魔の眼
「いくぜ、この野郎!!」
「ええ、きなさいこの野郎」
グッと、紅葉は両足に力を込める。
女との距離は50m程だろうか。
そんな憶測を頭の中でして、紅葉は地面を蹴り上げる。
刹那、女は後方へ蹴り飛ばされた。
「なッッッ!!?」
動揺が声となり現れる。
木々をなぎ倒し、地面を削り取り、風を切り、女の体は勢いそのままに地に叩きつけられる。
ズドオオオオオオオオオオン!!!!
大地が揺れた。けたたましい轟音、大量に巻き上がった土煙があたり一帯に広がる。
ニヤリと、紅葉は不敵な笑みを浮かべる。
「手応えありだ悪魔嬢!!」
女はその場にうずくまり、口から大量の鮮血を吐く。
「ゲファッゲボッゴホッゴホ…い、痛い!!」
女の頭は混乱していた。
(痛い…ですって、この私が!? 地底、海底、火口、毒沼、海山、鋭山で修行を積んだこの私が『痛い』だなんてそんな事…あっていいわけないでしょう!!)
「はあ…はあ…はあ」
立ち上がったが、息がととのわない。
「おいおいどうした悪魔嬢。随分と苦しそうじゃねえか…まさか、人間ごときの蹴りが効いちまったわけじゃねえだろうなあ!!」
紅葉は明らかに見下した様子でそう言う。
悔しさのあまり、女悪魔はギリッと唇を噛み、血を垂らす。
「半人前の勇者が…調子に乗るなーーー!!」
女は限界まで両目を開眼した。
「魔の業火に焼かれ朽ちなさい!!」
“爆眼・乱れ花火”
女の魔眼は、紅葉を狙う。
どこからともなく現れた無数の火炎弾が、紅葉の頭上を襲った。
闇に光るその様子は、まさしく夜空に輝く花火の様である。
(すげえ数だなオイ。近接戦闘は分が悪いと踏んで、遠距離攻撃に移りやがったか)
「くそが! この数をさばき切るのは流石に厳しいぞ!!」
一方その頃、中央の国で勇者会議に出席するハルカ&チル。
勇者会議に出席を許されるのはランク7以上猛者ばかり。
その数は、全ての勇者の0.1%、100人にもみたない。
会議まであと10分。
ハルカとチルは会場へと移動を始めていた。
ヘラついている一人の男がハルカに手を振っている。
渋めの茶髪、重そうな鎧を着込み、容姿はまだ若いがその姿にはどこか風格を感じさせる。
「やあやあハルカ久しぶりだね。元気にしてた? それと、相変わらず小さいね」
「余計なお世話だよジルマ。君も相変わらずのようだね」
ハルカはそう言って少し笑った。
二人の様子から、チルは二人が顔見知りだと判断できた。
「ハルカさん、そちらの方は?」
チルがそうハルカに問う。
「ああごめんね、紹介するよ。この人は『超級勇者』のジルマ。私の友達だよ」
世界にハルカを含め3人しかいない超級勇者。
この男はそのうちの一人だった。
「超級勇者ジルマ!? 知ってるのですぅ。あなたがあの有名な『神速のジルマ』なのですか?」
『神速』…その呼び名には幾つかの理由があるのだが、それはおいおい語られるだろう。
「…ん?」
ジルマがハルカの肩にいるチルの存在に気がついた。
「うわー妖精さんだー! ヤバイ超可愛いー!
ねえねえ触ってもいいハルカ。小さい体サワサワしてもいい!?」
まるで、カブトムシを見つけた少年の様に目を輝かせるジルマ。
「…え?」
チルにとってこれは予想外の反応だった。
しかし…
「…はあ。本当に、相変わらずだね」
ハルカにとっては予想通りの反応だ。
「ごめんねチルちゃん。こいつはロリコンの小さい物好きの変態なんだよ」
「小さい物好きのロリコン!?」
まるでチルのためにあるような項目である。
「ねえねえ妖精さん、会議が終わったらデートしようよ! 優しくするからさあ…ねっ!!」
強引にそう言いよるジルマ。
そこにはもう、風格さえ感じさせた超級勇者の面影は無かった。
そこにいたのは、ただの一人の『変態』だった。
チルは直感した。
(この人はやばい。この人は割とガチでヤバい方の人だ)
ヌッと、ジルマはチルに顔を近づける。
「はあ〜可愛い、その小さい体クンカクンカしたい! スーハースーハークンカクンカ、クンカクンカクンカ!!」
ジルマの顔は見るからに至福の様子だ。
「ひううッ!!」
小さな体を震わせ、可愛らしい悲鳴を上げるチル。
「あはは!! 悲鳴なんかあげて可愛いなあ」
まさに下衆のような一言である。
「やめなよジルマ怖がってるだろ!! 」
「ねえねえ、妖精さんは何か好きな食べ物とかある? それを食べに行こうよ! その後の事は後々考えるとしてさー」
ポカンと、ハルカがジルマの後頭部を叩いた。
「話を聞けこの変態が!!」
「ッ痛いなー! ッんだよハルカ!!」
ジルマは頭をさすりながら、ハルカを睨む。
「何だじゃないよ! 怖がってるじゃんどう見ても!」
「はあ〜!?」
空気がピリッと殺気立つ。
「なんで、俺の頭を殴ったんだハルカ」
「分からず屋の変態にはこれぐらいしないとダメだろ?」
険悪ムードが続く。
静寂の中、チルは焦りを感じる。
こんなところでこの二人が喧嘩するようなことがあれば、その被害は計り知れないだろう。
それだけはダメだと、チルは身を鼓舞する。
「あ、あの〜」
張り詰める空気の中、チルは恐る恐る口を開いた。
「で、デートくらいなら…してもいい、ですよ…」
チルは複雑そうな顔でそう言うのだった。




