ミッション
時刻と場所は戻る。
〜苔の密林:中心部〜
「…クソが! この数を避けきるのはさすがに骨だぞ!!」
数にして数百はあるだろう。
個々の威力はそれほどでもないが、もしこのうちの一つにでも当たれば他の火炎弾を避ける事はまず不可能。
つまり、迫り来る火炎弾の一つにでも当たればそこでジエンド…俺の勝ちは絶望的だ。
突っ込んで火炎弾をブチ抜くか?
いや、ダメだ…リスクが大き過ぎる。
ブチ抜けなかったらそこで終わり、仮にブチ抜けたとしても敵のいい的になっちまう。
…ハハッ、マジ手詰まりだぜこりゃ。
いやいや笑ってる場合じゃねえよな!!
どうすんだよッマジ!!
どうする…どうする…どうすんのよ!?
焦りを感じる俺を見て、あの女はニヤリと笑った。
「ッフフどうやら手詰めのようね。さようなら…虚弱な子犬ちゃん」
こいつ完全に俺の事バカにしてるよな。
ここぞと言わんばかりのドヤ顔しやがって。
ちくしょう…ちくしょう…ちくしょう!!
ちくしょうッッッ!!!!
万事休す、絶体絶命。
こんな時、普通なら走馬灯をしたりするのだろうか。
そんな事を考えながら、俺は目を閉じて耳をすます。
その行為に、何か考えがあったわけではない。
それは自然と行った行為だった。
サワサワと、樹々が夜風に揺られる音がした。
心地よい夜風を感じながらも、どこか不気味さを感じて、何かの気配を感ずる自分がいた。
カラン…コロン…カランコロン…カラッ…。
下駄の音がした。
「いやー綺麗やのう。まるで夜空に咲く花火のようや」
ッッッゾクン!!
全身に悪寒が走った。
ただ立っているだけなのに、その凄まじい威圧感に全てが飲み込まれてしまいそうだった。
俺は直感した。
敵味方は度外視にして、アレはヤバイ。
存在自体が常軌を逸している。
すぐそこまで火炎弾が迫っているのに、その正体不明から目を離すことができない。
「ッフハァ! 花火や思たら炎弾か。綺麗キレイ言うてる場合ちゃうやんw」
正体不明のその男は、夜空を見上げ笑うのだった。
〜中央の国:本部〜
妖精チルはパタパタと羽を羽ばたかせ本部内を、役員と共に移動していた。
そこにハルカの姿はない。
というのも、それはハルカが現在、会議に出席していることによる。
ごく限られた少数の勇者で不定期に行われる勇者会議。
部外者の立ち入り禁止はもちろん、上位の実力者でも会議に参加するのは難しい。
ハルカの連れであるチルも例外ではない。
「会議は半日ほどかかりますので、一度お部屋に戻られてはいかがです?」
付き添う男はそうチルに勧めた。
「そうするのです。見知らぬ土地で一人行動、…とても心細いのです。なのであまりウロチョロするのはやめといて、さっさと部屋に戻って寝てるのです」
そうあえて口にだすチル。
「わかりました。何かあったらフロントに連絡ください」
この、妙な説明口調にも、チルなりの理由というか裏がある。
しばらく歩くと、チルの泊まっている一室についた。
「では…私は失礼しますが、何か要望などはありますか?」
「いえいえ、大丈夫なのですよー」
「左様ですか…ではこれにて」
チルは男のすがたが見えなくなったのを確認してから、ニヤリと笑った。
(…にししし。ついに一人になれたのですぅ。これで目的を果たすことができるのですぅ)
今よりほんの二時間前、チルとハルカのあいだで、こんな会話があった。
「チルちゃん、僕が会議に出ているあいだに、君には別のミッションをこなして欲しいんだ」
「別のミッション…ですか?」
「そう、別のミッション。君にしかできない特別なミッションなんだ。受ける気はあるかい?」
少しの間を置いてチルは答える。
「…まあ、その内容にもよるのです」
「ミッションとは言っても簡単さ。図書館から『禁書』を一冊盗んで来てもらうだけ」
「ハルカさん、あなたはミッションとか言って私に盗っ人の片棒を担がせる気なのですか!?」
「ええ? どう考えても簡単でしょう」
ハルカは、そんなとぼけた態度を取る。
「どう考えたら簡単なんですか!?」
「だって禁書を盗み出すだけだよ。人を一人殺せとか、S級モンスターに勝てだとか、そんな事は言ってないじゃない」
「ハルカさん、あなたは禁書がなにかわかっていないのですか? 持ち出すことはもちろん、読むことさえも制限されている危険極まりない本なのですよ。そんな本を盗み出せなんて、死ねと言っているのと同義なのです!! いくらハルカさんでもそのお願いは聞けません。諦めてください!!」
この時点でハルカの依頼を受ける気などは、チルにとっては微塵もなかった。
しかし、次のハルカの一言が、チルの考えを変えた。
「…紅葉君とデート」
「………え?」
「…もし、このミッションを受けてくれるなら、君に紅葉君と一日中二人きりでデートできる特権を許そう」
チルの息が乱れる。目を見開き口をパクパクさせる。
動揺しているのはあきらかだ。
思惑通りと、ハルカはそんな様子のチルを見てフッと笑った。
「まあ、嫌なら仕方が無いかな〜。無理強いはできないよ〜。そもそも紅葉君とのデートなんて報酬にならないか」
わざとらしく、ものすごくわざとらしくチルをあおった。
「……詳しく…話を…聞かせてほしいのです」
そんなわざとらしいあおりにも、素直な心でのってしまうチルなのだった。




