくなってまうわ。それに『クロトラ殿』なんてなんか性に合わんわ。ワシのことはクロトラさん、もしくわクロちゃんて呼んでな」
(これが超級勇者? このエセ関西弁のおっさんが? このとぼけたおっさんが!?)
あまりの予想外。
目の前にいるこのおっさんが、あごひげを生やし、下手をしたら街中でラーメン屋でもやってそうなこの中年が超級勇者。
あまりにも威厳がなさすぎて、紅葉も逆に心配になった。
「おっさん…そんなんでいいのかよ!?」
「…なにが?」
「いやすべてが…」
「………」
この時、クロトラの心が少しだけ折れたことは誰も知らない。
そしてこの場に、リリムがいないという事に紅葉が気づいたのは、こんな会話の数分後だった。
〜中央部隊第一級本部〜
その日は、朝から非常事態サイレンが鳴り響いていた。
「おいどうなっている!? 朝から何事だ!!」
部隊長と思われるヒゲを蓄えた男はそう怒鳴り散らす。
「緊急事態発生! 『中央部第一魔術図書』より、禁書が盗まれました!!」
「何だと!? あのセキュリティを…いったいどうやって」
部隊員たちが驚いたのは、禁書が狙われたという事より、むしろ禁書が盗まれたという事実である。
禁書が狙われる事は決して珍しくない。
頻度でいけば月一で狙われる。
禁書が狙われた数はここ10年の間で100回以上。
魔術師やテロリストや、はたまた悪魔。
多様な手口で約百年もの間狙われ続ける禁書、しかしながらただの一度も禁書が盗まれた事はない。
究極のセキュリティ。
ある一人の勇者の能力、百年もの間禁書を守り抜いた『絶対探知能力』。
「いったい何者なんだ? 侵入すら不可能に近い禁書の部屋から本を盗んだのは!?」
〜中央区繁華街一区〜
まだ店も開かない朝日と差し込む繁華街の裏路地、ハルカとチルそしてジルマの3人は呼吸を乱しお互いの顔を見合わせる。
「…はぁはぁ…ジルマ、君なんのつもりだい!?」
ハルカがそう問いかける。
「…はぁはぁ…あ? 何が?」
「どうして私たちに力を貸したかだよ。下手をしたら君だって犯罪者の片棒を担ぐかもしれないんだぞ」
強めの口調でそう言う。
「…ははっただの気まぐれさ。会議でハルカのあの話を聞いて興味が湧いた…ただそれだけだよ」
「そんな軽はずみな」
「ああもうしつけえなお前は、別に俺の勝手だろ 俺は俺の意思で勝手に行動したんだ。お前にとやかく言われる筋合いわねえよ」
ジルマは強くハルカを睨みながら言った。
そんなジルマを、ハルカも呆れ顔で見つめ返す。
「…はぁ、なんだか君…紅葉と似てるね。身勝手なとことかさ」
確かにと納得した様子で、横で話を聞いていたチルも首を縦に振る。
「知らねえよそんなの。とにかく…移動するぞ、弟子たちのもとに向かうんだろ。送って行ってやるよ…俺の能力でな」
そう言うとジルマはスッとしゃがみ込み、背中をハルカたちに向ける。
ジルマは送ってやるなどとぶらり散歩気分で言っているが、この都市から紅葉たちのいるマリリアナ区までは直線距離にして、北海道から九州までぐらいの距離だ。
「乗れよ二人とも。お前らでもマリリアナ区までは二日はかかるだろ。でも俺なら『半日』だ」
「半日…か」
『神速』の通り名はだてじゃないなと、少しだけジルマを感心するハルカなのだった。




