下駄の音
〜苔の密林外周1km地点〜
リリムとワカバは紅葉の元まであと少しのところまで来ていた。
ここまで来ると、戦いの様子を確認することができた。
「な! 何だよアレは!?」
二人が目にしたのは、夜空に浮かぶ無数の火の玉だった。
「さっきの悪魔の能力か? 流星群…いや火の玉、火炎弾か?」
ワカバは明らかに動揺する。
得体の知れないものを見たり、もしくはそれに遭遇した時、人は混乱をきたす。
今まで経験したことのないもの。
その混乱は、恐怖からくるものなのである。
幾多の試練を乗り越えてきたであろうワカバも例外ではない。
上空に、数え切れないほどの火の玉がどこからともなく急に出現したのだ。
そんな経験一生をとしてもないだろう。
ワカバが動揺するのも例外ではなく、仕方が無い事。
しかし、そんな中でも例外が1人。
「…あの技、まさか彼女が出張ってきているのか」
冷静に火の玉を見つめ、リリムは言った。
「…え?」
ワカバは、リリムの言動に少なからず疑問を感じた。
(あの技はサリエルの“爆眼”。これはマズイことになったスね。先輩とサリエルとじゃあ相性が悪過ぎる)
「ワカさん急ぎましょう! 先輩が危険ッス!!」
リリムはワカバにそう呼びかけその場から走り出す。
ワカバはそんなリリムの様子に不信を感じる。
(さっきまであんなに冷静だったのに、なぜリリムはここまで焦る? それにリリムはさっき、あの悪魔を知っている様な口ぶりだったよな)
ワカバの頭に、一つの考えがふっと浮かんだ。
ーリリムは何かを隠している?ー
〜苔の密林:中心部〜
それは、紅葉とサリエルが戦いを開始する直前くらいまで遡る。
カラン…コロン…カラン…コロン…
着崩した袴に木の下駄を履いた身の丈2mはゆうにあろうかという見た目三十半ばほどの大男。
その男の名は『黒虎』。
この異世界において、その男の名を知らない者は珍しい。
カラコロと、下駄の音が闇夜のした響く。
下駄の音はどこか不気味で、またなぜかその音に聞き入ってしまいそうで、神秘的だった。
「…あらら? なんやここさっきも通った道ちゃうかなー…もしかして、俺迷うてる?」
その男は…迷子だった。
「森やら密林やら知らんけど入り組み過ぎやでホンマ。ほぼ半日歩きっぱなしで流石に疲れたわ」
ガハハと、呑気に笑う黒虎。
ゴゴゴゴゴ…。
地震か? と、黒虎は地面に目をやった。
十秒ほど揺れ、黒虎はさほど気に止めずまた歩き出した。
分かれ道に差し掛かった。
「ん〜どっちがええかなぁ、気分的に右なんやけど、そこをあえて左にいくのもありかもなぁ」
道の真ん中に突っ立って、ブツブツと一人で呟く。
「よっしゃ! ここは気分に任せて右で」
体を右に向け、右の道へと歩く。
ゴゴゴゴゴゴゴ…
また大地が揺れた。
ちなみにこの揺れは自然現象の地震ではない。これは紅葉とサリエルの戦いの衝撃が半径1kmにわたって影響を与えていることによる。
(しかし…今日は地震多いなぁ。強い魔力も感じるし、それと関係があるかも)
(魔力は二つ、どちらも世界最強クラスか…)
「…おもしろそうやから行ってみるかな? 俺の『仕事』とも関係はありそうやし」




