悪魔
紅葉の後頭部を、凄まじい衝撃が襲った。
何が起こったのかわからず、紅葉はそのままぶっ飛ばされた。
「悪いわね狂犬君、この戦い私も混ぜてもらっていいかしら?」
透き通るような気品ある声が紅葉に問いかける。
その声の主、それは先刻までリリムとワカバをもてはやしていたローブを羽織った女。
「…誰だてめえ、人の喧嘩に茶々を入れやがって。…死ぬ覚悟は、できてんだろうなァ!!」
突如現れた謎の女。
そんなものもろともせず地面を蹴り、突撃する。
近くにあった大木を掴む紅葉。
大木は、メキメキと悲鳴を上げ、まるで雑草でも抜かれるかのごとく、いともたやすく地面から引っこ抜かれる。
そして、槍投げの要領で2トンはゆうにあろうかと思われる大木を投てきする紅葉。
大木の速度は、当然常人の目で追える代物ではない。
「はわわわわ! こっちに飛んでくるー!!」
慌てふためくちっちゃい方のローブ女。
大木との距離は既に百メートルもないだろう。
「この距離でその速度の回避は不可能だぜ」
紅葉はそう言った。
それを聞いて、もう一人の女は不敵に笑った。
「フフッ、回避できないのなら『相殺』してしまえばいいじゃない」
「ああ?」
女は高速で飛んでくる大木に対し拳を突き出す。
拳と大木の接触面でバチバチと力がぶつかり合い、力の対立が衝撃波を生み出す。
しかしながら、その力は決して対等な物ではない。
一方の力がもう一方を上回り、破壊しまた破壊される。
「あら? 意外と大した威力じゃないわね。これなら、相殺する必要もなかったわ」
女の一撃は、大木を木っ端微塵に破壊した。
女は辺りを見渡す。
しかし…。
「………!?」
紅葉の姿はどこにもなかった。
大木を破壊した刹那、紅葉はすでに女の背後を取っていた。
投げつけた大木はフェイク、本命は直接的な近接戦闘へ持ち込むことである。
「やるじゃんお前、じゃあ…これならどうかなぁ!?」
ズドンッと、紅葉の拳が女の腰元にめり込んだ。
「グフッッ!!」
「おおおおらああああ!!」
殴った、そして最初のお返しだと言わんばかりにぶっ飛ばした。
数々の敵を葬ってきた、必殺ともいえる紅葉の一撃が完璧に決まった。
死にはしないにしても、身体はまず無事では済まないだろう。
もはや、勝負は決したかのように思われた…。
「…フフ、アハハハハハハハハハハハハヒャハハハハハハハァ!!」
不気味ささえ感じるほどの、気色の悪い笑い声だった。
背筋が凍るような悪寒が走る。
女は、まるで何事もなかったかのようにスッと立ち上がった。
女にはこれと言った外傷は見られず、変化があるとすれば、ローブが少し土ぼこりをかぶった程度だ。
「…はあ…はあ、フフ…なかなか良い一撃ね、全く大したものだわ。生身でその腕力と脚力、流石はカラビアを倒した勇者モミジ」
「ッッッ!?」
(コイツ…俺を知ってんのか? それにカラビアの事も)
カラビア、その名を紅葉はよく知っている。
それは、以前紅葉が倒した上級悪魔カラビアの事に相違ないだろう。
「お前、俺を知ってるのか!? それにカラビアも」
「…ええ、私の仲間内ではあなたは有名人よ。カラビアも、小さい頃からよく知ってるわ」
(仲間内で俺が有名人だと? それにカラビアを知っているってことは…コイツら)
「お前ら…『悪魔』か」
「…ご名答、私たちは悪魔。私もこの子も、それぞれソロモン72柱を任せられている柱支団長の一人…」
女の自己紹介に言葉をかぶせる紅葉。
「お前らが悪魔だということなら、さしずめそっちのチビは『風の悪魔ヴィネ』とかか?」
「「ッッッッ!!」」
二人は驚きの表情を浮かべる。
それもそうだろう。
たったこれだけの、ただ自分たちが悪魔だという情報だけで存在を特定されたのだ。
冷静ではいられない。
(もしかして、この金髪君意外と博学?)




